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異世界でも平凡な俺。ぱーと8




「犯人に対する憤りもわかるが、今はまず体制を整える事が優先だ」




イシスの言う通りだ。


頭ではわかっていても、改めて魔族の国で起こった事を考えると、今すぐにでも行動を起こしたい気分になる。


そんな俺の表情を見たのか、




「お父様、お気持ちはわかります。ですが…」




わが娘、アリアはとても大人だ。


父はうれしく思う、こんな立派な子に対して、俺はどうしてあんな事を。


今更な後悔をしても仕方がない。


というより、情けない。




「今後の話をしよう。今しばらく我が国で英気を養い、その時を待て、しばらくすれば我が調査員がもっと詳しい、今の魔族の国の状勢を報告してくれる事だろう」






「イシス、ありがとう。しかしこのままというのも…。」




「気持ちはわかるが、何度も言わせるでない。今はその時ではないのだ。」




「イシス様、お父様がおっしゃりたいのは、待遇のお話です。ただ待つよりも何かさせて頂けませんか?」




さすがうちの娘、完璧。




「うむ、そういった事であったか。早合点してしまい、すまない。しかし、何をしてもらうか…。」




イシスは腕を組み、うーむと目を瞑りながら考えている様子。


これは、無理難題を言われるパターンな気がする。




「では、お前にぴったりな仕事があるぞ!」




嫌な予感しかしない。






イシスがニヤニヤしていたので、なんとなく予想はしていたのだが、


やはりこうなったか。


アリアはずっとぷんぷんしている。


相手をしてあげられない程、毎晩ヘトヘトになる。


何をしているかは想像に任せよう。


イシス曰く、魔族だけ優遇されるのは平等ではないし、俺の力がどういったものか興味があるらしい。


ただイシス自身が率先して行動を起こそうとしたが、多くのメイドたちに止められていた。




族長の娘だからね。




つまり俺の相手は、メイドたちな訳だ。


初めは魔族の国の事があったばかりだから、そんな気にもなれないと思ったが、


俺の俺は非常に残酷なもので、反応するものはする。




囚われていた期間もそうだし、ここに来るまでのメイドたちの悪戯もあってか、


心ではわかっていても、体は正直、とういうやつだ。


なんとも情けない。




アリアに幻滅されても仕方がないと思ったが、アリア曰く、「忘れるわけではないのです、本当は私が慰めてあげたいですが」と、なんとも俺好みな訳だ、さすが我が娘。




ひと月が経過したころ、それは突然に訪れた。




イシスからの呼び出し。


魔族の国に偵察に行っていた諜報員が帰ってきたそうだ。


俺とアリアは部屋に飛び込んだ。








「慌てるでない、これは不幸中の幸いかもしれん」




「諜報員からの話では、勇者一行は、やはりお前を探していたようだ、だがどこにもお前の姿がない事で、早々に立ち去ったらしい」




…やはり俺が原因だったのか。




「まあそう落ち込むな、仕方あるまい。勇者たちは魔族の民や町は破壊せず、すぐに撤退をしたそうだ。つまり国としてはまだ取り戻せるが、国としての大切な人材を失っている。女王とその側近が討たれた後、女王の妹君が後を継いでいるらしい」






「妹居たんだ」




「お父様知らなかったのですか?」


「会った事も聞いた事もなかったからね、たぶん」




女王の妹は、アルクエイドという名らしい。


なんとも型月らしい。




「しかしアルクエイド様が守ってくださるのでしたら魔族の国は大丈夫でしょう。あと私の姉妹たちはどうなったのですか?」




え、みんな女の子だったの?




「うむ、報告によれば、確認が取れたのは3名、内1名はお前だな。あとの2名は勇者に連れて行かれたそうだ。」




「…ひどい」




「しかし、その子たちを連れていって勇者は何がしたいんだ?俺にはさっぱりだが」




「本当に何も知らんのか。」




ヒューマン族が、異世界人の召喚をしているかどうかは定かではないが、連れてこれるかどうかわからない儀式に時間と金を費やすよりも、


実際に来ているものを使えばノーリスクだ。


それが今回、棚ボタで魔族に入った。


これ以上に攻める理由もないだろう。


伝承では異世界人の血は稀血とされ、その力は遺伝する。


しかも、その活力液は接種したものを強化するとの事らしい。




確かに俺もアリアを見ていればわかる。


実際に戦っている所を見たわけではないが、そう言っていた。


であるならば、本来欲しかった異世界人である俺がいなくなり、その血を受け継いだ者がいるならば、その後どうするかは想像に容易い。




ひどい目にあっていなければいいのだが、見た事も会った事も名前も知らない俺の子は、冷酷かもしれないが、深く心配する事は出来なかった。親戚の子供位の感覚だろうか。




「うむ、お前もようやく目が覚めたという所か、だがやけを起こすなよ?これからヒューマンの地に足を踏み込み、強襲をするにしても情報も兵も足りない」




「しかしイシス様、私の姉妹達を放っては置けません、何か手はないのでしょうか」




「闇雲に行動してはダメという事であって、攻めないとは言っていない。いずれにしても今攻め込む時ではないのだ。察するに、すぐ殺したりはせんだろう。多少の辱めはあるかもしれんが命を取られるよりはましだ」




明確にアリアの歯をかみ殺した音が聞こえた。


それはそうだ、誰だって尊厳はある。




イシスは、近日中にヒューマンの国に攻め込む事を約束した上で、優秀な諜報員をヒューマンの国に派遣したと言っていた。ドワーフとヒューマンは、現在友好関係にあり、魔族の国よりも情報を集めるのはたやすいとの事。




また俺は待つことしかないのか。




その代わり、という事で、俺はドワーフのメイド達と役目を果たし続けた。


時々、アリアにもせがまれたが、ある程度発散した俺は大人の対応が出来たのだ。


最後までしないだけだが、なんとも情けない。






ドワーフの国に来てからふと思い出した事がある。


今更だが、今日までが激動過ぎると言い訳をしておこう。


お嬢様の事だ。


何がきっかけで、異世界に来てしまったが、わからないが、突然こちらに来てしまった。


俺の心配はしていないだろうが、物々交換をエリスと話していた。


俺がエリスと出会えていない以上、エリスからの異世界物の転送はされていないはずだ。




どうしようもない事を考えても仕方のない事ではあるが、いずれ何とかしなくてはいけない。


今考えなくてはいけない事を整理しよう。




1、エリスと会うべきか。


エリスはエルフの里でムジュラとしてテロリストみたいな事をしている。


そのエリスが俺をどうしようとしていたのかは分からないが、良くない事は間違いがない。


現状では保留以外に選択肢はないだろう。




2、エミリアの安否。


これは気になるが、エルフ→魔族→ドワーフと来ており、次はヒューマンだ。


ここまで複雑になってしまうとエルフの里に何をどうしていたかを吐いたとして、ヒューマンの次はエルフに攻め込むとか言われたら困る。これも保留か。




3、魔族の子供たち。


どうやら今ヒューマンに囚われている、これを救出する為にドワーフの諜報員たちが暗躍している、これも待ちか。




4、お嬢様の件。


これは先に考えた通りだ、いずれの事。




改めて、俺に出来る事がまったくない。すべて保留状態である。


なんとも情けない。


ドワーフのメイド達と何度も夜を超えていく度に、この里にも愛着が沸いてくる。


聞くところによると、ドワーフは魔族よりも身ごもりが早いらしい。


その証拠にひと月もせず、懐妊したと報告が入ってきた。


早すぎない?


ドワーフの子供たちは成長が早い。


そして、成熟期がとても長いらしいのだ。


なんでも、その昔ドワーフたちは鉱山で仕事をしており、その激務から進化をしたのではないかというのが、アリアからの情報だ。




それにしても、俺の存在価値ってこれしかないのか。




「そんな事はありませんよ、お父様。私としても血を分けた姉弟たちが増える事はうれしい事です。それに、お父様はいい気分ではないかもしれませんが、お父様の血がこの世界に増えれば増えるほど、お父様の危険は薄くなっていくのです」




稀血は、希少だから意味があって、多くに広まれば希少ではなくなる。


しかしそうなるといよいよ、俺の存在価値がなくなるのでは?




「そう落ち込まないで下さい。私達にとっては世界に一人だけのお父様です。特に私はお母様を失っていますし」




これは、デリカシーのない事をしてしまった。


すまなかったと、アリアの頭を撫でると、耳元にスッと近づいて、




「…今夜、私だけを慰めてくだされば…」




なんていうもんだから、仕方がない。


久しぶりに親子水入らずといこう。


けしてやましい気持ちからではないし、そういう事をするつもりもない。


これは、寄り添うだけである。






俺の自慢の娘に本気を出された夜は、もちろん断れるわけもなく。


情けない声を出した。




そんな、情けない夜を幾度も超えたある日、その日はついに来た。




「待たせたな、ようやくヒューマンの国から情報が来たぞ。覚悟はいいな」




もちろんだ。


この日をどれくらい待った事だろう。


俺も、アリアも決意のまなざしでイシスを見て、頷いた。




「では、順を追って説明をするとしよう。私もつい先ほど報告を受けたばかりだから、自分も整理しながらになるが、気にするな。」




アリアが俺の腕をぎゅっと掴む。




「勇者一行は、お前達を見つける事が出来なかったが、実はお前達よりもお前の子供たちが本当の目的だったらしい。お前はついでだったようだ。だから、お前が見つからなくとも、その子供達を捕まえた事で、あっさりと軍を引いたという事だな。」




「当初の目的を果たした後、ヒューマンの国では、神の子を奪取したと大騒ぎになっていたらしい。お前神らしいぞ。」




いらん冗談だ。




「いやすまん、そう睨むな。しかし思ったよりも、お前の子供達の待遇はずっといいようだ。神聖視され、ひどい扱いは受けれないようだな。…表向きだが。それからは、勇者一行とお前の子供達とで、神の一族を繁栄させる計画があったようだが、喜べ、勇者は不能だったらしい」




それは何よりだが、それならば、代わりを用意するだけの事だろう。




「察しの通り、勇者とは別のヒューマンがあてがわれた。これは王族のようだ。しかしこの王族も相当な曲者で、神の子とは言え、魔族のハーフと交わるのを嫌がっているそうだ。そこで、ヒューマンの王は、なんだと…」




おい、どうした。




「イシス様、もったいぶらず、早く教えて下さい。」




「すまん、ここからは私もお前達を呼んでしまったので初めてみたのだが、ヒューマンの王は、この神の子その者をヒューマンの王族にしてしまったようだ」




は?意味が分からん。




「推し量るに、時間を使って、少しずつヒューマンになじませようとしているのではないかという報告だ。今すぐに子はなさず、ゆっくりと時間をかけて、ヒューマンの一部にするつもりではないかとな。…しかしどうして焦らないのだ。魔族からの報復はないと踏んでいる?しかし、魔族の国は滅ぼしていない。まさか」






「…やはりお父様を狙っている、という事でしょうね。おそらく表向きはそういう事になっているのでしょうが、浅ましいヒューマンが手を出さないわけがありません。私も半分ヒューマンですからわかります。あ、お父様はもちろん別ですよ?」




アリアの気遣いも嬉しいが、否定出来る要素が一つもない。


これまでの俺の行いは、俺が一番わかっている事。


情けない。




「ほう、つまりお前はどう考えている」




「もし、私がヒューマンの王ならば、即刻、番を設けて、その血を手に入れます。魔族との契りを嫌がるのであれば、強制すればよいのです。そんなヒューマンはごまんといるでしょう。そして気が付いたのです、この力は、お父様から直接でなければ、一時的な身体強化にしかならないと。しかも、血が薄まっている事でしょうから、その力もわずかだったはずです。であるならば、私の姉妹達をストックして起き、戦争の時に、使えばいいだけの事。」






「それは残酷な」




「しかしお父様、それでも生きていけるのです。早く助けてあげたいですが、虐待されているわけではないでしょう。この表向きの情報ですと、ヒューマンの民たちからすれば、神の子ですから、定期的に顔を民衆に見せているはずです。健康的でなければ、民は不安になるでしょうから」






「お前は、その見た目の幼さから想像も出来ない程の英知があるようだな。神の子か。あながち嘘でもないかもしれん」




「私としては、ありがたい事です。これもすべてお父様のお掛けです」




最高の笑顔を見せてくれる、さすが俺の娘、完璧だ。




「ヒューマンとしては、勇者にその力が適応できなかった事は相当な痛手のはずです。何せ戦争で活躍できないのですから、そこでヒューマンの王は、この情報をあえて公開し、お父様に救出の機会を見せ、誘っているのです。」






「つまりは罠って事か」




「その通りです、お父様。しかし、罠と分かっていても私は…」




「もちろん救出するさ、俺には大した力もないが、自分の子供を見捨てる親なんていない」




元いた世界には、そんな親もたくさんニュースで流れたが、少なくても俺はそんな親にはならないし、なりたくもない。




「…お父様。ありがとうございます。」




「親子で感傷に浸っている所悪いが、これからの話を続けさせてもらうぞ。ヒューマンの目論見は大方、お前の推測で合っているだろう。私も話を聞いて賛同する。ではどうするか」




ここでドアがノックされる。


今まで、こんな事はなかったが。




「何様だ!今は取り込み中と伝えてあるはず」




ドアの向こうから、声がする、たぶんメイドだ。




「イシス様、ご無礼をお許し下さい。今、ヒューマンの使者が族長へ面会に来られており、客人の引き渡しを要求しているとの事」




「何!!」


なぜ知られたのか。


いや、これだけの期間、ここでした事を思えば、どこから情報が洩れてもおかしくはない。


これまでがセーフティーすぎていたのか。




「私が行こう、あらぬ疑いとな!」




「しかし、イシス様、族長が引き渡しを受け入れてしまいました。すでにその時ではありません。すぐに準備を」






「馬鹿な…」




ここにもずいぶんの世話になったが、潮時か。


俺はアリアに目配せしたが、アリアはすでに覚悟が決まっている決意の顔を見せてくれた。




「私もお父様の子です。この状況を想定しなかった日はありません。恐らく、ドワーフにもヒューマンに対しての恩か弱み位はあるでしょう。すでにいくつかの脱出経路は把握しています。」






「そうだな。イシス、世話になった。これ以上の迷惑はかけれない。安心して眠れた日々に感謝する」




「…申し訳ない。心あたりはあるが、ここまで早いとは。この部屋まで来るのにそう時間は掛からない。これだけ持って、行ってくれ。」






イシスから、ペンダントを貰った。


真ん中に宝石が付いている、結構貴重な奴ではないか。




「これはドワーフ族の族長身辺しか与えられない証だ。これを見せれば、私の親類である事が証明出来るはず。ヒューマンの国に入る時に役に立つだろう。中に入ってからは、売って金銭にしてもよい。この裏切りの詫びだと思ってくれ」




「イシスは悪くないのに、すまない。あてがないから、遠慮なく貰っていくよ」




「お父様、お早く」




アリアはすでに身支度を終わらせている。




「では、イシス。またどこかで、俺の子供達を頼むぞ」




イシスの答えを聞かず、俺は、アリアについて、地下道を走るのだった。






「…本当に良かったのでしょうか」




「言うな。私個人としては、あの二人を全力で支援したいが、私には族長の娘としての責任もある。このまま行けばドワーフとヒューマンの戦争だ。こちらにも異世界の血が少し入ったがまだ赤子。手に入れた力を早々に手放す事もできん」




「お辛いですね。それにしても、信じて貰えたでしょうか」




「異世界人は信じていたようだが、あの娘はわかっている顔だったな。私の背景も理解した上で、乘ってくれたように思う。」




すまない、二人に幸運を。









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