暗黒封印編 白日の章
『フハハ! よーやく動ける!! 我は魔王! そこの古臭い顔の人間! お主よくやった!』
しまった、と思った。
俺は、公園に落ちていたフィルムケースを見かけ、懐かしさの余り、拾ってケースを開けた。そうしたら、中からポーンとフィルムが出て来て、魔王と名乗ったのだった。ああ、この時ほど、フィルムケースに硬貨を入れたい衝動に、後悔を持った事はないだろう。
ふわふわと浮くカメラのフィルム。喋るというよりは、正確にはフィルムから発せられたテレパシーみたいなモノが、俺の頭の中に直接届いている。
自分もいい歳になったので、これは年齢的な疲れから来る幻聴か、とも思ったが、その思案をかき消す様にフィルム魔王は、聞いてもいないテレパシーをガンガンと飛ばしてくる。正直うるさい。
『聞け、ここからが凄い所であるぞー。このダンスをな、短い動画に編集してアップしたところ、動画はなんと100再生に届き、我の動画の中では一番にバズったのであるぞ! フッフーン!』
無視しているとテレパシーの音量が大きくなるので、仕方なしに話を聞けば、この魔王は若く、能力は高いみたいなのだが、やってる事はわりとショボい。売れない動画配信者か、というツッコミをグッとこらえて、フィルムの姿になった経緯を聞くと、
『グヌヌ、あの雑魚おじさん勇者め! デジタルなら、封印されてもどうにか復元できたのだが』
デジタルがネイティブな若い魔王は、フィルムカメラというモノを知らず、それを使いこなす中年勇者にフィルムへ封印された様だ。
『この状態からどうにかデジタルデータに移行する方法は無いものか……お主その、……いや、あのおじさん勇者と同じ様な年恰好で加齢臭が出てそうなお主に頼ってものう』
ふよふよと心細げに浮かぶフィルムの様子を伺いながら、俺は快晴の空を見上げ、一つ思案する。
そして、フームと意味ありげな息を吐いた後、
「いや、カメラ屋でデジタルデータ化してるぞ。早く戻る為に、中身の茶黒いフィルムで飛んで行ったらどうだ。その巻き取られた状態から出るの手伝うぞ」
『なぬう!? それは誠か! ちょうど巻物の状態も窮屈であったのだ! 雑魚おじさんが手伝いたいというなら、許してやってもよいぞ! フハハ!』
テレパシーで戯言を叫んだかと思ったら、フィルムの巻き取りケースの中から、調子よく茶黒いフィルムの先をピロリと出してきた。やれやれと溜息をつきながらも、俺はその先を掴み、中からしっかりと引き出してやった。
晴天の下、太陽の降り注ぐ光が眩しい。昼下がりの公園で、俺は茶黒いフィルムを大きく掲げた。
このまま日光浴をしながら、ゆっくりとカメラ屋に向おうか。
そうしたら、この暗黒の魔王も、現像後は真っ白な魔王になって、少しは反省するかもしれないな。