天孫降臨
「お前たちには孫のニニギノミコトと共に葦原中国に行って欲しいのじゃ。」
天照は開口一番そう言った。
「ニニギ。入れ。」
「はい。よろしくお願いします。みなさん。」
ニニギの第一印象はエロゲ主人公だった。それも一昔前の。
なんだよその伸ばし切った前髪は。俺が切ってその下のギラギラした目を白日のもとに晒してやろうか?
ともあれ、それは印象だけだ。口調は礼儀正しいから大丈夫だろう。
あとは、アメノウズメが毒牙にかからないかどうかだけが心配だな。
ちらりと確認したが、眼中にない様子だった。
わかる。メカクレって何がやりたいのかよくわからないよね。
どっかの海賊紳士が怒った気がしたが、よく思い出せないので気にしない。
「ちなみに異論は認めないからの。オモイカネはその知恵で、アメノウズメはその技で、夜は、その経験でニニギをサポートするのじゃ。」
「はっ。天照様の仰せのままに。」
「地上かー。楽しみだなー!」
「えっ?えっ?」
事態に順応できていないのは俺だけのようだった。
葦原中国って地上のことなの?
この安定した高天原生活から追放されてしまうのかよ。
「頼んだからの。」
天照は話は終わりという風に打ち切ってしまった。
そりゃ最高責任者はそれだけでいいかもしれないけどさ。
白が言ってたのはこのことだったのか。
やはり未来視は外れないみたいだ。
くぅ。仕方ないな。
確かにいつまでここでゆっくりしていてもしょうがない。
俺は俺の話を生産するんだ。
白に挨拶したらすぐにでも行こう。
書物以外の物に執着がほとんどないから荷物がないのはいいことだ。
書物も一旦読んだら覚えるしな。
ウズメとともに白に挨拶に行ったら泣いて引き止められたけど、アマテラスの命令だから仕方がないと言ってなんとか納得させた。寂しくなるな。
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久しぶりに高天原から出る。
この雲の道を行くのは何年振りだろうか。
あそこ時間感覚が曖昧だからよくわからないけど、100年くらい経過していても少しも不思議じゃないと思う。
この前足止めを食らった八本の道が交差するところには、やぱりあの猿面の男がいた。
「これはこれは。あなたが噂のニニギ様ですね。私は猿田彦。葦原中国までの道案内はお任せください。」
随分俺の時と態度が違うな⋯⋯。俺は彼を半目で見つめる。
「なんでしょう。夜様?」
その様子を目ざとく見咎められる。うん。やっぱりこの人、油断できない。
「かっこいいね!」
「そうかなあ?」
ウズメの感性は人と違っているからなあ。
まあ、仕事人みたいな雰囲気は感じる。見ようによってはかっこいいのかもしれない。
ウズメは道案内する猿田彦にくっついて歩いていた。猿田彦の方も嫌がっているようには見えない。
へーえ。
俺は友人の意外な一面に驚いていた。あんなに積極的だったんだ。
さしあたっては、ウズメが取られて悔しそうなニニギに、ラブコメというものの素晴らしさを布教しておこう。ニヤニヤしながら眺めるのはいいものだよ。
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俺たちはでっかい山の上に降り立った。
天孫降臨の地としてふさわしい地だな。
「アメノウズメ。猿田彦に礼をしなくてはならないから、彼について行きなさい。」
ニニギは非常にニコニコしながら言った。
「良いんですか?!やった−!」
「私に感謝しときなさいよ?」
「なんで夜に?」
「私の布教のおかげだから。」
「んー? よくわからないけどありがと!」
うんうん。幸せになりなさい。彼女には迷惑をかなりかけられたけど友人として好きだったからな。
ウズメの積極的な攻勢にタジタジな猿田彦は見ていて面白かったのでもっとやってほしい。
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地上についてからの手配はオモイカネがいろいろやってくれた。
さすが知恵の神だ。
てっきり地上を観光してこい程度の命令だと思っていたのだが、ニニギに国を作らせるらしい。神の国か。まあ、高天原の書物のある文化が流入するのなら歓迎するべきだろう。
そう思ったので俺も協力することにした。
周辺の力のある豪族を従え、勢力を拡大していく。腐っても神の孫だ。ニニギは高スペックだった。やっぱりエロゲ主人公じゃないか。
どっかに出かけてきたと思ったら、コノハナサクヤヒメとかいう儚げな美人を嫁として連れてきた。やっぱりエロゲ(ry。
彼女の父のオオワダツミという神が言うには、姉のイワナガヒメを娶れば永遠の命が約束されたのに儚いコノハナサクヤヒメを選択したのだから、ニニギの寿命は短くなるらしい。
エロゲ主人公が選択肢ミスって死ぬやつじゃん笑う。
まあ、短くなると言っても普通の人間と同じくらいはあるらしくて、ニニギはそれでもいいやと公言して憚らなかった。
純愛系ラブコメを布教しすぎたかな。
人外系ラブコメを布教すべきだったか⋯⋯?
まあ、いいや。
オモイカネは有能すぎるので、宰相的な役割を受け持ち、ニニギは自ら陣頭に立って剣を振るって勢力を拡大していった。俺は暇だったので、時折やってくる暗殺者に女だと油断させてはボコボコにする仕事に従事していた。
久しぶりに血が飲めるので満足である。
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