君の意識は吟遊詩人の前に戻される。
とても苦しい、何とも言えない感情が君を襲う。
怒りと悲しみが同時にやってきたその感情は、しかしすぐに収まる。
まるで自分が物語の人物と一体になったような、不思議な感覚。
――1人の男の物語。
吟遊詩人の女は君の事など気にも留めず、詩を続ける。
しかし、君は立て続けに体験する疲れで、少し休憩したいと思った。
吟遊詩人に別れを告げて、街の中を歩く。
旅人の街と呼ばれるだけあり、いろんな人々で溢れている。
街に立ち並ぶ店も様々あり、多くは宿を兼営している。
君は少し気になった事があった。
街を見下ろすことのできる丘の存在だ。
高い建物の並ぶ街中では見えないが、外に出れば見えるのではないかと考え、一旦街の外に出ることにする。
街の外に出た君は、辺りを一周見渡し、そして見つけた。
街から歩くこと15分くらいで、その丘の頂上に着く。
空は青く、白い雲が浮かんでいるのがよく見える。
街を一望でき、非常に良い景色だ。
しかし、君が予想していたようなものは特別何もなかった。
何の変哲もないただの丘である。
詩の中にあった墓石のようなものは見当たらない。
少しがっかりして丘を降りようとした時だった。
――ある街に男の姿がありました。
君はその声に体をびくりと跳ねさせた。
吟遊詩人の女がそこにはいた。
――街は煌びやかな生活を送る者。そしてその闇に生活する者。
何故こんなところにいるのか。
まさか君を追ってきたとでもいうのだろうか。
しかし吟遊詩人の女は詩以外の声を出さない。
だた静かにリュートの奏でる音だけが丘の上に響く。
――まだ何も知らない彼を迎えたのは、その街の当たり前の光景でした。
次回更新は21日20時30分頃予定