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因幡の白兎

面白かったけど、話は長かったな。


ヤガミ姫の恋愛話をなんとか切り上げて外に出た俺は思い返した。


まあ、ここより都会であるという場所の話を聞けたので良しとしよう。

創作にも役立ちそうだったしな。


俺の恋愛? それは無理。いかに小説には実体験が必要だって言っても、男に欲情なんてできる気がしない。

そこは諦めているよ。



この国で一番の都会は、東に進んで、オオナムジの村から南に折れてまっすぐ行った先にあるらしい。


オオナムジが教えてくれれば、ここに寄る必要もなかったのだが、あいつ、知らなかったんだろうな。

これが姫と一般人の差だろう。


ともあれ俺は気分良く、一旦来た道を引き返し始めた。



行く時に通ったんだが、ヤガミ姫の街と、オオナムジの村の間には砂浜があって、海に面している。


海を見るのは今世では初めてだったので行きは感動したんだけど、2回目になると流石に感動は薄れてくる。


それでも綺麗なことは綺麗なので、俺はしばらくそちらを見つめていた。


少し違和感に気づく。


水平線の方に、何かが並んでいる。


あの背びれは⋯⋯ 。サメだな。


サメが群れを作ることはあるかもしれないけど、あんなに一直線に並ぶことはあるのか?


不思議だ。

不思議な出来事を見つけたら観察するのが、創作のためには重要だ。


俺は何をやっているのか見ていることにした。



しばらく見ていると、サメの背中を踏みながら白い兎が飛び跳ねてくるのが見えた。


沖に島でもあるんだろうか。しかし、ウサギとサメの共同作業なんて、まるでおとぎ話だな。

言葉でも話せたりするんだろうか。


そろそろ兎が岸に近づいてきたので、俺は身を隠すことにした。


出待ちしているみたいで印象悪いだろうし。こうするべきだろう。


岸に着くか着かないかのうちに、兎が言葉を発した。


「お前たちの数なんて数えている訳ないだろバーカ。お前たちは騙されたんだよ。ありがとね。私のために橋渡ししてくれて。」


ひたすらに相手をバカにした口調だ。メスガキじみた感じ。⋯⋯メスガキって何だ。

岸についてからいえば良いものを、最後の一匹の上でそれを言ったから、兎は怒ったサメに捕まってしまった。


「ごめんなさい。ごめんなさい。」


「あ?泣いて謝っても助けは来ねえぞ?」


見ようによっては、サメが兎にひどいことをしているみたいだが、この非は兎にあるからな。

普通に数えておけば、別に足場として利用されても気にしなかっただろうに。


口は災いの元ってやつだな。まあ、兎はこういう役回りになる話が多い気がする。何でだろうか。

確かかちかち山とかもそうだったような。


まあ、俺は観察するだけで良いかな。助ける必要はないだろう。


最終的に、全ての皮を剥がれて、裸になった兎が一羽、砂浜の上に打ち捨てられた。


⋯⋯ ここまでくると哀れを催すな。


っと、誰か来たようだ。


もう少し様子を見るか。


砂浜にやってきたのは見るからにチャラそうなの男たちだった。

何というか、男として論外である。


⋯⋯ でも、本を書くならチャラ男の生態にも詳しくなくちゃいけない。全ての登場人物を魅力的に書けてこそ、一人前の作家だ。


「お、兎がいるじゃん。」


「何かお困りのようですね。なんてな。ハハッ。」


「なになに。皮を剥がされた?それなら良い手段があるよ。」


「そっ、それは?」


「体を海水につけて、そのあと、山の頂上に行って強い風と日光に当たることで治るさ。」


「なるほど。早速やってみます!」


親切を疑わない兎は、すぐさま海の中に入ってしまった。


いやちょっと待て。それあれじゃん。おいしい肉の作り方じゃん。


「最初は痛いかもしれないけど、そのうち痛みも引いてくるさ。」


「はい!」


すっかり兎も信じ切ってしまっている。


流石に見過ごせなくなってきた。

皮を剥がされることまでは自己責任だけど、さらに悪意によってひどい目にあうのは、違う。


止めに行こう。



「ねえ、そこの兎くん。」

俺はウサギに声をかけた。


だが、遮られる。

「あっ、あのお姉さんじゃーん。」


「俺たち、チョッチお姉さんにお話あるんですけど。」


「俺と付き合ってくれない?」


チャラ男に目をつけられた。


何でだよ。意味がわからないよ。これがナンパってやつか。


「朝村で見た時から激マブだなって思ってたんすよ。」


「そうそう。一目惚れ的な。」


「求婚の準備は整っているさ。」



ゾゾゾと虫酸が走っている。


「嫌です。見ず知らずの男にどうして求婚されなくてはいけないんですか。」


「俺たちこう見えて、名士の家だから金はあるよ?」


「そうそう。何なら三人でお相手しても良いし。」


「4pか。悪くない。」


「悪いわ!」


丁寧語の仮面を繕っている余裕もない。何だこいつら強すぎる。


「可能な限りの希望は聞くつもりだぞ?」


「ほんと?なら、本が欲しい!」


「本?ってのが何なのかわかんないすけど、探しますよ。」


⋯⋯ 。ちょっと魅力的だな。


いやいやいや。それ以前にこいつらは、兎をからかって苦しめようとしていた。

性格的に受け入れられない。


「嫌です。」


はっきりと拒絶の意思を伝えよう。


「下手にでりゃつけあがりやがって。一度体にわからせてやる必要がありそうだな。」


「やれるものならやってみやがれ。」


こちらも油断なく返す。


「女の身で何ができるって言うんだ。」


「こっちは三人だぞ。」


「やっちまえ!」


ボコボコにしようと拳を振り上げてくる三人組だが、実のところ、何一つ怖さを感じない。三人組によく襲われるなと考える余裕さえあった。一番最初のごろつきもこんな感じだったよな。


一体多戦闘の描写の礎になってくれると助かる。


⋯⋯ 。


三人は特に特筆することもなく倒せた。あの蛇に比べればまあ、どうしても見劣りする。

戦闘描写の訓練になったかと言われると、疑問符が着いてしまうな。


もう少し、手加減を覚えるべきなのかもしれない。


次に誰かと戦闘になったら、どう言う風に相手が動いているのかよく観察してみるか。


そうしよう。


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