覚悟を決めて
「で、ニートって何をするんだ?」
「何もしません」
「は?」
長門が帰った病室でマキと2人きりとなった俺は呆然としていた。
「何もって・・・本当に何もしないのか?ゲームとかすればいいんじゃないのか?」
「そうですね、強いていうなら、気の赴くままに生活していただくのが良いですが、それはレベル20なので今は結構です」
「レベル20?レベルがあるのか!?」
「貴女様は現在レベル0です。土台にも乗っていません」
「君って結構はっきりもの言うよね・・・」
ここまで完璧に人生を送ってきた俺だったが、これはなかなか、難しそうだ。
しかし、『何事も完璧に』。それが家訓であり俺のポリシーだ。
完璧にニート生活を送ってみせる。
「じゃあ、レベル1はなんだ?そこから始めよう」
「そうですね。では、まず・・・失礼いたします」
そうしてこちらに歩いてくるマキ。
俺に手を伸ばしてきてーーー
バキッ
「えっ・・・」
ガションッ
バコッ
「えっ・・・?」
「あー!?俺のスマホが!パソコンも!何するんだ、中のデータが消えてしまうじゃないか!」
「おそらくすべて消えてしまったでしょう」
マキは俺にーーー俺の横の棚にあるスマートフォンに手を伸ばすと、それを両手でいとも簡単にへし折った。
そしてノートパソコンにも手を伸ばし、地面に叩きつけた。
「どうしてくれるんだ・・・引き継ぎだってしてないのに・・・」
そして、棚を開けるマキ。
「いや、おい、ちょっと待ってくれ、それはやめ「それでは代永様、中庭の方に移動しましょう」
俺の言葉を無視したマキは、棚から俺が休みの期間に目を通しておく予定だった大量の資料を抱え、病室から出て行った。
「はい」
そう言って手渡されたのはライター。
「どうぞ、ご自分で焼き払ってください」
「マキさん、さすがに資料だけは・・・わ、分かった、長門に預けるから!それでいいだろう?一生懸命に作ったんだぞ、ん?」
「承諾できません。さぁ」
「嘘だろ・・・」
目の前には山ほど積まれた資料の山。
ちらほらと内容が見えるそれらは俺に訴えかけているように見える。
「資料たちの捨てないでという声が聞こえる」
「病気です」
「マキさん」
「マキと呼んでください」
「え、と、マキ。じゃなくて、そこじゃなくて」
「データが消えた今、何を恐れるのですか」
「データが消えたからこれだけは残しておかないと!」
「・・・いいですか、代永様」
ビシッ
マキはそう言って俺に詰め寄ると、眉間に突き刺す勢いで人差し指を向けてきた。
「貴女様はニートを舐めております。それはもう舐めきっております。覚悟を決めてーーー」
ゴクリと喉がなる。
「完璧なニートをお目指しください」
詰まっていた息が、腹の底に下りていくのが分かった。
「・・・いいだろう。見ておけ」
俺は、ライターに火をつけ、山へ放り投げた。
「資料たちの悲鳴が聞こえる」
「病気です」
病室に戻り、ベッドに腰掛けると、マキがこちらに歩いてきた。
「? どうした?まだなにか
ペタッ
「!?」
「ミッションコンプリートです、代永様」
額に貼られた何かを剥がすと
『NEET LEVEL NO.1 COMPLETE!!!』
「これは?」
「レベル1、仕事との物理的関わりを絶つ、です。おめでとうございます。引き続き完璧なニート生活を目指して頑張ってください」
「はぁ・・・」
これで俺は、本当にニート生活への一歩を踏み出してしまったようだ。