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スカイクラウド ―それは復讐の物語―  作者: 青木珊瑚
第1章 「俺はシリアス。シリアス・スカイクラウド。記憶を探す旅をしている。」
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 来た道を戻るようにして、上層へと向かった。

 本当に同じ街なのかと疑いたくなるほど、豪華な屋敷の並ぶ上層は、アラトスのそれとはまるで違う異世界のように広がっていた。

 服装も煌びやかに装飾され、道には塵一つ落ちていない。

 その異常とまで思えてしまう程の上層は、俺に冷たい視線を刺してくる。

 これだから貴族は嫌いだ。


 その中を更に歩き、一際目立つ屋敷が見えた。

 それこそが今回の目的地。

 バフェジ・マルタスの屋敷である。

 なんとまあ立派な屋敷だこと。嫌気がするね。

 門番といえば門番だが、その行き過ぎた武装は一国の兵士のような装いで門を守っていた。


「何だ貴様は!」


 うろうろとしていた隙に気付かれてしまった。

 さて、なんと言おうか。


「いやーわたくし、旅の者でして。随分と立派な屋敷なものですから、ついつい見惚れてしまいまして」

「それはそうだろう。なんたって、この街の1番であるバフェジ・マルタス様の屋敷なのだからな。アーッハッハッハ!」


 ぶち殺してやろうかと思った。

 腹立つなこいつ。


「用が済んだのならお引き取り願おう。我々も暇ではないのでな」


 うーん。困ったな。こんなのどうやって潜入すればいいんだ?

 一旦屋敷から離れることにした。

 あんな要塞のような屋敷に潜入するのは無理だろう。

 なら、直接バフェジ・マルタスに会う方法はないだろうか。


 下層に戻ってきた。

 ニーやロクのような子供だけではなく、もちろん大人もいる。

 ただ、誰もが目を濁らせ、アラトスの貧困層よりもひどい顔をしていた。

 しばらく歩いていると、何やら揉め事の声が聞こえた。


「アタシは何もしてない!」

「嘘を言うな! このマルタス様がはっきりと見たのだぞ?」


 マルタスだと!

 俺は声の聞こえた方へ急いだ。

 2つほど建物を越えた所で、その人物を発見した。

 さっき見た門番と同じ格好をした人が5人と、それに囲まれている小太りの人物こそがバフェジ・マルタスなのだろう。

 あー嫌だ嫌だ。なんでこうも嫌らしい貴族どもは皆揃ってステータスのように肥えてやがるんだ。


「放せ! 放せったら!」


 そのバフェジと対面しているのは、ニーと同じ歳くらいの少女だった。

 少女は護衛に手を掴まれ、それを必死に振り払おうとしていた。


「暴れるでない。傷が付けば値が下がる」


 値が下がる? どういうことだ。


「取ったものを返せと言っているだけだ。返さぬのなら、連れていくまでだ」


 なるほど、こうやってゼロも連れて行かれたわけだ。

 だが連れて行ったところで何のメリットがあるんだ?

 少し、割って入ってみるか。


「やーやー、何やら騒がしいね?」

「誰だ貴様!」

「ただの旅人ですよ。何かあったのですか?」

「このガキが私の屋敷から盗んだのだ」

「何も盗んでないわよ!」


 少女は一層暴れて手を解こうとする。


「一体何を盗まれたのです?」

「それは、その、我が屋敷の宝石よ」

「宝石1つでこの人数ですか。穏やかじゃないですね」

「何なのだ貴様は!」

「いえいえ、ですから旅人ですよ。偶然通りかかっただけですから」

「ええい、気に障る奴よ! 殺してしまえ」


 護衛の2人が俺に剣を構える。


「死にたくなければ、さっさと引くことだな」

「こんな所で旅路は終わりたくないだろう?」


 主が主なら護衛も護衛ってか?

 ったく、さっきの屋敷の件といい腹が立ってるんだ。

 憂さ晴らしでもさせてもらおう。

 後腰の剣を引き抜く。


「何だ、やる気か?」

「俺は女の子に乱暴する奴が嫌いなんだ。あと、貴族はもっと嫌いなんだ!」


 一番近くにいた護衛に切りかかるが、流石は鎧を着ているというか、その行き過ぎた武装でそう簡単にはダメージが入らない。


「口だけ達者でもなぁ!」


 反撃を食らいそうになるが、武装に対して技術がないのか、避けるのはそう難しくもなかった。

 しかし、防御の高い相手に、こちらがダメージを与えられないのもなぁ。しんどいよなぁ。


――首を刺せ。


 誰だ。いや、俺の声?

 首を刺すのか。確かに露出している部分ではあるが。

 ……考えている暇はない。


「ぐえっ……」


 喉を貫かれた護衛は、体を痙攣させ、剣を引き抜くと同時に地面へ倒れた。

 まあ、なんとも簡単に死んだこと。

 それを見ていたもう1人の護衛は、それに怯む事無く襲い掛かってくる。


「よくも!」


 だが、そう突っ込んでくるだけの護衛を避けるのは簡単だった。

 同じように喉に剣を刺す。

 同じように痙攣して地面へ倒れる姿に少し笑ってしまった。

 こうも人とはあっさり死ぬのかと、ついつい可笑しくなってしまう。


「次は誰かな?」

「お、覚えていろ! このバフェジ様に楯突いた事、後悔させてやる!」


 護衛とバフェジは、少女を突き飛ばして逃げ出してしまった。

 俺は剣を納めると、少女に手を差し伸べた。


「大丈夫かい?」

「え、ええ。助かったわ」


 少女は俺の手を取り、立ち上がった。


「あなたは?」

「ただの通りすがりの旅人です。あのバフェジに用があったのですが、逃げられてしまいました」

「用? 通りすがりの旅人なのに?」

「ああ、いや、その、ははは……」


 笑って誤魔化そうとしたが、無理あるわな。


「あなた、何者なの?」


 そう言われれば仕方がない。


「俺はシリアス。シリアス・スカイクラウド。記憶を探す旅をしている」

「そう。私はシーシャ」


 少女は興味がなさそうに返事をし、続けて言う。


「記憶を探す旅人さんがバフェジに用なの?」

「まあ、ちょっと寄り道というか、そんなところだ」

「けど、バフェジには滅多に会えないわよ? アイツは引きこもりだから」

「そうなのか。詳しいんだな」

「何度も仲間を連れて行かれたから。……許さない」


 少女は強く拳を握る。


「ねえ、ここで会ったのも何かの縁だわ。協力しない?」

「協力?」

「バフェジに用があるのでしょう? 私だって仲間を返してもらう用事があるわ。私はバフェジに詳しいけど、力がない。シリアスは詳しくないけど、力がある。ギブアンドテイクでどう?」

「いいね」


 俺は2つ返事で合意した。

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