洞窟編 2
「おーい!おーい!ここにいるぞ。だれか来てくれ、動けないんだ」
暗い、くらーい洞窟の奥底、今日も今日とて、中から大きな声で助けを呼ぶ一匹の竜。
助けを呼ぶ声は、洞窟の中を反響し、ただただ馬鹿でかい響きとなって外に漏れているのだが、反響したその音は全く言葉としては聞こえていないということを、発生源たる彼はそれに気づいてはいない。
ここで、目を覚まして、2週間がすぎた。といっても、寝て起きて叫んで寝るまでを一日と換算しているから、もしかしたら、もっと少ないかも知れないし、多いのかもしれない。ちょっと前まで、身動きが全く取れなかったが、今は、少し体を動かせるようになった。
首を動かして、右見て、左見て、はい、どっちも岩。まだ確認していないけど尻の方も岩だから、全方向が岩だと思うだよね。360度、岩だらけ、岩好きですか?俺は嫌いじゃないけど、もうえーわ(岩)。そんな事言わ(岩)すなよ。なんちゃって。
実は最近、少し考えるようになった。
昔、それこそいつもなんか気に食わなくて、ムシャクシャして暴れまわっていた頃。ここに来る前の俺からは考えられないかもしれないけどね。
うそ?ほんとよ。いや確かに、今の俺ってこう少しおちゃらけて、絡みやすそうでしょ?ていうかバカみたい?
なにを!これでもね、昔はブイブイいわせていた悪ガキ、いやワル竜、やんちゃ竜だったのよ。
まぁ、昔のことはいいけど、今、こんなふうに考えるきっかけは、先日の死んでいるのではないかと考えたことだと思う。あんなふうに頭を使った事は、今までなかった。
ん?いや・・・、ここに来る前、一回だけ考えて、考えたけど、そんときはそのまま・・・、あれ、あの時って、俺が・・・、
おおおおお!やばい!昔のこと思い出すと胸が苦しい!なんだこの感覚?苦しい、痛い、イタイ、あいたたた。
苦しいというかイタイ、こう腹の中からなんか痛いじゃなくて、イタイ!
俺、自分のこと我とか呼んでいた。てか、竜王とか呼ばせていた。唯一最強とか、龍王とかとも言っていた。
あー、ダメだ。これはダメだ。思い出しちゃいけない。思い出せば、死ぬ。絶対死ぬ。こう枕に顔をつけてゴロンゴロンしてしまう。やばいよー、ヤバい。
おっさんが、昔は俺もワルでよ~、やんちゃでな~、若い頃はなぁ~、は、恥ずかしくないことだから語れるのだ。これは語ってはいけない。ダメ絶対!禁止!禁則事項です!
はぁ~、なんか、声出すより、すっごい疲れた。やばいな、過去のことは思い出すと、滅茶ダメージが来る。
今日はこのまま寝ようかな?え?何を最近考えているのかって?
なんのこと?
あ、ああ、あれね。そう、今、俺が考えていることなのだけど、
実はこの近くに人がいないのではないかということなのだ!
こんなに叫んで、聞こえないということがあるのかな?っていう単純な疑問なのよ。
ぶっちゃけると、全然反応が返ってこなくて寂しい。近くに人がいないかどうか知りたい。俺の助けを求める声が聞こえているなら、どうしてなんの反応も返してくれないのか知りたい。
今、切実に話し相手が欲しい。
さっきから、一人で話して、一人で突っ込んでいるから、なんかほんとに寂しい。
私、竜さん、考え始める。