1
路地に響き渡る声と足音。
手に何かを握って逃げる少年と、それを追いかける兵。
兵の手には武器が握られ、逃げる少年にあと少しというところまで迫っていた。
路地を抜け、大通りに出る。
人通りの多い中を上手く利用し、兵を巻こうと考えた少年は、しかし人にぶつかってしまう。
「はーっ、はーっ。ったく、手こずらせやがって!」
道行く人は、またいつもの事と少年を気に留める者はいない。
少年に追いついた兵は武器を向ける。
「助けて!」
そう少年が言ったところで誰も助けに行く者などいない。
ここは上層。
豪華な屋敷が建ち並び、これでもかと物の溢れる貴族の街。
そこに下層。
荒廃した建物が立ち並び、何もない無法とかした街の住民の声など、誰も聞くはずがなかった。
よくて盗人が命乞いをしていると思う程度。
内心どうでもいいと思っている者の方が多いのが実情。
下層など滅ぼせばいいと考える者もいる。
しかし、少年は運が良かった。
兵と少年の間に割って入る男。
その男、まだ何も知らぬ、ここに到着したばかりの青年であった。
☆
「誰だ貴様!」
矛先が俺に向く。
この街では街中で剣を抜こうが、人が死のうが、お構いはないらしい。
街の中に入ってからというもの、豪華な街並みが揃う場所で、平然と死体が転がっている。
街の者はそれをないもののように扱い、その死体は揃って、この豪華な街には似合わない、何とも貧相な服装をしている。
この突然ぶつかってきた少年も、その死体と同じく貧相な服装であった。
「さあな。俺自身分からない」
「なんだと? ふざけるのも大概にしろ!」
そう言って男は俺の鼻先に剣先を向ける。
「そのガキをこっちに渡せば、痛い目は見ないぜ」
「痛いのは御免だ。だが」
俺は後腰から剣を抜く。
「俺は貴族が嫌いでね。それに雇われてる犬も嫌いなんだ」
一歩下がり、男の持つ剣を弾き飛ばす。
そして今度は俺が男の鼻先に剣先を突き付ける。
「な、何の真似だ」
「お前の真似さ。ただ、あいにく物真似は苦手でね。間違ってこのまま刺し殺してしまいそうだ」
そんな脅し文句でこの男が逃げ出すようならそれまでの男だが、どうかな。
「ひえ~」
何ともまあ、情けない悲鳴を上げて逃げて行ってしまった。
俺は剣を納めると、少年の方を向いた。
「大丈夫かい?」
「う、うん」
少年は握っている物を隠すように、手を後ろへ回した。
「何を持ってるんだい?」
と聞いてみるものの、何でもないよ。と、しらを切られる。
まあ、別にどうでもいいんだけど。
さて、どうしようか。と思っていると、どうも道行く人の目線が俺に刺さる。
何かおかしいのかとも思うが、そういう目で見られているわけではないように思える。
何か、よそ者を見るというのか、のけ者を見るというか、そういう目。
「君、俺って何かおかしいことでもしたのかな?」
と聞いてみるが、少年は答えない。
うーん、困ったな。来たばかりだというのに、こんなにも居心地の悪い街だとは。
そう思っていると、俺目掛けて走ってくる人影が見えた。
「ロクから離れろ!」
ロクと呼ばれた少年よりは少し歳が上であろう、それでもまだ13か14に見える少年が俺に言う。
「君は?」
「なんだっていいだろ! ロクから離れろよ!」
そう言って俺の後ろにいた少年の手を引っ張り、自分の方に引き寄せる。
「違うよニー。僕を助けてくれたんだ」
「えっ?」
ロクは、ニーと呼んだ少年にそう言った。
ニーと呼ばれた少年は目を丸くして俺を見る。
「そうなのか?」
「まあ、そんなところだ」
俺の返事にまさかとでも言いたそうにじっと見つめる。
「お前、何者なんだ?」
何者と言われると、自分自身何と言えばいいか分からない。
なにせ。
「俺はシリアス。シリアス・スカイクラウド。記憶を探す旅をしている」
シリアス・スカイクラウドなのだから。
次回更新は22日20時30分頃予定