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現実世界で平凡な俺。ぱーと4
メモに書いてあった住所は会社から徒歩で十分にたどりつく事が出来る場所だった。
携帯のナビマップ最強。
ただ、困ったことにそこにはビルが建っていて、メモには何階と明記されていない。
近くを少し歩いたが、住所としてはこのビルで間違いがなさそうだ。
集合時間も書いてないし、待たせてしまうと怖いので思い切ってビルに入ってみる。
なんかデジャヴ?
「いらっしゃいませ、お嬢様とのお約束でしょうか」
どうみてもビジネス街のビジネスビルだったのに、入ってみると高級ホテルの内装。
だだっ広いロビーにこれまた黒服さん。
忙しいですね、皆さん。
「はい、お嬢様からこのメモを頂いたのですが、何階かわからなくて」
そのメモがどんな効果があるか、ないと思われるが、それしか手がかりもないので見せてみた。
こんな紙で中に通されるのであれば、そんなセキュリティーがばがばで無理だろう。
「・・・。拝見しました。ありがとうございます。確かにお嬢様からのメモです。階数が書いていませんのは、このビル全体がお嬢様の所有であり、ある意味、階数はないのです。」
おいおい、この際、どんな理屈でこの紙がお嬢様のものかは聞くまい。
筆跡とか、特殊な紙質とか、特定の人しかわからない香水が掛かっているとかなんでもいい。
だが、このビルすべてがあの人の所有?
1%でも俺の給料に回してくれれば、俺も慎ましやかな生活ができるのに。
「お嬢様はまだ、ご到着されていないようです。いかがいたしましょうか。ゲストルームでお待ちになるか、先にお嬢様の部屋に入られるか」
いやいや!後者はまずいでしょう!
一般のクズが、スーパーお金持ちのお嬢様のお部屋で何をするかわかったものじゃなかろうに。
「非常に驚かれておりますが、それでもいいとお嬢様からうかがっております。ではゲストルームへご案内を致します。こちらへどうぞ」
「それでお願いします、お嬢様はことあるごとに誰かをここへ呼ばれるのですか?」
エレベーターを待っている間に、黒服さんと話しをしてみよう。
たぶん、この人はいい人だ。俺の感がそう言っている。
「とんでもありません。このビルはお嬢様のプライベートビルディングです。滅多な事ではお客様を招待されませんし、その場合は、専用のビルがございます。」
金持ち嫌い・・・
「ですが、お客様が初めてではありませんね。会長を初めとしてご親族の皆様や、ご友人をお一人お連れになられた事が御座います」
ここまでくると逆に冷静になれる、エレベーターに乗って、黒服さんが背を向けている事もあってか、考えをまとめられそうだ。
しかし、このエレベーターどこまで上がるのだろう。
「到着をしました、ゲストルームです。このフロア一体すべてがお客様のご自由にして結構です。お飲み物もあるものをお好きにお取りください。お好きなものがなければそちらの受話器を取ると私どもとすぐ、繋がります。ご用意致しますのでご遠慮なくお申し付け下さい。またこの一つ上、最上階がお嬢様のお部屋になっています。お嬢様からは許可が出ておりますので、よろしければお上がり下さい。」
体育館かな?と思うくらい広いリビング、何に使うかわからない骨董品。
ワインセラピーにソフトドリンク。
ダーツにビリヤードなどの娯楽室。
俺の部屋の5倍はあるバスルーム。
どこ?ここ、異世界?
「では、これで失礼致します、お嬢様はあと数時間もせず、ご到着の予定です。ご宿泊の準備もしてありますので、お時間の許す限り、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
・・・宿泊?まさか。
せっかくならと緊張でカラカラになった喉をソフトドリンクで潤す。
ビールサーバーもあってかなり興味がそそられたが、酔っぱらってしまってはかなり不味い。
それにしても、わざわざこんな所に呼び出して、俺からどんな話が出ると思っているか。
もし、これがそうでもない、与太話なら、完全に損だ。
そしたら俺は死ぬだけか。
俺は迷っていた。
真実を話すべきか、否か。
ここまでしてくれている以上、嘘はつきたくない。
この状況はそうさせない為の最上級の抑止力だ。
だが問題は、信じてくれるか、という点。
普通はしない、間違いなく信用などしない。
俺は携帯を取り出して、エリスへの連絡を試みた。
あれから返事はきていない、既読にはなっているから、電波の問題ではないだろう。
「エリス、会社の幹部から、何かを嗅ぎつけられて、話を聞かせろと言われている」
「どうしたらいい」
意外にもエリスからの返事は早かった。
「君の好きにしていいよ。それにこっちに来るって事でいいのかな?どうなのかな?」
「自分の聞きたい事だけ聞いてくるけど、こっちへの返事、まだ聞いてないよ」
すまん、エリス。
自分勝手な事はわかってはいるけど、現実世界の事もわかってくれ・・・。
エリスとのメッセージのやり取りの後、部屋の受話器から音がなった。
「はい」
「お嬢様がご到着されました、そのままお嬢様のお部屋にご移動頂けますでしょうか」
「わかりました、でも俺がエレベーターを使うとお嬢様が」
「ご配慮ありがとうございます、お嬢様には専用がありますのでご安心下さい。お嬢様のご趣味で高速でご移動が可能ですから、すぐにお会いできると思います。」
俺は先ほど使ったエレベーターのほかになにがあるのかと見たがわからない。
恐らくこのゲストルームにはつながっていないのだろうか。
エレベーターの乗り、一つ上の階のボタンを押そうとして、ここが34階である事がわかった。
ついでに上着も忘れてきた事も。
「遅いじゃないの」
もう居た。
割とすぐにエレベーターは来たし、連絡を貰ってもたもたした覚えもない。
なにせ上着を忘れるくらいには急いだつもりだ。
「しかも私の部屋で待っているように伝えたと思うけど、ごめんなさいね。きつく言っておくわ」
「いや、俺が遠慮したんだ」
危うく、いい黒服さんが餌食になるところだった。
こうなる事がわかっていて、それでも俺にゲストルームを使われてくれたのか。
黒服さんマジいい人。
「あらそう、で、早速話を聞かせてもらえるのよね」
ついに来た。
しかし、俺はもう決めてある。
真実を話そう。
それでだめなら、もうしょうがないじゃないか。