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過去の死  作者: 北川瑞山
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第七章

 翌日、葬儀の参列者が棺を取り囲んで祖父に最後のお別れをし、棺のふたを閉じると、一行は火葬場へと向かった。母が遺影を持ち、叔母が位牌を持って霊柩車に乗り込んだ。霊柩車は革張りのリンカーンであり、如何にも高級外車といった質感のよい黒い光沢を放っていた。

「爺ちゃんはこんな立派な車に乗る様な柄じゃないんだけどねぇ」

と、母がまた前の日と同じ様な冗談を言った。義久は一杯飯を、義郎は枕団子を、従兄弟達はお茶や水の入った湯飲みをそれぞれ持ち、貸し切りバスに乗った。

 火葬場まではかなり距離があった。最寄りの火葬場が先の震災で被災し休業していたため、一行はかなり山奥の、人里離れた所にある火葬場へと出向かなければならなかった。義久はバスの窓からぼんやりと外を眺めていた。暫くバスに揺られていると、景色が次第に深緑一色になり、その奥からじりじりと油を焦がす様な蝉の鳴き声がバスの中からも聞こえる様になった。

 細い山道を抜け、視界が開けた様なだだっ広い駐車場に着くと、バスは静かに停まった。バスを降りると、真っ白い外壁をした横長の巨大な建物が眼前に聳えていた。周囲は鬱蒼とした山林に囲まれ、頭上には壺の中から見上げる様に雲一つない青空が丸く覗いていた。一行はしめやかに火葬場へ飲み込まれていった。

 火葬する前に、坊主が棺の前でお経を上げた。その間に参列者は焼香した。それが終わると、祖父の棺はいよいよ火葬炉に入った。義久にしてみれば、それが祖父の最期だった。一行は待合室に案内されて、そこで茶を飲みながら寛いだ。義久は親戚と話をするのが面倒で、昼の抗鬱剤を飲んでから控え室を抜け出し、喫煙室で煙草を吸っていた。

 およそ一時間後に館内放送で呼び出され、一行は再び火葬炉のある部屋まで移動した。目も開けられない程の熱を放つコンクリート製の火葬台の上には祖父の姿はどこにもなく、真っ白な遺骨が整然と並べられ、その下には粉塵の様な灰がさらさらと流れていた。

 祖父の遺骨を見ながら、これが死だ、という衝撃が義久の脳裡を迸った。祖父は跡形もなくなった。もう祖父はこの空の下にいないのだ。人間存在の根拠とは意識なのか顔なのか、それはまだ判然としないにしてもだ、いずれにしても祖父はもういなくなったのだ…。義久は焼け付く火葬台の側で震えていた。死ぬという事は本当にいなくなってしまう事なのだ!そしてもう永遠に蘇りはしないのだ!箸で骨を拾うとき、危うく手を滑らせてしまいそうになった程、義久は戦慄していた。

 そうして祖父の遺骨は小さな陶器の中に収まった。それは今でも義久の実家の棚の上に置かれている。祖父は次男坊で入る墓がないため、一時的にそこに置かれているのである。だが義久はそれを目にする度、遺骨にはただ遺族の気休めといった形式的な役割しか与えられていない事に思い至った。なぜなら人間存在とは少なくとも骨ではなかろうからである。

 一行は火葬場を出ると、全方位を山林に囲まれた大空の下を歩き、帰りの車に向かった。夏の濃い金色の日光と相俟って、どこからともなく煙臭い風が吹いてきた。南中から刺す様な日差しが真っすぐに一行を照りつける。


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