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スカイクラウド ―それは復讐の物語―  作者: 青木珊瑚
第1章 「俺はシリアス。シリアス・スカイクラウド。記憶を探す旅をしている。」
14/16

 路地に響き渡る声と足音。

 手に何かを握って逃げる少年と、それを追いかける兵。

 兵の手には武器が握られ、逃げる少年にあと少しというところまで迫っていた。

 路地を抜け、大通りに出る。

 人通りの多い中を上手く利用し、兵を巻こうと考えた少年は、しかし人にぶつかってしまう。


「はーっ、はーっ。ったく、手こずらせやがって!」


 道行く人は、またいつもの事と少年を気に留める者はいない。

 少年に追いついた兵は武器を向ける。


「助けて!」


 そう少年が言ったところで誰も助けに行く者などいない。

 ここは上層。

 豪華な屋敷が建ち並び、これでもかと物の溢れる貴族の街。

 そこに下層。

 荒廃した建物が立ち並び、何もない無法とかした街の住民の声など、誰も聞くはずがなかった。

 よくて盗人が命乞いをしていると思う程度。

 内心どうでもいいと思っている者の方が多いのが実情。

 下層など滅ぼせばいいと考える者もいる。


 しかし、少年は運が良かった。

 兵と少年の間に割って入る男。

 その男、まだ何も知らぬ、ここに到着したばかりの青年であった。



 ☆



「誰だ貴様!」


 矛先が俺に向く。

 この街では街中で剣を抜こうが、人が死のうが、お構いはないらしい。

 街の中に入ってからというもの、豪華な街並みが揃う場所で、平然と死体が転がっている。

 街の者はそれをないもののように扱い、その死体は揃って、この豪華な街には似合わない、何とも貧相な服装をしている。

 この突然ぶつかってきた少年も、その死体と同じく貧相な服装であった。


「さあな。俺自身分からない」

「なんだと? ふざけるのも大概にしろ!」


 そう言って男は俺の鼻先に剣先を向ける。


「そのガキをこっちに渡せば、痛い目は見ないぜ」

「痛いのは御免だ。だが」


 俺は後腰から剣を抜く。


「俺は貴族が嫌いでね。それに雇われてる犬も嫌いなんだ」


 一歩下がり、男の持つ剣を弾き飛ばす。

 そして今度は俺が男の鼻先に剣先を突き付ける。


「な、何の真似だ」

「お前の真似さ。ただ、あいにく物真似は苦手でね。間違ってこのまま刺し殺してしまいそうだ」


 そんな脅し文句でこの男が逃げ出すようならそれまでの男だが、どうかな。


「ひえ~」


 何ともまあ、情けない悲鳴を上げて逃げて行ってしまった。

 俺は剣を納めると、少年の方を向いた。


「大丈夫かい?」

「う、うん」


 少年は握っている物を隠すように、手を後ろへ回した。


「何を持ってるんだい?」


 と聞いてみるものの、何でもないよ。と、しらを切られる。

 まあ、別にどうでもいいんだけど。

 さて、どうしようか。と思っていると、どうも道行く人の目線が俺に刺さる。

 何かおかしいのかとも思うが、そういう目で見られているわけではないように思える。

 何か、よそ者を見るというのか、のけ者を見るというか、そういう目。


「君、俺って何かおかしいことでもしたのかな?」


 と聞いてみるが、少年は答えない。

 うーん、困ったな。来たばかりだというのに、こんなにも居心地の悪い街だとは。

 そう思っていると、俺目掛けて走ってくる人影が見えた。


「ロクから離れろ!」


 ロクと呼ばれた少年よりは少し歳が上であろう、それでもまだ13か14に見える少年が俺に言う。


「君は?」

「なんだっていいだろ! ロクから離れろよ!」


 そう言って俺の後ろにいた少年の手を引っ張り、自分の方に引き寄せる。


「違うよニー。僕を助けてくれたんだ」

「えっ?」


 ロクは、ニーと呼んだ少年にそう言った。

 ニーと呼ばれた少年は目を丸くして俺を見る。


「そうなのか?」

「まあ、そんなところだ」


 俺の返事にまさかとでも言いたそうにじっと見つめる。


「お前、何者なんだ?」


 何者と言われると、自分自身何と言えばいいか分からない。

 なにせ。


「俺はシリアス。シリアス・スカイクラウド。記憶を探す旅をしている」


 シリアス()スカイクラウド(無し)なのだから。

次回更新は22日20時30分頃予定

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