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スカイクラウド ―それは復讐の物語―  作者: 青木珊瑚
プロローグ マイア編
11/16

3

 お姉ちゃんはいつも夜中に抜け出す。

 僕はいつも寝たフリをする。

 お姉ちゃんは夜にどっかに行って、朝知らないうちに帰ってくる。

 そうしたらお金を持って帰ってくるんだ。

 きっと僕がいるから。僕の為に内緒でお金を取ってくるんだ。


――盗みはいけないこと。


 お姉ちゃんはいつもそう言う。

 そう言うくせに、自分は取ってくるんだ。

 そんなの、僕は嫌だよ。

 僕だって、いつまでも子供じゃないんだ。

 僕だって。僕だって。



 ☆



 いつものように寝床に戻った。

 そう。いつもの寝床だ。

 何度見ても、いつもの寝床だ。

 扉も、壁も、置いてある家具も、同じだ。


「ミュート……?」


 弟の姿がなかった。

 荒らされた形跡はない。

 何かを盗られた形跡もない。

 忽然と弟だけが消えていた。


「ミュート!」


 私は寝床の外に向かって声をかける。

 しかし返事はない。

 どこに行ったのだろう。

 勝手に何処かへ行くようなことは、今まで一度もなかった。

 私は寝床を飛び出した。



 ☆



「闘技場?」

「そうだ。そこなら大金は手に入る。だが、命の保証はないし、そもそも都まで行かないといけない。ま、普通の人間には関係ない話だな」


 僕は寝床を飛び出して、街に出てきていた。

 その中で聞いた情報に闘技場の話が何回かあった。

 僕もスラムで聞いたことはあった。

 都に出ると戦って大金が手に入る大会があるって。

 スラムで何とかお金を貯めて、それで都で大金持ちになった人がいるって。

 だから、それに出ればお姉ちゃんも悪い事しなくていいかなって。

 でも、どうやって行こう。

 お金はないし、そもそも都の場所も知らない。


 ほかの事も調べた。

 けど、僕には分からなくて。お金の価値も、どうしたらいいかも分からなくて。

 だから都に行って、闘技場で大金持ちになったらいいのかなって。

 いっぱいお金があればあるほどいいのかなって。

 そして、都に行く方法を知った。

 街の中心に汽車が走っているそうだ。

 それに乗れば都まで1日ちょっとで行ける。


 汽車の乗り場に来た。

 けど入れなかった。

 お金がいるって、止められた。

 あとで、いっぱいお金持って帰るからって言っても、乗せてくれなかった。

 だから、ちょっとだけ期待して、もしかしたら運良くお金を拾えるんじゃないかと思って、街を歩き回ることにした。


 僕は汽車の乗り場で座り込んでいた。

 1つもお金は拾えなかった。

 もう日が沈みかけている。

 僕は首飾りを触った。

 お姉ちゃんがくれた僕の宝物だ。

 きっとお姉ちゃんは心配しているだろうし、都に行けないなら一旦帰ろう。

 そう思った時だった。

 地面に何かが落ちているのが見えた。

 紙のようなそれを拾うと、それは都行の汽車の乗車券だった。

 これはきっと、お姉ちゃんに悪い事を止めさせるように神様がくれたんだ!

 僕は得意げに乗り場のおじさんに紙を見せて、汽車に乗り込んだ。



 ☆



 弟はどこにもいなかった。

 スラム中を探した。

 奴隷市場にも行った。

 もしやと思い、夜になって街も探した。

 けど、どこにもいなかった。

 一体、どこへ行ったの。

次回更新は16日20時30分頃予定

17日追記 サブタイトルずれていたので修正しました。

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