3.アーデル
バアァンッ!!
中に入ると、アーデルのように黒髪の人が数人いた。
前に進み出た男の人は、どこかアーデルに似ていた。
「だ、誰だ・・・?」
男はこちらを警戒しつつも、少しずつ近寄ってきた。
私は息を切らしながら答える。
「ハァ、ハァ・・・。リディア、この国の姫です。」
「なっ!?し、失礼しました!姫様、どうしてこのような町はずれへ?」
「アーデルはどこ?」
「娘は・・・、もう・・・長くありません。メイドであった娘を気遣ってくれるのですか?」
「アーデルは私のことをよく理解してくれた、ただ一人のメイドです。会わせてください。」
アーデルの父親は、もう何日も寝ていないのだろうか、目の下に隈ができていた。
そして、とても悲しそうな顔をしている。
案内された部屋に入ると、ベッドにアーデルが横たわっていた。
中にいたアーデルの家族たちは、部屋の端により、王族である私に頭を下げた。
数週間前まであんなに元気だったアーデルは、顔色悪く、今にも死にそうだった。
「アーデルは、体が弱かったの?」
「いいえ。2年ほど前に病にかかりまして、伝染することのない病だったので最後まで姫様のそばにいたい、とアーデルが・・・」
「あぁ、アーデル・・・」
話し終えた後、アーデルの両親は泣き崩れてしまった。
アーデルは最後を家族とすごすのではなく、私を選んだのだから。
そして、数週間前。
王宮で倒れてから今日まで、一度も意識を取り戻してないという。
私は拳を握りしめ、涙をこらえながら話し出した。
「アーデル、約束したよね?城の庭で森を作ってお茶するって・・・。まだ、全部できてないよ!あと、半分・・・もう少しなんだよ?!約束したじゃない・・・。アーデルの嘘つきぃ・・・!!」
こらえていた涙があふれ出し泣いていると、頬に冷たくなりつつある手が触れた。
「姫様、泣かないでください。約束は守れないけど、ずっとあなたの心にいますから・・・。私のこと忘れないでくださいね・・・?」
苦しそうに話しながら、アーデルは微笑んでくれていた。
アーデルの家族は、アーデルの意識が戻った奇跡を涙をこらえながら見つめていた。
「姫様、こんな私と一緒に過ごしてくれて・・・ありがとう・・ござ・・い・・・ます・・・」
頬に触れていた手がするりと落ちて、アーデルは息を引き取った。
わあぁっと泣き出す両親をよそに、私はアーデルに触れた。
冷たくなったアーデルは、もう私に笑いかけてくれない。
「忘れない、絶対忘れないから。見てて、わたしが森を完成させるまで・・・!」
私はアーデルを背に歩き出した。