神楽 「色あせる現実」
現 ――The Heroine’s Side――
五、
病院を飛び出して、学校に向かう。時刻午前十時。勿論、遅刻であるが少女は気にしない。口元に笑みを作りながら歩く様子はどこか異様で誰も彼女に声をかけない。
そんな周囲の様子もまったく気にせず少女は歩く。
そんな調子で校門をくぐる。さすがにこの時間に登校してくる者は少女のほかにいない。
校舎に入るとすぐに教師と鉢合わせした。授業時間なのだが、暇な教師もいるのかしら? すると教師が声をかけてきた。
さすがに少女が異様だといっても、遅刻を咎めないわけにはいかないのだろう。見れば体育科の教師だ。……まったくうるさいのに出会ったものだわ。
「一条。遅刻だぞ」
そんなこと自分が一番よく分かっていますが? まあ、悪いのは私ですし。とりあえず謝っておこうかしら。そう思って謝罪の言葉を口にする。
「すみません」
「どうしたんだ? お前が遅刻なんて珍しいじゃないか」
どうでもいいでしょう。しかし、悪いのは私だし。適当な言い訳でも作っておくのがよさそうね。
「はい。寝坊しました」
「はあ? まあ、次から気をつけなさい」
少女は軽く会釈してその場を立ち去る。勿論、自教室に向かう。
その後、授業はただ聞いているだけで、すぐに放課後になった。
……勿論、教室に葛木命刻の姿は無かった。