洞窟編 4
おはようございます!今日もいい洞窟だね!
今日も、ばっちり目が覚めました。くらーい、暗い洞窟の中、朝の目覚めの挨拶くらい明るく交わそうではありませんか。ええ、私一人でありますが、挨拶していけないという法律はありません。
「おーい!!おーい!!」「へるぷ! みー!えす! おー! えす!」
洞窟の中で叫ぶ馬鹿でかい塊こと私は、今日も日課の“助けて”の声出しを始めた。
先日、開催されました第一回声出し無意味じゃね?会議の中で解決策として浮上した英語による要救助作戦は、本日、今日、こけら落としの初お披露目となったのです。この声出しで重要なのは、とにかく大きな声で助けを求めこと。さぁ、恥ずかしがらず、皆さんご一緒に!!
「Help! Me! S! O! S! ダメか、メディック!えーせーへー」
だいぶ、発音も上達したと思うだよね。
さて、久しぶりに叫んだので、一旦、小休止。
続けて今日も洞窟の中で少し考えを巡らせてみようと思います。最近は、ここから出た後ことを考えております。
ちょっと前まで、このまま私は一生洞窟の中で過ごすのではないのかと考えていた。一人で叫びながら、明日も明後日も、1年後も10年後もこの洞窟の中いるのではないかと恐怖を感じていた。
暗い、ほんとに光のないここはすごく冷たくて怖い場所だ。
私の知る限り、生きるものは食事や水、空気と同じくらいに日の光を浴びることが重要なはずであり、こんな、太陽の届かない洞窟の中でずっと生きていけるはずがない。ましてや、何も食わないし、飲まないなんてあり得ないはずなのだ。しかし、私は、今日でひと月以上飲まず食わずに生きている。
実は死んでいたということは、おそらくないと思うが、ここまで不可思議だと何が何だかさっぱりわからない。
ここから出ればもしかしたら死ぬかもしれない。もしかしたら、ここでこのまま生きていくことが幸せなのかもしれないという考えが生まれ、頭が痛み、すごく胸が苦しくなっている。
ここの外に何があるのか、自由だった時に見た世界は、真っ白の雪が積もり、他に誰もいない高い山があり、空よりも青くどこまでも広がる塩っ辛い海があり、私よりも高く太い世界樹と呼ばれる樹があり、私がいくら羽ばたいても届かなかった星空があった。
ああ、もう一度見たい。もう一度といわず、何度でも見て、触れたい。
その時は気にしていなかったが、私の中ではあり得ないらい綺麗で、印象に残って風景ばかりであった。
自然以外でも、赤い屋根の連なる街に、金色の帽子をかぶったような王宮、白亜の城に、湖上の城なんかも目にした。ああ、ここで、死ぬまで岩だけを見て生きる生活と、また再び世界を飛び回り絶景を見る生活ならば、前者を選ぶバカはいない。
昔のバカのせいで、ほかのドラゴンや巨人にエルフにドワーフ、頭に耳の合えた獣人、空飛ぶハーピィ、魔法使いに、勇者や戦士、本物のお姫様や王様なんかに恐れられて、恨まれているのは知っている。
あの時は、ひどいことをしたけど、今はそんなことしない。よくわからないが、私の中で食べるためでも、生きるためでもない何かを殺すという行為はいけないことだという気持ちがある。
もし、ここから無事に出ることができれば、謝りに行きたい。昔とは違うということを伝えて、謝りたい。そして、また、空の下を自由に飛びたい。山を、海を、森を、樹を、星をこの目で見たい!
私、ドラゴンは外に出たい。