幼馴染みがいない俺に未来から幼馴染みアンドロイドがやってきたので幼馴染ライフを楽しんでみることにした。
「幼馴染がほしい人生だった……」
ラノベやアニメで幼馴染キャラが出てくるたびに、幼馴染がいない人生に絶望した。
なぜ、俺には幼馴染がいないのか――。
幼馴染ものの創作物にハマるとともに、その反動で落ち込む。
俺の青春は真っ暗だ。
世の中、不条理である。
「はー、空から幼馴染でも降ってこないかなぁ……」
そんな電波発言をしながら、俺は庭に干してある洗濯物を取りこみ始める。
今日は日曜。学校は休みだ。
「また明日からつまらない日常が始まるのか。来世に期待だな」
そんなふうに呟いて空を見上げると。
――ゴロゴロゴロ……。
雷のような音が聞こえた。
そして――。
――ズドォオオオン!
稲光のようなものが走って、地面に炸裂する。
「うぁあっ……!?」
落雷!?
驚きのあまり尻餅をついてしまう。
「び、びっくりした…………感電しなかったのはよかったが、すごい穴だな……」
目の前には人間がひとり入れそうなほどの大穴。
落雷でこんな穴が開くものなのか……?
疑問に思い穴を覗きこもうとした俺だが――。
「よいしょ!」
穴から声がして、誰かが飛び出してきた。
跳躍して俺の前に降り立ったのは金髪ツインテールの高校生ぐらいの少女。
瞳は緑色で、身体はスクール水着のようなものを着ている。
ただ、肌はドールみたいな素材だった。
「あんた、小山内想太?」
「え? あ、ああ」
訊かれて、つい応えてしまう。
というか、なんだこのアンドロイドみたいな謎の美少女は。
これは……そうだな。夢だ。そうに違いない。
「あたしはあんたの子孫から派遣されてきたアンドロイドNANAMI! 幼馴染のいないあんたに幼馴染を味わわせるために未来からやってきたわ!」
「そうなのか」
「は? なんでそんなに素っ気ないのよ。幼馴染みがほしかったんでしょ!? もっと喜びなさいよ!」
どうせこんな非現実的なことは夢に決まっている。
しかし、目の前のNANAMIはそんな俺の反応にご立腹だ。
「夢じゃないからね? これ、リアルだから!」
「俺の心を読むな」
「ともかく、さっそく幼馴染シチュエーションを楽しませてあげるわ!」
「えぇっ……」
「だからなんでそんな嫌そーなのよ! 喜びなさいよ! 歓迎しなさいよ!」
だって、これ夢だもんなぁ……。
でも、夢なら……そうだな。楽しんでしまおう。
「わかった。じゃあ、俺は幼馴染に起こしてもらうというシチュエーションに憧れてたんだ。レッツゴー俺のベッド」
「いきなりうら若き乙女をベッドに連れていくってどうなのよ! ……でも、任務をこなさないといけないわ!」
ブツブツ言いながらも自室に向かう俺のあとをNANAMIはついてきた。
GoToベッド。
「……準備はオッケーだ。いつでも起こしてくれ」
布団をかぶった俺はNANAMIにそう言うと、寝たふりをする。
「……ったく、しょうがないわね……。それじゃ始めるわよ……」
そこで「すぅ……はぁ……」となぜか深呼吸するNANAMI。
動作が人間っぽいが、本当にこいつはアンドロイドなのか?
そして、NANAMIは俺に向かって呼びかけ始めた。
「ねぇ~♪ 起きてよぉ~♪ 早く起きないと遅刻しちゃうよぉ~?」
さっきの毒舌キャラボイスとは違う甘甘幼馴染ボイス!
まるで声優さんのようなボイスチェンジっぷりだ!
これは……萌える!
「……うぅん、もう少し寝かせてくれ……」
俺は「幼馴染が起こしにきたときにとる由緒正しき行動」をとり、すぐには起きない。
「ちっ、めんどくさいわね……」
素に戻った。しかし、すぐに「ごほんっ」と咳払いしてNANAMIは幼馴染み演技を再開した。
「もう~、そんなこと言ってないで起きなきゃだめだよ~?」
一瞬で人格も声も変えるのだからスゴイ。名人芸だ。
「……うーん……あと一分だけ……」
「タイマー起動。一分以内に起きなかったら殺す」
……今、物騒なこと言わなかったか?
寝たふりをしている間にもカウントは続いていく。
「三十秒」
今度は電子音声のような無機質無感情な声で経過時間を読み上げる。
……殺すって、じょ、冗談だよな?
「十秒」
う。
「五」
わ。
「四」
あ。
「三」
これは。
「二」
本当に。
「一」
まずい。
「ああああああ!」
俺は跳ね起きた。
「あら、残念」
NANAMIは無感情に告げる。
「ほ、本当にオレをヤるつもりだったのか!?」
「冗談よ、冗談。ま、あたしは戦闘もこなせる武装型幼馴染みアンドロイドだからドリルついてるけどね」
ドリル!?
「それは置いておいて。今日はもう帰るわね。今回は試験タイムリープのつもりだったから」
「今回はって、また来るのか?」
「そのつもりよ。ふふ、なんだかんだで楽しかったわ」
NANAMIはベランダに出ると発光し始めた。
そのまま両足の底から謎の推進力によって空へ飛翔していく。
「それじゃ、またね!」
その言葉とともにひときわ激しく発光してNANAMIは消えた。
「……。はは、夢にしてはすごかったな……」
やたらとリアルだった。
「さて、寝るか……夢の中で寝るのも一興だな」
俺は再びベッドに横になった。
次に目覚めたら、きっと夢は覚めているだろう。
それとも本当に現実なのか――。
……まさかな?
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