なぜ?
つけっぱなしのテレビからはあの事故の映像が繰り返し流され、今日予定されていた番組はすべて特番に差し替えられている。
夕方の時点で確認された死者はすでに100人を超えていた。
事故車の捜索活動はまだ終わっていないそうだからまだ増えるだろう。
でも、今の僕にとって、そんなことはどうでもいいことだった。
僕にとって誰よりも大事だった優香はすでに死んでしまったのだから。
あのあと、僕と奈津子さんは優香の遺体を彼女の家に連れ帰ってきた。
奈津子さんは今、別の用事を済ませるために席を外しており、僕は一人で優香のそばについていた。
なぜ、こんなことになったんだろう?
あれから、何度同じ事を考えたか分からない。
なぜ、あんな事故が起きたのか、なぜ、今日なのか。
なぜ、よりによって優香が死ななければならなかったのか。
なぜ、こんなことになったんだろう?
僕は顔に白い布を掛けられた優香を見てまたそう思った。
ただ、僕が彼女を美容室に迎えに行ってさえいれば、彼女が母親と一緒にタクシーに乗りさえすれば、もしくはもう一つ早い列車か遅い列車に乗ってさえすれば……ただ、あの列車に乗りさえしなければ、いや、乗っていても先頭車両に乗っていなければ優香は死ななかったはずだ。
もしかすると、僕が昨日プロポーズしなかったら、優香が振袖を着ることも、この列車に乗ることもなかったのだろうか。
僕は、布を取って優香の顔を見た。
綺麗な顔をしている。でも、そこには昨日までの生気はない。
ただ、冷たくて、硬い。
生きていないという状態が、本当に空っぽなんだと実感した。
命の宿っていない、ただの人の姿をした肉の塊。
「ゆう……か……」
僕は何もない中空に向かって呼びかけた。もしかしたらそこに優香がいるかもしれないと思って。
もちろん、答えなどあるはずもなく、僕の呼びかけは虚しく響いただけだった。