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俺が目を覚ました時、路上に倒れていたのを覚えている。
後頭部に強い痛みがあった。
しかし、何度考えてもその答えが出ない。
何故こんなところで倒れていたのか。
何故後頭部が痛むのか。
俺は誰なのか。
大通りに出ると、まばらながら人通りはあった。
それなりの街の規模のようだが、どうも人に覇気を感じない。
まともに話を聞くような感じには見えなかったので、少しばかり歩いてみた。
まるで層のようになった街並みは、上に行くほど豪華になっていく。
上に行けば、少しくらいまともな人がいるだろう。
そう思い、階段にもなっていない坂道を上がった。
しかし、最悪という言葉しか出ないほど、人は腐っていた。
俺の事を貧困層の人間だとか、近寄るな等、なかなかの言われようだった。
むかついた俺はその街を出た。
あとからアラトスという街だという事を知ったが、二度と行くことはないだろう。
貴族の連中とは金輪際関わりたくないものだ。
☆
この街もアラトスとそう大して変わらないように見える。
どうも貴族という存在は上の方が好きらしい。
そして貧困層も下の方が好きらしい。
たまには下に貴族。上に貧困層という街も見てみたいものだ。
冗談はさておき、この街はアラトスよりも酷い惨状であった。
その最たるものが、目の前にいる少年達。
ニーとロクに、礼がしたいと連れられてやってきたのは、親のない子だけで生活する1つの集落のような場所だった。
「ロク! ニー!」
2人に駆け寄ってくる数人の子供だが、その後ろにいた俺に警戒して立ち止まる。
「大丈夫だよ。ロクを助けてくれたんだ」
ニーがそういうが、やはり警戒してか近くには寄ってこない。
しばらくすると、ちりじりに離れて行ってしまった。
「ニー。俺は来ないほうがよかったんじゃないか?」
「気にしないで。皆ゼロの事で警戒してるんだ」
「ゼロ?」
俺がそう聞くと、しまった。という顔で口を手で塞ぐ。
しかし、ロクはよく分かっていないのか、その続きを話す。
「ここのリーダーだよ。皆は兄ちゃんって呼んでるけど」
「おい、ロク」
「別に大丈夫だよ。悪い人じゃないんでしょ?」
「それは、そうだけどさ……」
ゼロという人物について話したくないのか、ニーは難色を示す。
「そのゼロって人はどこにいるんだ?」
「……捕まっちゃったんだ」
「捕まった?」
それが何を意味するのかは分からないが、彼らにとって深刻な問題のようだ。
「皆、生活のために上層から物を取ってくるんだ。けどある日、ここに貴族が来て、盗んだ物返せって。でも誰も取ってなくて。怒った貴族がここを壊そうとしたんだ」
「そしたら、ゼロが、俺がやったって。ゼロは絶対にしないのに。ここを守るために嘘を言って、捕まったんだ」
段々と彼らの顔が暗くなっていく。
なるほどな。この街にも色々あるということだ。
「シリアスは旅人なんだよね! 強いんだよね!」
「ロク! これは俺たちの問題だ!」
「でも!」
泣きながらロクはニーに訴える。
「兄ちゃんが! 兄ちゃんは何も悪くないのに!」
――お兄ちゃん。
「ロク!」
「シリアス。兄ちゃんを助けてよ!」
――お兄ちゃん。助けて。
誰かの声がする。
誰かは分からない。
でも俺は知っている気がする。
それが俺の記憶と関係しているなら。
俺は記憶を探す旅をしている。その旅からは逃げられない。
「ニー。ロク。その連れて行った貴族というのに覚えはあるか」
「シリアス!」
ロクの目が俺を見つめる。
しかしニーはそれを静止する。
「おい! これは俺たちの問題で……」
「そう。君たちの問題だ。だから気にするな。俺が勝手に行くだけさ」
「……なんだよそれ」
「さっき言ったろ? 俺は記憶を探す旅をしているって。何か思い出しそうなんだよ。だからちょっと寄り道するだけ。な?」
嘘は言っていない。
俺を呼ぶ声。その正体が分かれば、少しでも記憶が思い出すかもしれない。
ニーは少し考えたように顔を伏せ、そして俺に言った。
「……分かった。でも俺たちの邪魔はするなよ」
「迷惑にならないよう気を付けます」
「……」
ニーは何かを言いたそうだったが、黙ったままだった。
ロクはいまいち俺の言っている意味が分かっていないのか、ポカンとしていたが、それでいい。
何も知らないほうが幸せってこともあるもんだ。
俺も思い出さないほうがいい記憶があるのかもしれない。
だが、唯一覚えていたこと。
――誰かに殺されなくてはいけない。
何故そんなことを思ったのか。
何故それだけは覚えていたのか。
その理由を探すのが俺の旅の目的だ。
次回更新は24日20時30分頃予定