3
お姉ちゃんはいつも夜中に抜け出す。
僕はいつも寝たフリをする。
お姉ちゃんは夜にどっかに行って、朝知らないうちに帰ってくる。
そうしたらお金を持って帰ってくるんだ。
きっと僕がいるから。僕の為に内緒でお金を取ってくるんだ。
――盗みはいけないこと。
お姉ちゃんはいつもそう言う。
そう言うくせに、自分は取ってくるんだ。
そんなの、僕は嫌だよ。
僕だって、いつまでも子供じゃないんだ。
僕だって。僕だって。
☆
いつものように寝床に戻った。
そう。いつもの寝床だ。
何度見ても、いつもの寝床だ。
扉も、壁も、置いてある家具も、同じだ。
「ミュート……?」
弟の姿がなかった。
荒らされた形跡はない。
何かを盗られた形跡もない。
忽然と弟だけが消えていた。
「ミュート!」
私は寝床の外に向かって声をかける。
しかし返事はない。
どこに行ったのだろう。
勝手に何処かへ行くようなことは、今まで一度もなかった。
私は寝床を飛び出した。
☆
「闘技場?」
「そうだ。そこなら大金は手に入る。だが、命の保証はないし、そもそも都まで行かないといけない。ま、普通の人間には関係ない話だな」
僕は寝床を飛び出して、街に出てきていた。
その中で聞いた情報に闘技場の話が何回かあった。
僕もスラムで聞いたことはあった。
都に出ると戦って大金が手に入る大会があるって。
スラムで何とかお金を貯めて、それで都で大金持ちになった人がいるって。
だから、それに出ればお姉ちゃんも悪い事しなくていいかなって。
でも、どうやって行こう。
お金はないし、そもそも都の場所も知らない。
ほかの事も調べた。
けど、僕には分からなくて。お金の価値も、どうしたらいいかも分からなくて。
だから都に行って、闘技場で大金持ちになったらいいのかなって。
いっぱいお金があればあるほどいいのかなって。
そして、都に行く方法を知った。
街の中心に汽車が走っているそうだ。
それに乗れば都まで1日ちょっとで行ける。
汽車の乗り場に来た。
けど入れなかった。
お金がいるって、止められた。
あとで、いっぱいお金持って帰るからって言っても、乗せてくれなかった。
だから、ちょっとだけ期待して、もしかしたら運良くお金を拾えるんじゃないかと思って、街を歩き回ることにした。
僕は汽車の乗り場で座り込んでいた。
1つもお金は拾えなかった。
もう日が沈みかけている。
僕は首飾りを触った。
お姉ちゃんがくれた僕の宝物だ。
きっとお姉ちゃんは心配しているだろうし、都に行けないなら一旦帰ろう。
そう思った時だった。
地面に何かが落ちているのが見えた。
紙のようなそれを拾うと、それは都行の汽車の乗車券だった。
これはきっと、お姉ちゃんに悪い事を止めさせるように神様がくれたんだ!
僕は得意げに乗り場のおじさんに紙を見せて、汽車に乗り込んだ。
☆
弟はどこにもいなかった。
スラム中を探した。
奴隷市場にも行った。
もしやと思い、夜になって街も探した。
けど、どこにもいなかった。
一体、どこへ行ったの。
次回更新は16日20時30分頃予定
17日追記 サブタイトルずれていたので修正しました。