17
異世界でも平凡な俺。ぱーと12
追いつくかどうかギリギリなラインで俺を先導してくれるエリスを見ながらも
俺は心配事を考えていた。
アリアの事だ。
どう考えても、エリス達エルフ族に、ハーフとはいえ魔族の事、しかも俺の娘の話を聞くわけにもいかず、確認しようもないのだが、ハラハラしていた。
それにしても、この森の中を考え事しながら走れるなんて、俺はこんなにも運動能力が高かったか?
初めはエリスも驚いていたが、俺が走れるとみるやいなや、速度を上げやがった。
かなりギリギリなのだが、エリスは楽しそうだ。
「もう少しで到着だよ!あと少し頑張って!」
屈託のない笑顔。
天然か。
少しスピードを落としてもらいたくとも、声が掛けられる距離とスピードでもなく、
俺は精いっぱい走るしかない。
エリスはというと魔法を使っているのか、しっかり声が聞こえる。
「到着だ!」
見たことのある風景だった。
この異世界に来て、初めてたどり着いた人里。
長い時間滞在したわけではないが、それでも思い入れのある里だ。
エリスは手荒な真似はしないと言っていたが、心配である。
ムジュラであるエリス達は正面から堂々と里に入れるわけでもなく、
里が一望できる小高い丘で、一旦小休憩を取る。
明日の朝一番で俺の出番らしい。
まずは俺が里に帰還する、その道すがらムジュラに助けられたという設定だ。
エルフたちは受入ないかもしれないが、俺を里に連れてきた事で、
許されないまでも、今までよりは関係が修復する目論見らしい。
たかが俺一人で解決できる因縁ではないようにも思ったが、この人達がそう考えたのであれば、俺が口をはさむ必要もない。
それよりも、俺はこの世界に来て初めての自分の子供、エミリアとの子供について考えていた。
里ではどんな扱いを受けているのか、名前はなんというのか。
考えだしたらキリがないくらいあるが、以前の里での俺への対応を考えると、そんな悪い扱いではないのではないかとか、タカをくくっている。
眠りにつくその瞬間にエリスから話しかけられた。
「ねえ、君の子供についてなんだけど、誰かから聞いたかな」
まるで俺の頭を覗いたかの様に質問をしてきた。
「いや、というよりもエリス以外と話をした記憶がないな」
完璧な情報統制なのか、それとも得体のしれない異世界人に話しかけるやつなどいないのだろう。俺もそちらの立場なら同じだろう。
「そっか、知っている限りを教えてあげたいけど、まず自分の目でみた方がいいかもね」
含みのある言い方だった。
エルフは長寿な生物で、成長過程が他種族と比べて緩やかだ。
かと言っていつまでも子供だとは思わないが、少なくてもアリアのような魔族スピードで成長はしていないだろう。
体感では1年から2年位の経過だろうから、赤子である事に違いはない。
きっとエリスの言い方から察するに普通ではないのだ。
それが身体的な物なのか、精神的なものなのかわからない。
しかし、心の準備が出来る。
「エリス、ありがとう」
なぜ感謝されたのかわからない風のエリスだったが、深くは追及せず。
「じゃあ明日ね。もう急にどっか行かないでよ?」
それについては、俺自身も同意だ。
そして夜が明けた。
☆☆☆ エルフの里 郊外 ☆☆☆
「やっとここまでたどり着いた…」
お父様を追いかけて、どれくらいの時間走ったかわからない。
ヒューマンの騎士との攻防を経て、ようやく振り切れたまではよかったが、お父様の痕跡を追う事がこんなにも大変だとは思わなかった。
お父様には伝えていないが、お父様の魔力は特殊だ。
色に例えると、通常が赤や青等とするならば、お父様はいろいろな色が混ざり合った色。
単色のオーラではない。
それがすごい事であるとお母様から教えてもらっていなければ、怯むか恐れていただろう。
正直油断をしていた。
あの特殊なオーラであれば、すぐにわかると決めつけていた。
お父様と特殊な関係になってからは、特に敏感になっていたからか、どこで何をしていても鮮明に感じる事ができたからだ。
「お父様からの愛が薄くなってしまったからか…」
お父様のお力は永続的ではない事はわかっている。
どんな種族でも、いつでも愛を受け入れる状態ではない。
しかしわからないわけではない、私はお父様の子供。
離れていてもお父様を感じる事が出来るはず。
微かなお父様の残り香を頼りにここまでくる事が出来た。
「お父様、もう少しの辛抱です。」
エルフたちの声を盗み聞きする。
どうやら明日の朝、お父様をダシに使って故郷に帰るだとか。
許す事はできない。
どれだけお父様にご負担をかけ、あまつさえ自己中心的な理由で利用をしようとする。
これだからエルフは浅ましいのだ。
特にエリスとかいうエルフ。
他のエルフはお父様の偉大さに気おされて、近づこうとしないが、あいつだけは違う。
メスの顔をしている。
「愛が薄くなっているのはお父様も一緒なのですね。でなければあの様な醜女にお父様がお心を許すはずがない」
早く行動を起こさなければ、姉弟の中に不心得者を出す事になってしまう。
しかしお父様の血が入っている時点で全てが許されるわけだけど。
でもでも、お父様があのエルフと関係をもとうものなら、やはり許すわけにはいかない。
頭の中で怒りを覚えながらも、冷静に状況を見定める私。
早くお父様にお褒め頂きたい。
確か、「…さすが、俺の娘だ」だったかな。
もう久しく聞いていない気がする。
タイミングは一瞬。
夜明けと共に、お父様を奪還する!
☆☆☆ ムジュラのテント ☆☆☆
朝が来た。
思いはたくさんあったが、驚くほどによく眠る事が出来た。
「俺って本当に情けないやつだな」
つい、いつもの癖で声に出してしまった。
「そんな事はありません、お父様はいつだって私達の英雄です」
聞きなれた声、俺には過ぎた娘、アリアだ。
驚いて声のする方に振り向いたが、テントの向こうのようだ。
「お父様、大変お待たせしました、不肖のアリアお迎えに参りました。お時間がかかった事、後でたくさんお叱りください」
「いや、すまない。俺が不甲斐ないばかりにアリアにはいつも迷惑をかける、ありがとう」
「お父様…。今すぐにでもその胸に飛び込みたい所ですが、場所が悪いです。退路を確保しておりますので、ご準備ください」
素直にアリアが無事だった事が嬉しい。しかし。
「すまないアリア、事情があってこのままエルフの里に入りたい」
その事情をどう説明するか迷っていると、
「…わかりました。お父様がエルフごときに遅れをとり、捕まったはずがないと思っていましたが、そうだったのですね。あえて捕まったふりをし、容易に里に侵入し蹂躙する為だったのですね!考えが足りず申し訳ありません。」
「あ…いや、そういうわけでは」
「アリアが必要になりましたらこちらの魔道具をお使い下さい。お叱り覚悟で一旦ドワーフの里にもどり、ご用意しました。」
そういうとテントの隙間から、笛のような道具を渡された。
「これは魔族にしか聞こえない音を出します、ここには恐らく私しか魔族はいませんので、安心してお吹きください。それでは待機いたします、お父様、ご武運を。」
本当に俺の子供か怪しい程出来た娘だ。
きっと母親が良いのだろう。
アリアとの邂逅が終わった瞬間、まるで会話が終わるまで待っていたかのようなタイミングでエリスが入ってくる。
「はいるよ!あ、もう起きてたね。君の寝顔でも確認しておこうかと思ったのに」
相変わらず屈託のない笑顔。
アリアとの会話の後だからか、何か罪悪感のようなものを感じる。
「…ありがとう。こっちを選んでくれて」
バツがわるそうにしていると、何か聞こえた気がして、聞き返したが、「なんでもないよ」だそうだ。
さて、久々のエルフの里だ。
エミリアと俺の子供に会いに行こう。
☆☆ エルフの里 ☆☆
当然といえば当然な騒ぎとなった。
まず俺が里に近づいただけで、何かしらのセンサーなのか、武装したエルフが飛んできた。
俺はありきたりな両手を挙げて、降参のポーズ。
敵意はない事、以前里に保護してもらっていた異世界人である事を出来る限り大きな声で伝えた。
もちろんすぐに信用してくれなかった。
早くエリスに来て欲しかったが、こない。
俺が本物である事が周知されないと出てこない段取りだからだ。
「お前、あの異世界人か」
俺からするとみんな麗しい美男美女で、まあ見分けがつかないわけだが、どうやらこのエルフは以前俺と会った事があるらしい。
「急にいなくなり、ずいぶんと探したぞ。どこに行っていた。いや、今はいい、早く族長のもとにいくぞ」
「待ってもらおう」
ここでムジュラの方々が登場。
聞いていた何倍もうまくいく気がしない登場。
そこからはムジュラが攻めてきたとか、異世界人がエリスに操られているとか、相当もめた。
というか、結構戦った。
俺は岩場の影に隠れていた、情けない。
しばらく戦闘が続いた後、族長が現場に出てきた。
族長とエリスが話をして、戦闘は解除。
一時的である事、里の一番端でテントを張る事になった。
族長には、魔族の国に行った事は言わず、なんか次元の何かで飛ばされて、気が付いたらムジュラの人に助けられたとぶっこいた。
それから、エミリアの話を聞いた。
俺が飛ばされてから、一人で出産をして絶賛子育て中。
周りの助けもあってすくすくと育っているらしい。
会うか?と聞かれたので、今すぐに、と答えた。
そして今、しばらく滞在した俺とエミリアの愛の巣に来た。
「久しぶりだ」
エミリアには何と声をかけたらいいのか。
急に居なくなって、ふらっと戻り、出産お疲れさん?最低だ。
などと考えていると中から声が聞こえた。
「お帰り、早く入ってきてよ。ずっと待ってたよ」
俺は飛び込んだ。
エミリアにはどんな話をしたか覚えていない。
とにかく疲れたのか、戻ってきた安堵からか、大量の涙が出てきた。
不安だった我が子も身体的な不具合はなさそうだ。
精神的なものかエミリアに聞いたが、
「髪がね、あなたと同じで黒いの。エルフと違うでしょ?エルフは髪の色にこだわるから」
だそうだ。
俺の子の名前は、フェルト。
エミリアが名付けてくれた元気な女の子だった。
☆☆ エルフの里 郊外 ☆☆
「…お父様に子供?エルフとの子供?」
確かにお父様はいつだったか、はじめエルフの里にいたと聞いていた。
お父様程の方なら、周りが黙っていない。そういった事もあるだろう。
しかし子供がいた事を想定していなかった。
考えてみてもそうだ。
もしかしてお父様は、エルフとの子供に会う為に来たのか。
その子が一番大切なのか。
私達魔族と違い、お父様の血を色濃く受け継いでいるのか、お父様と同じ髪色だ。
なぜ私の髪は赤いのだろう。どうして黒くないのか。なぜなぜなぜ。。。
お父様に褒めてもらっていなければこの場で全ての髪を抜き捨てる所だ。
「お父様…アリアはもう必要ないのでしょうか」
もう少しだけ待ってみよう。
様子を見にきただけかもしれない。
私と比べて赤子、一緒に行動できるわけもない。
少し時間がたって落ち着いてきた。あの子も姉弟の一人だ。
しかし、時系列的には私の姉か兄にあたる。
それでも優秀さでは私が上だ、お父様にもっと褒めてもらって、もっと役に立つんだ。
「お父様…早く笛を吹いてください」
☆☆ エルフの里 エミリアの家 ☆☆
「エミリア、驚かないで聞いてほしい。族長には適当な事をいったけど」
「待って」
俺の声を遮って、エミリアが呪文を詠唱した。
「これで聞き耳をされる事がないよ、本当に私とあなた、この子だけ」
「ありがとう。実は…」
俺はエミリアには本当の事を話した。
原因不明での転移、飛ばされた先が魔族の国で、魔族の城に連れていかれ、王女やその側近と関係を持たされ、子供をさずかった事。
そのあと、人間から襲撃を受けて、魔族の国は弱体化し、娘の一人と逃げてきた事。
その娘が今も俺の合図を待ってくれている事。
「大変…だったね。でもあなたが無事で本当に良かった。それでどうするの?」
俺はどうしたい?
本来の目的であるエリスとの邂逅は果たした。
気がかりだったエミリアとフェルトにも会えた。
しかもエルフの里は安全だ、追ってがかかる事はない。
俺が本気でお願いをすれば、もしかするとムジュラとも和解できるかもしれない。
そうなったらいよいよこの里は頑丈だ。
エリスとエミリアとフェルトで静かに暮らす事も出来るのではないか。
「ごめんね、無我夢中だったんだね。今日はうちでゆっくりして、明日また考えようね」
優しい言葉をかけてくれたエミリアは、また呪文を唱えて何かを解除したようだ。
「久しぶりに、一緒に寝よ?」
抱き合って許しを請うように眠りについた。




