2.花植え
次の日私は、お母様の言うとおりお庭に行ってみたんだ。
手入れはされているけど、あまり色のない寂しいお庭。
お出かけ以外で外に出たのは、これが初めてだったと思う。
あたりを見渡してみると、メイドが一人花壇のわきにしゃがみ込んでいた。
それは、たくさんいるメイドの中で、私が一番大好きだった人。
私のことを、一人の″リディア″として見てくれた人。
「アーデル!!」
「あら、姫様?珍しいですね、姫様が自らお庭にいらっしゃるなんて・・・」
「アーデル、何をしているの?」
「お花を植えているのですよ。少しでも、このお庭に色がでるように・・・と」
「服が汚れてしまっても?」
「汚れたら洗えばいいのです。姫様もいかがですか?」
アーデルはメイドの中でも下っ端のほう。
金髪の美しい私たちと違い、アーデルは黒髪に黒い瞳。
美しき王族にふさわしくない、と酷い扱いを受けながらも私に優しかった。
頬に土をつけながら微笑むアーデルは、3歳の私にもわかるぐらい綺麗だった。
「・・・どうすればいいの?」
「お教えしますね」
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それから3時間も私とアーデルは、お花の話をしながら苗を植え続けていた。
綺麗なドレスは土で汚れてしまったけど、とても楽しかった。
こんなに楽しいと思えたのは、初めてだった。
「アーデル!とっても楽しいわ!!わたし、このお庭を綺麗なお花でいっぱいにしたいわ!」
「まぁ!とってもステキですわ、リディア様!私もお手伝いさせていただきます。」
「お庭はとっても広いから、小さな森も作れるかしら?そこにベンチを置いて、2人でお茶にするの!!」
「いいですね、約束ですよ?」
「うん」
初めてできた私の目標。
約束を交わしたその日から、私とアーデルは毎日お庭で花を植え続けた。
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4年後。
7歳になった私は、国一番の美貌を手にしていた。
地につくほどのウェーブのかかった長い金髪に、吸い込まれるような美しい空のような青い瞳。
まだ7歳なのに噂を聞きつけた王子は、次々に城を訪れて来ていた。
だけど各国の王子をスルーしてでも、毎日続けていることがある。
それは、あの日から毎日世話をしているお花達の世話だ。
だがここ数週間、アーデルは城に顔を出さなくなった。
毎日毎日、私とお世話をしてくれていたのに、全く姿を見せなくなった。
どうしてか気になった私は、メイドの中でも一番くらいの高い者を訪ねた。
「アーデルはどうしてるのですか?ここ最近、姿を見せないから・・・」
「あっ、姫様・・・アーデルは・・・・」
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私は話を聞くなり、外出の許可を頂いて馬を走らせた。
馬車を出すっというメイドや使いの者を振り払って、私は町はずれへと馬を全速力で走らせていた。
すれ違う人々は、豪華なドレスを着た7歳の少女が、大人に負けないぐらい華麗に馬を操って乗っているのに驚いていた。
馬に乗るぐらい天才姫様にはどうってことないのだが、町の人々の驚きは大きかった。
「ハァ・・・ハァ・・・、急いで!早く!!」
馬を走らせて1時間。
目指していた家が見えてきた。
私は馬から飛び降り、よろけながらも家のドアを勢いよく開けた。