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その女、狂ってます。  作者: 小桃桃子
1/1

その女、期待します。

「先輩別れない?」

「え?」

思わずすっとんきょな声が出る。

「…な、なんで?」

一瞬で体が硬直して、心臓を鷲掴みにされてる感覚が体中に伝わる。気持ち悪い…。

「…好きな人ができた」

小嶋くんが申しわけなさそうに言う。

心臓がぐちゃぐちゃになったみたいに、体がぐるぐるして思考回路もぐるぐるして、気持ち悪くて酔ってしまいそうだ。

(嫌だ…別れたくない……)

心ではそう思ってるのに私は小嶋くんの方を見て

全然真逆の言葉を言った。

「…じゃあ、仕方ないね」

「…ごめん」

(謝らないでよ)

必死に笑顔を作った。

重い女とか、面倒な女だって思われたくない。

「ううん。…じゃあね」

私は小嶋くんに背を向けて、すぐに歩き出した。

ドキドキドキドキ。

でもこのドキドキはただの鼓動。

片想いしてたときとは違う。

苦しくて辛くて吐きそう。

"好きな人ができた"

その理由は、私をおかしくさせるには充分すぎる理由だった。

不思議と涙はでない。

悲しくないのだろうか?

自分でも分からない。

私は心臓を押さえながら、小体育館に向かった。


小体育館では卓球部が活動している。

時間は17:40。

卓球部の生徒が帰り支度をしていた。

私はその中に1人の女の子を見つけると、駆け寄った。

「じゅんこ!」

「ん?あれ!佐久間じゃん!…どうしたの?」

じゅんここと篠ノ井准は突然来た私に驚いていたが、私の異変に気づいたのか、すぐに人気のない方に私を引っ張ってくれた。

「あの…フラれた」

「は?」

「好きな人できたみたいで…別れてほしいって」

じゅんこの表情が厳しくなる。

「なにそれ。好きな人って誰?聞いた?」

「いや、聞いてない…」

「そこは聞かなきゃダメじゃん!」

「だ、だって…急だったから、どうしていいのかわからなくて…」

「…佐久間、オッケーしたの?」

「…」

小さく首を縦にふると、じゅんこがため息をついたのが聞こえた。

「ごめんね…」

「いやいいけどさ…佐久間はよかったの?別れて」

本当は嫌だ。

私は好きだし、別れたいとも思ってない。

まだ3週間だし。

でも…

「小嶋くん、かっこいいから…仕方ないかなって」

「…」

じゅんこは、私にちょっと待っててと言うと、鞄を取りに行った。

そして再び戻ってくると、私を引っ張って小体育館を出た。


「あの、どこ行くの?」

「小嶋くんのとこ」

「ええ?!」

じゅんこは私を引っ張って、階段を登る。

4階まで一気に登ると、私は息が切れてた。

「小嶋くんって何組だったっけ?」

「よ、4組だけど…」

するとそのまま右に曲がって、4組の教室の前に来た。

…が、じゅんこがそこで止まった。

後ろにいた私はじゅんこにぶつかってしまったが、じゅんこの様子がおかしくて、私はじゅんこの視線を目で追った。

「…あ」

そこには小嶋くんの姿があった。

でも、小嶋くんだけじゃない。

その隣には1人の女の子がいた。

好きな人…

私は思わず目を逸らした。

小嶋くんはこちらに目も呉れず、楽しそうに話している。

そのとき初めて、目に涙がぶわっと溜まった。

「じゅんこ…帰ろ」

慌てて服の袖を目に押し付けて、じゅんこに言った。

「私あの子知ってる」

「え…」

「あの女、米沢くるみだと思う」

「くるみ…?」

「りこのとこ行こ!」

するとじゅんこは再び階段をかけおりて、3階で止まった。

「りこー!!!!」

2組の教室に勢い良く走って行くじゅんこを、私も慌てて追いかけた。

2組には、1人携帯を構っている少女がいた。

花房璃華子。通称、りこ。

「なにー?どうしたの?」

「ねぇ!りこってさ、米沢くるみ知ってるよね」

「ああ、うん。中学一緒だったし」

りこちゃんは何が何だか分からないといった様子で

私とじゅんこを見た。

「米沢がどうかしたの?」

「…佐久間、言ってもいい?」

「あ、うん」

じゅんこは私から聞いた話と、さっきの教室での出来事も一緒に話した。

「…は?米沢が?」

りこちゃんは話を聞き終えると、顔をしかめた。

「…あのさ、その米沢さんってどうゆう人なの?」

「…中学のときから男取っ替え引っ替えで、全然いい噂聞かないよ。女子の中では」

「いるよね、そーゆう人」

「そう、なんだ…」

「あ、プリみる?」

りこちゃんは携帯の写真フォルダから1枚のプリクラを見せてくれた。

「こいつ」

指をさされた子は、さっき直接みたときとは違って見えたけど、確かに面影はある。

でもそれ以前に、私はその顔を見て思わず固まった。

見覚えがある。

「私…この子……見たことある…」

「え?」

そうだ。

いうなら3週間前に1度。

「この子…私と同じ時期に小嶋くんに告白した子…だと思う」

小嶋くんに、見せてもらったんだ。

告白されたけどどうしようって言われたときに。

「そのときは断ったって…言ってくれたんだけど…」

じゃあなに?

もしかして、断ったのは嘘で、本当はずっと裏で付き合ってたの?

私と付き合ってくれてた間もずっと…

この子が好きだったの…?

「…なんで」

気づいたら涙が溢れていた。

止まらなくて、ボロボロと溢れていた。

「佐久間…」

「…」

じゅんこと、りこちゃんがお互いに顔を合わせる。

好きな人ができたって理由が唯でさえ辛いのに

その相手が悪すぎる。

よりによって、最初断ったって言ってくれた子。

失恋って、こんな感じなんだね。

人生で初めてできた彼氏だったから、どうしたらいいのかもわかんない。

デートもしてみたかった。

キスもしてみたかった。

でも、そう思ってたのはきっと私だけで

小嶋くんはもはや私のことなんて眼中にも無かったんだ。

そう思うと自分が馬鹿みたいで、悔しかった。

…でも、何故か小嶋くんを嫌いだと思えない。

本当に私は頭がおかしい。

早く嫌いになれればきっと、泣くこともなくなるのに。


10分くらいずっと泣いてて

じゅんこたちは黙って傍にいてくれた。

「…ご、ごめんね」

「ううん」

「ありがとう…」

18:00を少し過ぎた頃に、私たちは教室を出て、下駄箱に向かった。

泣いて疲れたんだろう。

フラフラする。

フラフラ…ん?

「…ねぇ、揺れてない?」

じゅんこが言った。

ゴーー、という地鳴りが、段々大きくなる。

「え、ま、まってよ!地震!?」

その途端さっきまでとは比べ物にならない揺れが襲った。

「きゃああ!!!」

階段のとこにいた私は手すりを慌てて掴んだ。

しかし、揺れは大きくなる一方で、投げ飛ばされるように

手すりからするりと手が離れた。

「佐久間!!」

じゅんこの声が聞こえたが、その後すぐに後頭部の強い痛みを感じ、何も聞こえなくなった。



誰かに体を揺すられて、ぼんやりと視界に色がつき始めた。

「ん…」

「佐久間…?大丈夫?!」

声からしてじゅんこだろう。

「…じゅん、こ…?」

「よかった…!」

隣からりこちゃんの声もする。

私はなんとか体を起こした。

階段から落ちてきた時に色々ぶつけたんだろう。

体の節々が痛い。

「2人とも大丈夫だった?」

「私たちは大丈夫だけど…」

「佐久間ちゃん急に落ちてくから本当びっくりしたよ」

「あ、あはは…」

「…そいえば、さっきの地震、ちょっと調べたけど」

りこちゃんが携帯を取り出す。

「あんな地震、どこにも起きてないの」

「え…?」

携帯の画面には、確かに地震情報なんてなかった。

「…どうゆうこと?」

「でも確かに…そう言われたら違和感があるよね」

「違和感?」

「ほら、なんにも倒れてないでしょ?」

私は周りを見渡す。

看板も棚も資料も、何一つとして倒れていない。

「…」

プツッ―

そのとき急に放送がかかった。

『あ、あー。皆様、至急、体育館に集まってください』

放送はそれだけを伝えると、再び静かになった。

「体育館…?」

「…行こ」

じゅんこが先頭に、私とりこちゃんは駆け足でついていった。



■■


体育館に入ると、そこには既に少数の生徒がチラホラといた。

見覚えのある顔ばかりだ。

今ここにいるのは…

私、佐久間千尋。

篠ノ井准。

花房璃華子。

神咲唯。

要琴葉。

坂寺はなの。

金森紗和子。

安斎静也。

岩枷佳斗。

熊ケ谷千明。

纐纈昌。

新谷雅意。

鈴川匠望。

そして…

ガラーーッ

後ろのドアが開いて、小嶋大和が入ってきた。

「…」

一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。

…ん?

そいえば、なんで小嶋くんは1人なんだろう。

米沢さんは…

そう考えていると、ステージに大きな音が響いた。

「わっ…」

一斉にステージに視線が集まる。

「な、なにあれ…」

そこには小さな人影が見えた。

『えー、皆様。お集まりいただきありがとーございます』

舌っ足らずな声。

子供だろうか?

『今から皆様にはゲームをしてもらいまーす』

「…は?」

「ゲーム…?」

『ルール説明しまぁす』

意味が何も分からない。

突然なんなの?

…というか先生たちは?

「じゅんこ、今、なにがどうなってるの…?」

「わかんない…」

『あ、そいえばさっきの地震について説明しまぁす』

子供のような人影は、だるそうに説明を始めた。

『さっきの地震は、皆様をこっちの世界に連れてくるために次元の空間を無理矢理こじ開けたために起きましたぁ』

次元の空間…?

『でわー、ゲームの説明をしまぁす』

ざわつく生徒たちには目も呉れず、人影は話を続ける。

『まずー、皆様にやってもらうゲームは、ぺあげーむでーす』

「ペアゲーム…?」

『ルールはまず、クジで男女2人、もしくは3人1組のペアを7組つくりまーす。そのペアで協力して自分のペア以外の誰か一人を殺していくのでーす。』

こ、殺す?!

「は…?殺す?」

岩枷くんが声を荒らげる。

『そーでーす。ちなみに誰か一人の死が確認できたらペアをリセットしまーす。それを4回繰り返してメンバーを10人まで減らしまーす。』

淡々と説明された内容は、私たちには理解できない内容だった。

「殺し合い…ってこと?」

ぼそっと誰かが呟いた。

その言葉に周りが静まり返った。

『詳しいことは皆様の携帯端末に送りまーす。特に時間制限はないので、頑張ってくださーい』

それだけを言うと、人影は消えた。

体育館に残された私たちは、誰もその場から動けなかった。

「…じゅんこ」

「…ん」

「ここ、出ない?」

私は周りの様子を伺いながら、じゅんこに声をかけた。

「先生たちがいないなんておかしいよ」

「うん。わかった。りこも行こ」

「うん」

私たち3人はみんなの注目を浴びながら体育館の外にでた。

しかしそこで、言葉を失った。

「な、に……これ」

外はまるで異空間だ。

本当に。

空は気味の悪い程に紫色で染められている。

学校の周りは、上が見えないほど天高くフェンスで囲んである。

「閉じ込められてる…の?」

「嘘でしょ?」

シャランン…

そのとき全員の携帯が一斉に鳴った。

知らないアドレスからのメールだ。

そいえばさっき、詳しいことは携帯に送るって言ってたっけ?

私はメールを開いた。

『ぺあげーむルール

①クジで男女2人、もしくは3人1組のペアを7組つくる。

②ペアで協力して自分のペア以外の誰か一人を殺していく。

③誰か一人の死が確認できたらペアリセット。

④それを4回繰り返してメンバーを10人まで減らす。

注意

・他のペアとタッグを組むことは構わない。

・ペアの相手を殺した場合ペナルティとして死刑とする。

・自分が誰と同じペアなのかは、本人にしか連絡されない。



またこの学校での生活についてですが、特に制限や規定はありません。寝る場所や食事する場所等はお好きな場所でどうぞ。シャワー室も使っていただいて構いません。また毎日12時と18時には30分間だけ学科棟1階に食品や衣服の販売に行きます。お金はいりませんがこちらが指定した代償が必要となります。そちらは毎朝6時にメールで連絡させていただきます。その他質問等は学校内のどこかにいる私を見つけて聞いてください。』

メールの内容はそこで終わっていた。

「学校で生活…?」

ペアゲームという謎の殺し合いも気になったが、その下に書かれている生活の記載に目がいった。

これは本当の話?

だとしたら…

「…じゅんこ、私、トイレ行ってくる」

「え…ああ、うん」

私はその場から離れて校舎に戻った。

1番近い2階のトイレに入る。

鏡で自分の顔を見ると、目や鼻は赤くなっていて、髪も乱れていた。

でもそれ以前に、笑っている自分の顔に驚いた。

「どう、しよう…」

私は今、ありえないくらいに興奮している。

楽しい…楽しい楽しい…

これからこの生活が続くんだ…

やばい…

さっきまで失恋して落ち込んでたことなんて嘘みたいに忘れてる。

殺し合い…

私は止まらない鼓動を必死に押さえて、顔がにやけるのを必死に堪えて、その場にうずくまった。

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