好奇心に狂わされる
こんにちは。続きです。
自分的にはプロローグの終わりぐらいに考えているので、まだお付き合いいただけたらと思います。
前回の前書きにも書きましたが(書いた……よね?)、更新は不定期です。この先どうなるかわかりません。が、続き書きます。たぶん。
長々と失礼しました。読み終わった後、少しでも楽しかったと思っていただけたら嬉しいです。
それでは、本編をお楽しみくださいませ。
「どんなおしゃれなところに行くのかと思ったら、ファストフード店とは」
「仕方ないだろ。この時間あいてるとこ少ないんだから。というか、なぜいる」
カジノを出た俺は、崎原を連れて近くのファストフード店に来ていた。
が、なぜか久瀬までいた。
「お金、返してもらってないから」
「あ。悪い。こういうのはおろそかにすべきじゃないよな。ほい」
「どうも」
「二人は仲いいの?」
「いや、全然。この前知り合ったばっかりだよ」
「その割には、親しく見えるけど?」
「やめてくれよ。今は君しか見えない」
「あら、カッコいい」
崎原と並んで座り、談笑する。
ところどころで口説こうとするも、どうもガードが固い。
久瀬は食ってばっかり。と思ったが、席について何も口にしていなかった。
ファーストコンタクトがあれだったせいか、ずっと何か食ってる印象だったのだが。
「なにも食わないのか?」
「今日は、儲けてないから」
「ああ」
そういえば追い出されていたな。
出禁になっていた理由に、気になるところがあるんだが。
訊きたいことは山ほどある。
けれど、その全てを遠慮なく訊いていては疲れるだろう。相手も俺も。
質問を脳内で整理してから口を開く。
「なぁ。あの空間は何なんだ。体育館はどこへ行った?」
「上書きされた」
「は?」
「?」
「情報量少なすぎんだよ。もう少し喋って」
「と言われても、私も詳しくは知らないし、常人に話しても理解されない」
「なら、なんで俺をあそこに連れてった」
「百万じゃ足りないのかと思って、自分で稼げるようにと。あと、私の分も」
「おい、最後」
「ねぇねぇ。せっかくあたしを連れ出したのに、さっそく浮気されて放置されてるのは、どういうことかしら」
「おっと、申し訳ない、レディ。なにしろ、わからないことだらけで」
「お兄さんはカタギ?」
「え、たぶん」
「なら、言ってもわからないと思うわ。お姉さんの判断は正しいわね」
さすがにむっとする。
こうまで言われて、ハイそうですかって引き下がれるほど大人しい性格はしていない。
というか、逆に気になる。
「それでも、聞く権利ぐらいはあると思うけど」
「そうねぇ。デートがこれじゃちょっと味気ないけど、いいわ。お姉さんに代わってあたしが説明してあげるわ」
「よろしくお願いします」
「あそこはね。簡単に言うと異界。元の空間にあの空間が重なっているの。どうしてあの場に重なるかはあたしも知らないわ。ただ、異界はほかの異世界にもつながって、そこからの客も多くいるということ。あたしも、それにお姉さんも異世界から来た側ね」
「あの空間だけが異世界とつながっているわけじゃないのか?」
「ええ。いわばこの世界と、というわけ。気に入ったもの好きがこっちに移り住むって感じね。あの異界は毎日夜十二時から三時までの三時間しか開かないの。その後はあの異界はこの世界から離れていく。だからその前に各々自分の世界に帰るって感じね」
「なるほど」
「異界が閉じたら元通り。チケットを持ってないと異界の存在も確認できない。だから問題にもならないの」
「なるほどなるほど。なんとなくわかった。じゃ、そのチケットはどこで手に入れるんだ?」
「さぁ? あたしの場合は急に目の前に現れただけ」
「久瀬は?」
「同じく」
「でも、久瀬は俺の分も持ってたよな」
「もう一人、持ってた子がいたけど、いなくなったから」
「いなくなった?」
「死んだ」
「…………。悪い」
「別にいい。気にしないで」
今得た情報を頭の中で整理する。
異界。異世界。
全く持ってファンタジーなことで。理解はできても納得できない。と、言いたくもあるが現に体験してるからな。
頼んだポテトを一つつまむ。
「異界には普通の人間はいない。少なくとも見たことない」
「普通、ねぇ」
「この場合の普通は、この世界の住人ってことになるわね」
普通か。何をもって普通とするのか。普通とは何か。
無意識にポテトに手が伸びる。この時間の高カロリーはやばいってのに。
しかも、じっと見て涎を垂らしている奴がいるし。
「頼めば?」
「お金ない」
「今まで稼いだ金は?」
「食費と生活費にとんだ」
「どんだけ食ってんだ」
あんだけ稼いでほぼ飛ばす食費って。恐ろしい。
あれかね、異世界人だから胃袋も異世界級とか?
そもそも、俺は異世界のことも、ここにいる二人のことも全然知らないんだよなぁ。別に知らなくたって生きては生きるが、ここまで来たら知りたい。
知的探求心、または好奇心ともいう。
しかし、俺のポリシーはデメリットになることはしない、だ。もし、聞いて面倒なことになったとしたら、それは俺の望むところではない。
Curiosity killed the cat――好奇心に殺される前に、首を突っ込むことをやめておこうか。
それよりも、いま大事なことは何だ。もちろん、この異世界レディを口説き落とすことだ。
男女の仲を進展させるのは意外に難しい。ちょっとづつ縮めていくのがセオリーだ。では、どうやって縮めるか。この場限りの出会いを、この場限りではなくする方法は何だ。――そう、連絡先を交換することだ。いつでも連絡を取り合え、時間が合えば会うことも可能にする素晴らしい儀式。
では、さっそく実践と行こう。
「レディ。君との出会いを今日限りにしてしまうのは惜しい。君の美しさをどうかこの先も俺の目にうつさせてほしい。だからどうか、連絡先を交換してくれないか?」
「そうねぇ。安くないわよ?」
「もちろんここは奢らせてもらうし、望みのものがあればそれこそ連絡してくれればプレゼントするよ」
「では、私もポテトを」
「お前じゃねーよ」
「ふふふっ。いいわ、面白いから交換してあげる。教えてあげる」
「ありがとう」
崎原が口頭で言う連絡先をスマホに打ち込む。ついでに軽く自己紹介をしておく。とはいえ、名乗っただけだが。
今度は逆に俺が言う。
崎原が打ち込む。が、手を動かしているのは一人ではなかった。
「なんでお前も聞いてんだよ」
「聞こえてくるから」
「なんで打ち込んでんだよ」
「連絡先交換したいから」
お話にならない。
なにこいつ、え、なんなの。字面通りの言葉しか理解しないしなに、めんどい。
「……。あ。私みたいな美少女と連絡先交換できてうれしいでしょ?」
「今思い出して取って付けたみたいなセリフやめろ」
「というわけで奢って」
「どういうわけだ」
全く理屈が通っていない。日本語が通じてない。
「何度も言っているけど、俺は何か対価を出さないと何もしない主義なんだよ。わかったら対価出せ」
「じゃあ、一つだけなんでも言うこと聞く」
「……言ったな?」
「ふふふっ。お兄さんも男の子ねぇ」
それはそうだ。言うこと聞くときたらエロいこと考えるのが普通だろ。うん。
今回もまた契約書を取り出す。
契約内容を書いて名前を記し、捺印。それを久瀬に回す。
久瀬も自身の名前を書いて、しかし、そこで手を止める。
「印鑑持ってきてない」
「なら拇印でいいから」
朱肉を差し出す。
右手の親指を朱肉に押し付け、契約書に拇印する。
これで契約完了。
差し出された契約書を確認し、記名された名前に引っかかる。
書かれていたのは、久瀬愛、ではなく、クーゼリア・アイリオット、だった。
「誰だ、このクーゼリアってのは」
「私」
「名前違くね」
「本名」
会話のキャッチボールが返ってこない。
なに言ってるのか全く分からん。
「元の世界での名前でしょ?」
「元の世界、ああ」
隣にいた崎原が助け舟を出してくれる。
元の世界ではこういう名前だったのか。というか、こっちではなぜ偽名?
そもそも、そもそもだ。
苗字と名前、ひっくり返ってね?
クーゼリアが名前でアイリオットが苗字だろう? なのに、クーゼリアから考えたと思わしき久瀬は苗字に、逆に、アイリオットから考えられたと思わしき愛が名前って。
「ネーミングセンス……」
「何か言った?」
「いや、なんで偽名なのかってな」
「それは……」
「身バレしないため、でしょ?」
「身バレ?」
「自分を知っている人が、みんながみんな友好的とは限らないでしょう。あっちから来た人って普通じゃないのはわかるでしょう? あたしだってサキュバスだし、お姉さんだって物騒なもの平然と持ち歩いているし。そういう輩に見つかって危険な目に合わないようにってことね」
「ああ、なるほど。納得」
「じゃあ、買ってくる。お金は後で請求する」
「あ、ああ」
そっかぁ。異世界事情も大変なんだな。うんうん。
確かにそうだ。こっちでだって事件はあるわけだし、異世界となるともっと苛烈で激しいんだろう。さっき、久瀬がチケットをもらったもう一人は死んだって言ってたし、平和なこっちの世界でそれが当たり前に育った俺らと、他の世界出身じゃ常識からして違う。急に襲ってきたりしてもおかしくはない、か。
ふむふむ。
何か、変なことを聞いた気がしたんだけど。そろそろ突っ込んでいい? いいよね。
「サキュバスなの!?」
「え、ああ。言ってなかったかしら」
「一言も」
「ごめんなさい」
まじか。
サキュバスってあれだろ? 男にエロい夢見せていろいろ搾り取っていくやつだろ?
サキュバス=エロいが成り立つやつだろ?
……期待、しちゃっていいんだろうか。
「だからと言って、変な期待はしないでね? あたしまだそういうことできない年だから」
「年齢関係あるの?」
「そりゃそうよ。十一歳が十八禁なことしちゃダメでしょ?」
「ああ。サキュバスも人間と同じような倫理とかあるってわけね。って、十一!?」
「だから、年下って言ったでしょ?」
十一でその体!? さすがサキュバス。……じゃ、なくて!
え、希望が潰えた。
綺麗なお姉さん釣ってあわよくば卒業しようとしてたのに。
俺の打算と時間と胸やけと寒気するぐらいの甘い言葉を返せ!!!
「マジか……」
「エロいことでもしようとしてた?」
「聞くなよ」
「あら、ごめんなさい」
「ん、っておい。俺らも人のこと言えねぇけど、この時間はやばいだろ小学生」
「どうかした」
「お、戻ってきたか」
「うん。これ、代金」
「めっちゃ買ってるな、ここぞとばかりに!?」
「これ普通の量」
「あ、食費がばかにならない理由が分かった。ってか高っ。持ち合わせ足りるかな……。じゃなくて! さっさと食って帰るぞ」
「せわしない」
「うるさい。こっちは今後の人生かかってるんだよ。夜中まで女子小学生連れ歩いてたなんてばれてみろ、人生終了ゲームオーバーだ!」
「誰が小学生?」
「あたし」
「見えない。から大丈夫」
「あ、そっか」
そうだったそうだった。今はダイナマイトボディの色気むんむんのお姉さんだった。
なら大丈夫。大丈夫? ばれなきゃいい!
ふっー、焦った。
とりあえず落ち着こう。座ろう。そして財布を確認しよう。
この久瀬が大量に買いやがったからな。ああ、しくじった。
一つだけ奢る、にすればよかった。個数指定してない分、これだけ買われても文句の一つも言えやしない。
さっきは変に首突っ込まないでおこうと思ったが、結構聞いちまったな。異世界事情に正体に。
別にいいか。死ぬようなことはないだろうし。俺が異世界行くわけでもないしな。さっきは連絡先交換しちゃったけど、何もしなければJSとのかかわりなんてない。久瀬にしたって、今回限りの付き合いだろう。今までだって話してこなかったんだ、今回話すようになってもこの先もとは限らないだろう。
結論、関わらなければいい。
可及的速やかに忘れよう。
「……」
「どうかした?」
「いや。なんでも。あ、いや。その」
「お兄さん?」
関わらなければいいんだ。
その、はずだったのに。どうして、どうして……!
――お金が、足りないんだよ……!
「お金、足りないので、近日中にお支払いさせていただくということで、お願いしたいのですが」
「まぁ、いい。でも、ちゃんと払ってね」
「もちろん。俺は契約書の内容はきっちり守るからな。絶対に」
「お兄さんは、どうしてそこまでするの?」
「それは――」
言おうとしたところに邪魔が入った。
「なになに、可愛い子いるじゃん。どしたの? こんな時間まで」
気安い口調で割って入ってきたのは、どこからどう見てもチャラい数人の男だった。
能天気な声が癇に障る。あからさまに俺に話しかけてきてないのも癪だ。
そのくせ堂々と隣に座ってきやがる。なんだこいつら、おまわり呼ぶぞ。……あ、おまわり呼んでやばいの俺らだった。
「お兄さんたちはここで何してるの?」
「俺ら? ちょっと暇だったからその辺ぶらついてた」
「へぇ。もしかして、外に止めてあるバイクってお兄さんたちの?」
「そうそう。なに、興味ある?」
「ううん。別に微塵も」
うわお。こえぇ。崎原の笑顔が凍り付いてる。
崎原が言っていたので外を見ると、暴走族チックなアブノーマルなデザインのバイクが数台止まっている。うーん、あれはない。ダサい。壊滅的にセンスがない。笑いそう。ヤバ。
笑ったらからまれるよなぁ。それはめんどい。こっちに興味ないならこのまま帰ろうか。二人のことを助けてもこっちに利はないしな。
「ん? ちょっ……!」
と思ったけど、ダメだ。さすがに、血が流れるのは止めねぇと……!
「”止まれ、久瀬!”」
ピクリと久瀬の動きが止まる。その手は太ももに向かっていた。太ももにあるもの、それは、ホルスター。
さすがにやばいっしょ、それは。
「あ、なに。お前この子の何なの」
案の定標的が変わったよ。はぁ、面倒。
崎原に助けを求めようと見ると俯いて肩が震えていた。笑ってやがる、こいつ。
ド畜生。一人はあんなんだし、もう一人は爆笑こいてるし。俺がやんなきゃダメなの?
「警告しようと思って」
「あ゛?」
「だから、これ以上話しかけると、危ないよ。具体的に言うなら眉間に風穴があく」
「なに言ってんだ、こいつ。こんな中二野郎ほっとこうぜ」
「忠告したからな」
これ以上は我関せず。逃げる時のために荷物を持っておこう。
足の速さには自信ある。特に逃げるときは。
「ねぇ、俺らと――おおおおおおおおお!!」
久瀬の手がすばやく銃を掴む。
構えに行く手でハンマーを起こしてスライドを引く。
軌道上にある床に一発。
――BANG!
そのまま男の眉間に。
警告を無視して久瀬に話しかけた男が変な声を上げる。
そりゃそうだ。床に穴開けて今まさに硝煙が出てるそれを向けられているんだからな。
あれ、警察沙汰になったら困るの俺らじゃね?
「な、な、ああああああああ!」
男どもは揃って逃げ出す。
通報されなきゃいいけど。
「店でぶっぱすんなよ。そういや学校でも撃ちやがったけど、ばれたらどうすんだ」
「大丈夫。学校は結界が張ってあるはずだし、今だってあたしが認識阻害かけといたから。たぶんあのお兄さんたちは、すごく怖かったけど何が怖いかわからなかったって感じになると思うわよ。それと店員さんたちも」
「あ、そう。すごいね。穴は?」
「埋めといたわ」
「……」
魔法すげぇ!
異世界パネェ!!
なんでもありかよ……。
まぁ、問題にならないならいいか。逮捕投獄とか勘弁だし。若くして人生終了は勘弁。
でも、同じ異世界ってくくりだけど、久瀬と崎原じゃまた別の世界なんだよな。崎原はサキュバスで魔法が使えて名前が日本人と同じ。でも久瀬は銃を持っているだけ。魔法を使ったところは見たことない。使えるのかもわからない。
「久瀬は魔法とか使えるのか?」
「魔弾が撃てる」
「手からとか?」
「銃から。種類によってかかる費用も別」
「金かかんの?」
「もちろん。買ってるから」
どこから、どうやって、とか、訊きたいことはあるけどそれよりも。
ファンタジー感なくね?
もっとこう、魔法陣とか、魔導書とかそういうのじゃないの? 買うの? できてるの? 作らないの?
買うんだったら、誰でも撃てんじゃね? 弾込めて引き金引くだけだろ、極論。弾があるなら撃つだけでいいじゃん。
「とは言っても誰もが撃てるわけじゃないの。この手の能力者は、魔弾を撃つというより、その力を引き出すというのが正しい言い方ね。普通の人じゃ、撃っても何もないけど、術者が撃つときちんと起動するの。とはいえ、その系統の魔法使いが全員同じ魔法というわけじゃなくてちょっとづつ違うはずだから、術者に合わせた弾丸が必要になるはず。完全オーダーメイドだから相当高いんじゃない?」
崎原が懇切丁寧に説明してくれる。
こういう事情は崎原に聞いた方が早そうだ。というか、詳しいな。別の世界のはずなのに。
異世界間を行き来できたり? それとも、共通する部分があるとか?
……さっきから疑問尽きねぇな。
ま、ある意味未知との遭遇だからなー。宇宙人に初めて会った学者もこんな感じで疑問だらけだろう。
「うん。高い。から稼いでたのに」
「結局そこに行くのかよ……。いろいろあるんだな」
「そうね。あの場にいた全員が、普通じゃないのよ。……さて、そろそろ帰ろうかしら。明日も学校あるしね。お兄さんたちもでしょう?」
「あーそういえばそうだった。というか、せっかく誘ったのに、想定外のことが起きすぎて何もできなかった」
「あら、小学生に手を出すつもり?」
「小学生に見えないからセーフ。ま、いいや。悪かったな、無理に誘って連れ出して」
「いいわよ。それなりに楽しかったし。何より、お兄さんたちと出会えたから。それで良しとするわ」
「……あんがと。送ってくよ。出会いという素敵な場面を退屈な時間にしてしまった、せめてもの罪滅ぼしに。夜は危険だ。君のような素敵で幼気な女性を一人放り出すわけにはいかない」
「ありがとう。もしかして、素でそれなの?」
「まさか。気取っているだけだよ。男はいつだって、女の子の前では格好つけたい生き物なのさ」
「不憫ね」
「かもな。ほら、久瀬も行くぞ。ついでだ、お前も送って行ってやるよ」
「ありがとう」
久瀬は俺より絶対強いけどな。どんな夜道も安全安心な、ベリーデンジャラス武器持ってるけど、まぁ、それで問題起こさないよう見張ったりするある種保護者的な面で送っていくことにしましたよ。
全員で店を出る。夜の闇と寒気が肌にまとわりつく。
夜は嫌いだ。
暗くて思うように見えない。見えないのは怖い。わからないのは怖い。
なんて、女々しいよな。
夜空にぽっかりと浮かぶ月を眺める。
この人工の明かりだらけの中、星の光は霞み、月の明かりだけがそれでも光を地上に届ける。
月は好きだ。
綺麗だから。美しいから。素敵だから。
「お兄さんたちは高校生なのよね?」
「え、ああ。そうだよ」
「高校ってどんな感じ?」
「どうって言われてもなぁ。まぁ、勉強は難しくなるな。小学校に比べたら当たり前だけど。あと、自由度は上がる。そして、調子に乗るけど甘くない」
「へぇ。お兄さんは部活やってないの?」
「やってないね。俺は授業終わったら速攻で家に帰りたい人種だから」
「それはわかるわ。お姉さんは?」
「部活には所属していない。でも、」
「でも?」
「家にも、帰りたくない。誰もいないから」
沈黙が下りる。
そうか。異世界から移住してきたってことだもんな。チケットは二枚。渡されたもう一人は亡くなった、ってことは今は一人ってことだよな。
チケットのシステムもよくわからない。誰が誰に配っているのか。何を基準にしているのか。たとえば、家族みんなに配ったりとか、していないのだろうか。
「家族全員にチケット配ったりとかしてないのかなぁ」
思わず口に出ていた。
けれど、思わぬところから否定の声が上がった。
「あたしのところはそうだったわよ。友達もみんなそうだったけど……」
「私は、私には家族はいない」
衝撃的な発言とその後に続く久瀬の世界事情。
この世界が当たり前で常識となっている俺からすれば、とても信じられない話だった。
とてつもなく過酷で、冷酷で、聞くだけで胸が締め付けられる。
ああ、そうか。それなら、こっちの世界に来るわけだ。だって、どうしようもなくつらい。苦しい。
「私の世界は、常時戦争状態だった。食べ物も着るものもなくて、住んでいた家でさえ吹き飛ばされた。家族はみんな死んで、生き残った私はまだ小さかった。子供が一人で生きられるほど甘くも優しくもなかった。子供であろうと武器を取らなければ食べ物にありつけない。生きていけない。必然的に私も武器を取った。そうやってその日しのぎの生活を送っている中で、初めて友達と呼べる人ができた。一緒に泣いて、笑って、食べ物を分け合って、一緒に生きていた。そんな中でチケットを拾った。その夜、変な扉があって入るとあのカジノだった。すごかった救いに見えた。これでお金を稼げば普通に生きられる。そう思って、希望を抱いた。でも、次の日にその子は死んだ。戦争に巻き込まれて。私は逃げるようにこっちに来た。初めてこっちでものを食べたとき、すごく美味しかった。感動した。でも、まだ子供だった私はこっちでも生きていくのは辛かった。そんな時、おじいさんが私を拾ってくれた。戸籍を作ったり、何から何まで手をまわしてくれた。でも、おじいさんも長くはなかった。そこからは私一人」
重たい沈黙が降りる。
いつもは軽く出てくるはずの言葉は今は出ない。慰めの言葉は同情だ。言えるわけがない。
自分がどれだけ平和に入り浸っていたかを思い知らされる。
「長く話すぎた。空気重くしてごめん」
「別にいいよ。ってか、空気は意識してんのな、普段は読めてないくせに」
「空気が読めてないというよりかは、字面通りでしか意味を理解してないだけじゃない?」
「そうか。じゃあ、あれか。めっちゃ食うのは元の世界では食べられなかったし、こっちの食いものは美味しいからか」
「そう」
「だからってなぁ」
いくらなんでも食い過ぎだとは思うけど。
俺と崎原が軽快に会話を逸らし、続けたことで息が詰まるような重苦しさはなくなった。
その後は他愛もない話をして、崎原の家に着いた。普通の一軒家だった。サキュバスの家だっていうもんで、どんなものかと身構えていたが拍子抜けだった。
崎原は親にばれるとまずいからと窓からこっそりと家に入って行った。
自室が二階だということで、どうやって上がるのかとも思ったが、背中から羽をはやして飛んで行った。まぁ、改めて思えば当たり前なのだが、こう、いざ目の間にすると普通にびっくりした。
久瀬のことも送って行った。
久瀬の家はアパートの一室だった。収入源がなくなった今、どうやって生活するのか気になったが、かといって他人の俺がむやみに聞いたところでどうもできない。素直に自分の家に向かった。とはいえ崎原の家も久瀬の部屋も俺の家からすごく近い。学校からも。
見慣れた道。暗闇に呑まれた見慣れない風景。街灯の明かりに照らされた地面。
ふと思い出す。あの場にいたものは普通ではない。
ああ。確かに。
異世界から来た大食いで魔弾の射手と小学生サキュバス。こりゃ普通じゃない。
そして、
「俺も、か。運命か、必然か。あの場にいた全員が、普通じゃないとはね」
道路の真ん中。誰もいない暗闇の中。遠く輝く月を見る。淡く輝く星を見る。
視線を戻して一歩を踏み出す。
そこには、いつもの我が家があった。
そして思い出す。
「あ、奢る代わりに久瀬になんでも言うこと聞いてもらうの忘れた……」
あああああ! なにやってんだ俺! いやでも、奢ってはないか? 金足りなかったし、契約は破たん? いや、いやいやいや! 金払えばいいんだろ! レシートはもらってるよ! 明日にでも払ってやるよ! 見てろよ! 言動はあれだとはいえ、黙っていればあいつも美少女だ、しかも同い年! 完全アウトな小学生ではない。つまり、合意があればおっけいだろう!?? ドエロイことしてもらおうじゃねぇか!




