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スカイクラウド ―それは復讐の物語―  作者: 青木珊瑚
プロローグ マイア編
10/16

 天井のない廃墟。

 澄んだ空に浮かぶ星も、もう見飽きてしまった。

 隣で静かに寝息を立てている弟を起こさないよう、私はゆっくりと体を起こした。

 いつ、何が起きてもおかしくない時間帯。

 空き巣、強盗、人拐い、殺人。

 それが日常。それが私の住むタバンタのスラム街だ。


 幼い頃、私と弟は捨てられた。

 まだ歩くのがやっとの弟を庇いながら生きてきた。

 親の顔など、もう覚えていない。

 奴隷商人に拐われたこともあった。

 強盗にも何度も襲われた。

 だけど幸い、私の体で許された。


 自分の年齢は分からない。

 けど、同じに見える他の人よりも、私の体は贅沢だった。

 私が体を差し出せば、命は助かった。

 弟も助かった。

 いつしかそれが仕事になった。

 悦ばせれば、金が貰えた。

 それで弟が、私たちが生活できるなら、私の体くらいいくらでも差し出す。


「お姉ちゃん」


 私は弟を起こしてしまったかと見ると、どうやら寝言のようだった。


「待っててね」


 私はそっと頭を撫でると、寝床を出た。

 密集する建物と、あらゆる物が混ざった腐った臭い。ゴミで溢れた川。

 道端で死んだように寝ている人。薬の高揚感に溺れる人。

 私の事を待つ人。


「よおマイア」


 この男。私の体を斡旋する仲介人。

 知り合ったのはもう何年前になるか。

 私の仕事としての初めての相手でもあった。


「今日は何人?」

「3人だ。ついてこい」


 男の名前は知らない。

 別に知る必要もない。

 ただ金が手に入るなら、それだけでいい。


「ここだ」


 着いた先は一軒の家の前。

 家と言っても、スラムの人は勝手に廃墟に住んでるだけだから、家とも言えないんだけど。


「終わったらすぐに出てこい。次が待ってる」

「言われなくたって長居はしないわよ」


 私はノックをして返事も待たず勝手に入る。


「こんばんは」


 今日も私は買われる。

 それしか生きる術を知らないから。



 ☆



 空はまだ暗いが、少しずつ明るさを取り戻していた。

 3件目の仕事も終わらせ、その家を出たところだ。


「随分と長かったな」

「随分と熱心に舐め回されたわ。……気持ち悪い」

「それはそれはご苦労さん。で、金は?」

「もちろん、しっかり“取って”きたわ」


 私の仕事は2つ。

 体で稼ぐ金と、その家から盗む金。

 その2つがあってようやく成り立つ。


「今日のお前の取り分だ」


 そうして男から渡される金は、私が取った金の一部。

 それが多いのか、少ないのか、私には分からない。

 けど、このスラム街で普通に働く金よりは何倍も多い。


「また頼むわ」


 私は金を受け取るとすぐに家に戻る。

 弟が目を覚ます前に家に着かなくてはいけないからだ。

 だが、その前に体を洗いたかった。

 ったく、あのおっさん、体ばっかり舐め回しやがって。べとべとじゃない。

 といってもシャワーみたいな高級品があるわけでもなく、そこのゴミが溢れている川で体を洗う。

 幸いゴミは川の端に溜まるので、真ん中は比較的綺麗なままだ。

 冷たい水が体に染みる。


 ……鼻をつく臭いに、私は吐いた。

 私の体から出る男の臭い。

 吐いて。吐いて。泣いた。


 いつまでこんなことをしなければいけないのか。

 弟の為に、私たちが生きていくために金が必要。

 でも。でも、心が持たない。

 ……誰か。誰か助けて。

次回更新は15日20時30分頃予定

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