はじまり
「神様を信じていますか?」
もしこの世界に神様がいるなら、なんて聞き飽きた。
神の存在の有無なんて自分の人生に関係あるだろうか。
自分の人生は自分で決めていくものなのだから、神なんていう他人が入る余地はない。
すべての結果の原因は自分に帰結するのだ。
「神様は貴方を愛し、貴方もまた神様を愛するのです」
ため息をつく。
今月に入ってから5回目の宗教勧誘だ。
私は「もう少しで勧誘できそうな人リスト」にでも入っているのだろうか。
だが驚くべきことに全て違う神についての宗教なのだ。
「太陽神千夕龍華様は……」
誰なんだそれは。
確かに人間は太陽の恩恵を受けて生きている。
しかしそれは神という不確かなものなどではなく、大方解明されている恩恵だ。
ならば尊敬するべきは偉大なる大自然とそれを暴いた先人たちであろう。
それより、そろそろ宗教勧誘にも飽きてきたから家の扉を閉めようとした。
すると宗教勧誘の人が慌てて質問してきた。
「貴方は神様を信じないのですか?」
これまでの定型文のような質問ではなく、純粋な疑問のように感じた。
そこで私は初めて目の前の人を見た。
いかにも宗教に携わる人って感じの装いのおばさんだった。
ただ、1つだけ思わず見惚れるを持っていた。
凄く、凄く綺麗な目をしていたんだ。
自分が幸せであることを信じている、輝いた目だ。
我に返り、その目を少し疎ましく思った私は、少し意地の悪質問をした。
「あなたの言う神様がいたとして、困ってるときに助けてくれるんですか?お金をくれるんですか?住む場所も食べ物も与えてくれるんですか?」
そうまくし立てると、おばさんはぽかんと口を開けて黙り込んでしまった。
少し目を曇らせてしまったけれど、安堵した。
沈黙がなんだか気不味くて、玄関扉を閉めることにした。
扉が閉まりきる直前、おばさんが口にした一言が何故か記憶に残った。
「神様はね、ただそこにいてくれるのよ」