どうやら事故らしい
11時頃の電話で、優香は30分ぐらいで着くと言っていた。
なのに、予定時刻を20分過ぎても優香は駅に姿を現さなかった……というより駅に列車が来なかった。
「ずいぶん遅いねえ。このままじゃ、食事する時間もなくなっちゃうよ」
「そうですね。さっき電話で話しましたけど、朝食も食べてないそうですね」
「そうなのよ。昨日は浮かれて遅くまで寝れなかったみたいで、案の定寝坊よ! まったく、このまま二食抜いて卒業式の最中にお腹を鳴らしたら大恥だわ」
そう言って奈津子さんが大げさにため息をつく。
優香の朝寝坊の原因として確実に一役買っている僕は墓穴を掘らぬよう黙ってうなずくに留めた。
そうこうしているうちに駅にオレンジ色の特急列車が停まり、ずいぶんと沢山の人が降りてくるのが分かった。
「この列車かしらね?」
「いや、違うでしょう。方向が逆ですからね。……でも、この駅で特急が停まるって……」
なんか妙だなと思った。この駅は急行ですら停まらない小さな駅なのに。
「時間調整じゃないの?」
「あ、そうか。そうですね」
言われてやっと思い当たる。このローカル線は上下線で一本の同じ線路を使っていて、駅の辺りだけ二本に分かれている。
正面から列車が来ているときは線路が分かれている駅でやり過ごすのだ。
やがて、不自然なほど大勢の人間が駅から出てきてタクシー乗り場とバスの停留所に長い列を作った。
その様子を見ていた奈津子さんが首を傾げる。
「おかしいねえ。あの人たち、みんなここが目的地じゃないみたいじゃないの」
「そんな感じですね」
僕は何気なく駅を見た。
ずいぶん時間が経つのに特急は停まったままだ。
反対側に優香が乗ってるはずの列車の来る気配もない。
「故障でこの駅に停まらなければならなかったってところでしょうか」
「それもあるかしらねえ。じゃあ、ちょっと訊いてくるわ」
「は?」
奈津子さんが野次馬根性丸出しでバス停に並んでる人の所に走っていく。
おばさんという人種のすごい所だと感心した。
いきなり見知らぬ人に話しかけるなどなかなか若者には真似できない芸当だ。
少しして彼女は慌てて戻ってきた。
「どうだったんですか?」
「それが、どうも事故らしいわ。詳しいことは分からないけど、飛び込みでもあったのかしらねぇ? とにかく事故処理で電車が停まってていつまでかかるか分からないみたい」
「アイタタタ……。じゃあ、優香を迎えに行かないといけませんね。どうぞ乗ってください」
カフェの駐車場に停めていた車に乗り込んで、線路沿いの道を走り出す。