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数日が経った。
未だに弟は見つからない。
私は、スラムの知り合いにもお願いして弟を探してもらっていた。
それでも全く、見つからなかった。
「マイア」
私を呼んだのは、弟の捜索を手伝ってくれている内の1人、メイだった。
多分歳は私と変わらないくらい。
身なりはそれなりに小綺麗にしている。
「何」
私は弟が見つからない焦りと心配でイライラしていた。
メイに当たるつもりはなかったけど、最近は誰に対してもキツイ口調になっていた。
表情もきっと強張っていると思う。
「もう、マイア怖いよ?」
「……ごめんなさい。でも気が気でなくて」
「これあげる。ちょっとは落ち着きなさい」
メイが差し出したのは白い小さな箱。
中には15本ほどの細く茶色い筒が入っていた。
「悪いけど、煙草は吸わないわ」
「せっかくマイア用にブレンドしたのに」
メイの本職は煙草商人だ。
何処かで仕入れてきた葉をブレンドして、オリジナル煙草として販売している。
このスラム街の煙草のほとんどは、メイが独占しているといっても過言じゃないはず。
「私用?」
「そうよ? 心を落ち着かせる葉をふんだんに混ぜて、紙で巻く代わりにタバンタ葉で巻いたの。ちょっと甘味がある感じにしてみたわ。せっかくだから持っておいてよ。お金は取らないし」
そう言って半ば強引に煙草を押し付けてメイは去って行った。
メイは計算高い子だ。
このスラムでこれだけ金に飢えている者がいる中、生活費よりも煙草に金を割くという人は多い。
メイ自身が言っていた。煙草は一度吸い始めたらやめられないようにしている。そうすれば継続的に金が手に入るからと。
この煙草にもきっと入れているのだろう。その秘密を。
私はポケットに煙草を入れて、また弟を探しに街へ出た。
☆
更に2日経った。
まだ弟は見つからない。
私はもっと早くに気が付くべきだった。
攫われ、別の街で奴隷として売られている可能性を。
この街にはもういないと判断した私は街を出ることにした。
あてはないけど、この体があれば何とでもなる。
寝床から必要そうなものだけ持っていこうと整理をしていた時の事だった。
「マイア!」
メイだった。
「あ、ちょうど良かった。私この街を出ようと思って……」
「マイア大変だよ! アンタを探してる人がいるんだよ!」
「私を探してる?」
「ミュートの事だって! アンタを探してる」
「どこ! どこよ!」
メイの襟元を掴んで引き寄せる。
弟の事って。それに私を探してるって。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ。案内するから」
メイから手を離す。
服を直し、ついてきて。というメイの後をついていく。
着いた先は何でもないスラム街の通りの1つ。
黒い服に黒い帽子という、何とも浮いた格好をした人がいた。
「彼がそうよ」
その浮いた格好をした男が弟を知っているという。
「ミュートはどこなのよ!」
「貴女がマイアさん、ですね」
「そうよ。私がマイア」
男はポケットから何かを取り出す。
「……これに、覚えはありますか?」
それはミュートがいつも身に着けていた、首飾りだった。
そして、それは血に濡れていた。
「な、何よこれ……」
「ミュートさんは、貴女の為と闘技場に参加し、亡くなりました」
……何て? 何て言ったの?
亡くなった……?
「どういう事よそれ!」
私は黒服の男に掴みかかった。
「マイア!」
「うわっ!」
男は私に掴みかかられた衝撃でそのまま倒れてしまう。
「アンタ何者なのよ! それにミュートの事も! ちゃんと説明してよ!」
☆
アラトスからの挑戦者。
それが弟を殺した相手の情報だった。
闘技場というのは聞いたことはあった。
都の貴族共が秘密裏に行っている賭け事。
それに私の為と。私が働かなくてもいいようにと。
闘技場に参加して、殺された。
そんなの。そんな事、どうでもよかったのに。
私の体がいくら汚されようとも。
いくら私の心が荒もうとも。
弟が。ミュートがいたからこそ!
私は……私は……。
何かが崩れるような。
唯一保っていた何かが、崩れた。
寝床で、もう何が何だか分からず、がむしゃらに、無茶苦茶に、力任せに、叫び声も鳴き声も一緒になったような声で発狂しながら暴れ狂っていた。
それでどうなるものでもない。
弟が返ってくるわけでも、私の気が晴れるわけでもない。
でも、もう止められなかった。
どこに当てたらいいかも分からない怒りを、ただ辺りに撒き散らしていた。
次回更新は20日20時30分頃予定。
もしかしたらもうちょっと早めに出来るかもしれませんが。
17日追記 サブタイトルずれていたので修正しました。