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異世界でも平凡な俺。ぱーと11
「あれ?もしかして、覚えてない?」
言葉が出ない俺に続けてエリスが質問をする。
「驚いただけだ。会うのは初めてだしね」
「ずっと探していたのだけど、君どこにもいないし、でも噂はあっちこっちで聞くし、心配したよ?」
エルフの里で聞いていたイメージとかなり違う。
もっと山賊のようなイメージがあった。
「エリス、聞かせてくれ。君はムジュラという山賊の様な事をしていると聞いたが、本当なのか?」
「…うん。本当だよ。でもね、それには理由があるんだ」
それからエリスには、ムジュラに入った経緯、というよりもムジュラの歴史を聞く事になる。
しかしこの話は別の機会にしよう。
「そんな事が」
わかった事がある。
それは、片方からの情報を鵜呑みにすると、正しい判断が出来ない、という事だ。
やり取りをしていたころから感じていた、エリスの印象は間違いではない。
この子も世界を救いたいと考えているのだ。
「ここはあまりいい場所ではないから、私達のアジトにいこう」
「しかし俺の娘が俺を探している、心配だし、可能なら一緒に連れていきたい」
アリアの事だから、よっぽど大丈夫だと思いたいが、
もしもの事もある。
それにアリアをこんな所で一人にしたくない。
「君、魔族とも交わったの?血気盛んというか、なんというか」
「…すまん」
何か悪い事をした覚えはないが、そんな空気だった。
「わかったよ、ただし、時間がないから、私の仲間にお願いをして、君は今すぐに私と一緒に来てね」
「わかった、よろしく頼む」
今は、エリスを信じるしかない。
「ところでエリス、疑いたくはないのだが、本当にエリスでいいんだよな」
「うん?そうだけど」
念のため、俺は異世界に来る前にエリスとやり取りした中で、エリスしか知りえない事を聞き、問題なくエリスは答えた、間違いはない。
「君もこっちに来てから大変だったんだね。あ、そうだ。こっちに来る時の向こうの人との約束なんだけど」
お嬢様の件か?
「時間の流れが少し違うから、正確にはわからないけど、ちゃんとこちらの商品は転送しているよ。逆に向こうの商品も回してもらっていてね。ほら見てよ」
そういうとエリスは、ライターを見せてくれた。
「おお!ライターだ!」
異世界に来て、初めている現代の品。
テンションが上がる。
「ふーん、これ、ライターっていうんだ。便利だよね。すぐに火が出るなんて。でも恐ろしいよ。君のいた世界の商品は、簡単に私達の世界の均衡を破壊する事が出来てしまう。」
「俺は何も持ってきてないぞ」
「それならよかった。私も送られてきた商品で、つぼとか絵は、上に渡したけど、こういったものは私でとめてある、危ないしね」
しかし、これでお嬢様も現代で困っている事はないだろう。
俺の心配が一つなくなった。
「さあ、少し離れてから転送魔法で飛ぶよ!」
他愛もない話をした後、俺は光に包まれた。
嫌な予感はしていた。
これまで、唐突も含め、光に包まれてよかった印象がない。
今回も一瞬そんな展開を予想してしまった。
わかりやすい物語なら、ここで俺はまた意図しない場所に転送され、一悶着巻き込まれるのだろうが、そんな事にはならなかった。
光を抜けた先には、エリスはいたし、しっかり森の中で、エリスと同じような恰好をした人達が複数人いた。
「…エリス!もしやこいつが」
エルフにしては大柄な、歴戦の勇者の風貌の男がいた。
「アドルフ、よかった。この人がそうだよ。」
この大男はアドルフというらしい。
「しかし、こんな優男がそうなのか…信じられんがエリスがそう言うならそうなのだろう。皆を集める」
しばらくすると、10人くらいのエルフが集まってきた。
視線が痛い。
「皆!この者がエリスの話をしていたヒューマンだ。ようやくわれらの計画が進められる!覚悟はすでにできていると思う。明日の朝決行する!」
アドルフの演説に対し、10人しかいないとは思えない程の喝采が上がった。
どれほどの期間、この時を待ちわびていたのかが知れる。
しばらく宴会のような状況が続き、俺はおいてけぼりとなった。
計画とはなんなのか。
俺の力に何か関係があるとしか考えられない。
しかし、このエルフたちは男が多い。
もしこいつらが勘違いをしているとそれば、それは地獄が待っているかもしれない。
これまでいい思いをしてきた代償なのだろうか。
一人で身震いをしている所に、エリスがやってきた。
「君、顔色が悪いよ?大丈夫?」
俺の心配をあえて口にする事もない。
逆にそういった発想があった!と思われても怖い。
「いや、皆さんの勢いに気おされただけだ、計画って言っていただけれど、どんな計画なんだ?」
「それはね、秘密!」
そんな満点な笑顔で、隠されるとこれ以上聞きようもない。
俺は、またエリスのテントに案内をされ、しばらくそこで時間をつぶす事になったわけだ。
しかしアリアは無事だろうか。
優秀なあの子の事だから、俺の痕跡を追って、ここまで来れるかもしれないが、
あの騎士達の猛攻の中、うまく逃げられればよいのだが。
それにしても、最近の俺はずっと待っているように思う。
戦う能力がないのだから、仕方がない。
なんの能力かわからないが、アレとちょっと視力が良く、耳が良い程度。
魔族の所にいた時は、体力も無限にあるかと思ったが、
今となっては、年齢相応になってしまった。
アリアが言う一時的な身体能力向上なのだろうか。
少なくても、今この場を走って逃げる程の力はない。
エリスが戻ってきたら、秘密とやらを聞き出さなければならない。
「お待たせ!君のこれからについて、上に話をしていいか聞いてきたよ!」
「ああ、なるべく優しめで頼みたいな」
「なにがって感じだけど、まあ話すね。まず私達ムジュラは、エルフの里に隠されたある重要な遺物を回収する。その遺物があれば、魔族との共存も可能で、エルフはもっと強くなる事ができるんだ!」
「じゃあその遺物とやらを回収する為にエルフの里にいくという事だな、俺はどんな役割がある?自分で言うのもなんだが、戦闘ではまったく役に立たないと思うぞ」
「そんなに自信満々にいうのも面白いね!」
エリスはケラケラと笑う。
「大丈夫!君に戦ってもらうつもりはないよ!お願いしたいのは、象徴さ」
「象徴?」
「うん、今私たちはただのゲリラだ、そんな私達が自分たちの里に攻め入るのは、みんなの気持ち的にもよくなくてね。君という異世界人がいて、もしかしたら、自分たちの世界が変えられるかもしれない!そんな気持ちが沸いてくればいいのさ!」
「そんなもんなのか。」
「そんなもんだよ!だからどっしり構えていればいいのさ!」
両手を腰にあて、エリスがどっしり構えた。
今俺がいる場所は、ちょうどヒューマンとエルフの領土の真ん中。
境界線上らしい。
エルフとヒューマンは特に争う事はなかったが、エルフはヒューマンを卑下しており、
ヒューマンはエルフを軟弱種族としてとらえているらしい。
ヒューマンの中には、麗しいエルフが好きな奴もいるし、逆に、物好きなエルフもいて、
裏では繋がりがあるそうだ。
表面上は、不可侵を通しているらしいが、上ではお互いの利益で動いている。
しかし、魔族領土に侵攻した後のヒューマンは、表立って境界線ギリギリまで進軍を何度も繰り返し、エルフを刺激した。
さすがにムジュラといえど、自身の里が他種族からの侵略を許すわけもなく、
エルフ族一丸となって、ヒューマンと一進一退を繰り返していたそうだ。
なぜヒューマンが勢い付いたのかは、想像に容易いが、藪蛇になりそうだから、
黙っておこう。
そこに、俺とアリアの登場だ。
ムジュラたちもここぞとばかりに、積極的になったらしい。
ヒューマンとの争いで、おざなりになっていた俺の捜索が、一石二鳥で事が進んだというわけだ。
あれだけの勢いがつくのも、納得がいく。
しかも、ヒューマンの騎士たちは、エルフと俺とアリアという不確定要素が多い事で、
派手な動きが出来ない。
ムジュラとしては、またとない好機となった。
そこで、ムジュラは里が禁忌としている遺物を回収。
その効果を持って、ヒューマンを押し返し、可能なら飲み込んでしまえというのが、
今のムジュラの考えらしい。
今もっとも魔族勢と争いが多いヒューマンを抑えてしまえば、
同時に友好国であるドワーフもコントロールし、魔族と一体になる。
これがムジュラの大きい目的のようだ。
秘密と言いながらも、想定以上の結果にエリスも興奮気味でうっかりどころか、がっつり秘密を話した。
もしかしたらエミリアに会えるかもしれない。
それにエミリアと俺の子供にも。
そう考えると、薄情にもアリアの事を棚に上げて、エルフの里に戻れるチャンスになる。
アリアには感謝しているし、思う事はまったくないが、アリアと一緒にエルフの里には入れない。
エルフという種族は、他種族に対する嫌悪感が非常に強いように思う。
その証拠に、魔族やドワーフとはたくさん関係を持ったが、
エルフはエミリアだけだ。
エミリアは嫌がってなかったが、お役目としてまっとうしていた。
それにわざわざ魅了を使ってまでの行為。
エルフの中でも相当に柔らかいだろうが、それでもだったという事。
そんな中にハーフとはいえ、魔族であるアリアは絶対に受け入れられないと俺ですらわかる。
だらだらと言い訳をしたものだが、全てを状況のせいにして、エルフの里に一旦向かう。
それこそが今最善であると考える他ないのだ。
まったく情けない。
「里には早速明日出発だ!ヒューマンもこの乱戦で混乱したとはいえ、どうにも戦略がうまいやつがいつの時代も必ずいる。早く遺物を回収しなくちゃ。老人たちも、君を見せれば首を縦に振らざるを得ないはずさ」
「わかった、俺もエルフの里には会いたいやつもいる。」
そうなんだ!誰かな~。とニヤニヤしながらもエリスはわかっている顔だ。
それはそうか、俺との子供は里でもたった一人。
長寿な為、子孫繁栄に積極的ではない種族からすれば、子供というだけで珍しい。
知っていて当然というわけか。
「転移の魔法は使えないから、自力で行くよ!ついてこれるかな~」
はじめから俺をおいていく気はないくせに。
エリスのこういう所が前から好きだった。
★ドワーフの里★
「イシス様!先日の方がお見えになっております」
「なんと、戻ってきてしまったのか。仕方あるまい、私の私室に急ぎ入れよ」
「…イシス様」
「まさかお前だけとはな。お前の父君はどうしたのだ」
私は、ヒューマンの騎士の一連の流れを説明した。
「そうだったのか。しかし、なぜお主は来た道を戻ってきたのだ。先日はああ言ったが、お主ならば、私が言いたかった事がわかっていたはず」
「はい、しかしながら、私には頼れる所がないのです。魔族の国に戻ってしまっては、アルクエイド様の事です、私をもう外には出さないでしょう」
「して、何を願う。言っておくが、お主の考え通り、ドワーフはヒューマンと戦争は出来ない」
「わかっています。私が望むのは、ドワーフの里に伝わる、魔力を遮断し、姿をくらますというマントです」
「むう、透明マントか。しかし、それならばなんとかしよう。だが、用意をする代わりに約束してもらうぞ」
「わかっています、そのマントは私がドワーフから盗んだもの、そして、もうこの里には一切足を踏み入れません。」
「よくわかっている、その年にしてもったいない」
すぐに用意は出来ないとの事だったが、このままイシス様の部屋に匿うのも限界があるとの事。
私はまた、来た道を戻り、例の小屋で待つ事にした。
ここならば以前の私の結界の残りがある。
もうお父様はいないので、力は弱いが、何もないよりましだ。
まっている間、お父様の事を考える。
「…お父様、どうかご無事で」




