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異世界でも平凡な俺。ぱーと9
俺たちは、暗い坑道の中を進んでいる。
この坑道もドワーフたちが以前掘っていた道なのだろうか。
「お父様。少し休みましょう。焦る必要もありませんし」
「そうなのか?追ってが来るかもしれないし、この道もドワーフなら知っているのではないか?」
「これは、お父様にお話する必要もないかとは思いましたが、先ほどのイシス様のお話は嘘だと思います。」
何!
「あ、いえ、ヒューマンの情報は本当だと思います。ドワーフの族長へヒューマンの使者が来た所だけだと思います。」
「なぜそんなウソをつくのか。もしかして俺達が邪魔だったのか」
「そういう事ではないと思います。私はともかく、お父様にはお役目がありましたし、おそらくヒューマンとドワーフの戦争になりかねないとのご判断でしょう」
「ドワーフはヒューマンと争いたくない?」
「はい、ドワーフはヒューマンとの交流もあり、友好国ですから。しかし、イシス様としては魔族とのつながりも欲しい、お父様のお力も欲しいで、この様な形に落ちたのではないかと」
「まったく気が付かなかったぞ。さすがは俺の娘だな」
「そんな…うれしいです…」
今回は声に出してしまった。
でも本当の事だし。
「ここまでの期間匿ってくれた事の方がむしろ異常でした。恐らくヒューマンの国の情報が本当で、私達の行動が決まってしまった事によるものでしょう。それから私の兄妹も生まれた事もあるでしょうし」
「なんだか難しい話だな。俺にはそれぞれの国の状勢とかわからないし、とにかく今はヒューマンの国に行って、俺の子供達を助けにいくでいいのか?」
「はい!それでこそお父様!余計な事は私にお任せ下さい。お父様はその力を存分にお使い下さい」
力と言っても大した能力はないんだけどね。
と、アリアが艶めかしい眼差しを向けてきた。
力を使うって今、ここで?
「しかし、あくまでも私の推測ですし、本当の事かもわかりません。非常に残念ではありますが、可愛がってもらうのは、もう少し先に進んでからにしましょう。」
アリアは大人だった。
俺よりも数段に。
「お父様には我慢をさせてしまいますが、おそらく後数時間でこの坑道から抜けるはずです。あまりにも長い坑道は危険なので、ドワーフも掘りはしません。一度地上に出てから一休みして、これからの方針をはっきりさせましょう。」
アリアの言う通り、1時間程度歩いた先で光が見えた。
外に出ると、あたり一面の草原。
この景色、初めてこの世界に来た時を思い出す。
エミリア、元気かな。
「お父様、あちらに使われていない小屋がありました。中を確認しましたが、少々埃っぽいだけで休めそうです。私が魔法でキレイにしますので、それから中へ」
自分の娘がこんなにも働いているのに、俺ときたら、女の事を考えていた。
俺って本当に…
「お待たせしました、お父様、中へお早く。」
促さるままに小屋に入る。見た所元は馬小屋かな?
アリアの魔法がどの程度キレイにしてくれたか、そもそもを見ていないのでわからないが、
今はとても清潔感のある小屋だ。
「お疲れ様でした。坑道でも一度休みましたが、あの様な場所では十分に疲れもとれませんし、ここで一泊いたしましょう。」
「アリア、何から何までありがとう。本当に完璧な娘だ。情けないが疲れているし、休ませてもらおう。でもアリアも疲れているだろう?先に休んでいいぞ」
「お父様、ありがとうございます。私なら大丈夫です。お父様からお休みになられて下さい。その間は私の魔法で簡易結界を張っておきます。もし近くに敵意を感じましたら起こしますので、まずはゆっくりして下さい。あと、その」
「何もできなくてすまん。お言葉に甘えさせてもらうよ。で、どうした?」
アリアは、もじもじと何か言いたげだ。
可愛い。
「ここからは二人きりですし、私も魔力を使いますし、邪魔も入りませんし、お休みになられた後に、その…」
なるほど。
これは仕方がない。
これは、俺に出来る唯一の力。
欲に負けたわけではない、必要な事なのだ。
「ああ、わかったよ。無理をさせてすまない。」
「はい!ありがとうございます!」
満面の笑み、やはり俺の娘、完璧だ。
どれくらい寝たかわからない。
時計もないし、外の明かりも見えない。
起こされる事なく自然に目を覚ました、坑道は道も険しく、思った以上に疲れていたようだ。
「…おはようございます。お父様」
娘の膝の上で目を覚ます俺。
情けない。
それにしても、なんだか口が湿っているような。
「よくお休みになられていましたね。ご無理をさせてしまい、申し訳ありません。」
「いや、いいんだ。アリアの方がずっと大変だし、いつもありがとう」
感謝の言葉はいつでも何度でも言った方がいい。
「そうやっていつも労ってくれるお父様大好きです。ではこちらの水を飲んでください」
「うん、ありがとう」
渡された水を飲みほして、思った以上に喉が乾いていない事に気づく。
「どうされましたか?」
「いや、直近で水を飲んだ記憶がなくて、久しぶりな気がしたんだ」
「それはですね。あの…お父様が苦しくない様に私が寝ている間に口移しさせてもらっていました…」
なんと!
「ご迷惑ではなかったでしょうか」
そんな上目使いで見られて、迷惑なんてとんでもない!
「いや、経験した事がなくて驚いただけだよ、ありがとう」
「よかった!」
だから唇が湿っていたのか、よだれでなくて良かった。
「それでは…お父様。あの…魔力もだいぶ使いましたし、お休みの後すぐで恐縮なのですが」
「もちろんだよ、先に休んでからでもいいんじゃないかな?アリアも疲れているだろう」
「ありがとうございます、お父様。休む前に簡易結界を張りましたが、万全とはいえません。
可愛がってもらえると、より強固で上位の結界がはれると思いますし、あと嬉しいです…ちなみに、 最低限結界を張れているので、声も外に漏れないようになっています」
なんと完璧な準備なのか。
ここはあえて魔力補給と言っておくが、こちらの準備も完璧だった。
いや、何がとは言わないが。
その後、魔法のなんたるかをまったく知らない俺から見ても、すごい結界が張られ、安心したのかアリアは、その可愛らしい寝顔を見せてくれた。
俺はというと、実の所何もしていない。
アリアからは、この結界はよほどの事がない限り破られる事もなく、仮に破ろうとした瞬間にアリアが気づくという。
「これがお父様のお力で強化された魔法です」
との事だった。
ただし、元々できる魔法を強化する事は出来ても、概念だけで、そもそも出来ない魔法は出来ないらしい。
アリアは出来ないが、
例えば蘇生魔法や、転移魔法があるそうだ。
しかし、そんな魔法がこの世にあると分かっただけで十分。
俺が元の世界に戻れる可能性があるからだ。
戻る気もないが、こちらとあちらを行き来できれば、それにこしたことはない。
それにしても魔法とは本当に便利なものだ。
正直起きている必要はたぶんないが、今の俺にはそれしか出来ない。
せめて結界に触れるよりも早く異変に気付く事が出来ればそれに越した事はない。
俺の不安は杞憂に終わり、普通に朝を迎えた。
俺も普通に寝ていた。
「おはようございます、お父様。よく眠れましたか?」
いう人が言えば、嫌みな言葉になるが、アリアの屈託のない笑顔ではその影もない。
「お父様、ここからヒューマンの国までは、歩きでは難しいです。馬か馬車が必要ですね。一番近い町までは今日一日歩く必要がありますが、大丈夫でしょうか」
歩く位なんて事はない、むしろ足を引っ張りたくない。
もちろん引っ張った。
30才オーバーの体力など、ないに等しい。
何かスポーツでもやっていれば、そんな事もないのだろうが、俺は本しか読んでないし、
こっちの世界に来てからは、アレしかしてない。
それはそれで体力を消耗するのだが、それとこれは違うような気がする。
しかし魔族の国では身体能力が向上したように感じていたが、ここに来て元通りだ。
なにか、理由があるのだろうが今はわからない。
「お父様、無理をして体に障っては元も子もありません。今日はここで一泊しましょう」
そこは洞窟だった。
アリアは食料を取ってくるといい、俺は一人、洞窟で待つことに。
近くの草むらで気配があった。
まずいぞ、戦闘力皆無の俺がここで魔物に襲われでもしたら、簡単に死んでしまう。
まったく意味のない、身構えをしたもの、武器はその辺にある枝。
心の中で、アリアに助けを求めたが、なんとも情けない。
「…お前。ヒューマンか」
現れたのはブロンドの髪に、黄金の甲冑で女騎士だった。




