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Blue Rose  作者: 無名の霧
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Interlude 「魔術に関する考察」

現 ――The Magician’s Side――


二、


Interlude――


 さて、魔術師というものをご存知だろうか。

 簡単に言えば御伽噺に出てくる魔法使いだ。まあ、此処では裏の世界で広く使われている魔術師としておく。

 魔術とは、本来そこに存在しない「もの」――あるいは「こと」――を意思の力でその場に具現するものだ。

 それを、魔術を説明するにあたって、世界の基本法則について説明しよう。


 大原則として、世界は意思の力で形成されている。


 世界というのは意思の一つの集合体なのである。強い意志は具現する。魔術師でなくとも、感覚的に知っているだろう。もっとも身近な言葉を捜すなら、「努力は報われる」といったところか。

 さらに噛み砕いて言うならば、世界というのは一つの意思の集合なのだから、その空間――あるいはその概念――を制御している意思を塗り替えるほどの意思があれば、世界は容易く形を変える。尤も、この世界を制御している意思は多くの意思の集合なのだから、それを個人の意思で塗り替えるなどということは不可能に近い。

 ならば、どうするか。

 それを可能にするのが、魔術であり、それを行使するのが魔術師である。

 意思の力一つでは到底集合意識にはかなわない。ならば、自分の意思の集団意識への影響力を強化すればいい。あるいは、集団意識のプロテクトを突破する何かを自分の意思に付加すればいい。そうすることによって、世界を容易に書き換える。――もちろん限界はある。限られた空間において、世界が崩壊しない程度の塗り替えしかできない。世界の法則を大幅に書き換えるような真似はできない。

 世界が集団意識でできているなら、集団の意思が、世界がそうあるように望んでいるということだ。逆に言えば、集団の意思が、世界が形を変えることを拒んでいるということ。不安定にして不確定、人間には不理解の世界を、理解できるレヴェルに集団でもって固定しているのだ。

 いや、少し言葉の使い方を誤ったか。世界を構築しているのは、正確には集団意識ではない。真に世界を構築しているのは、集団無意識だ。よく考えれば分かる話だろう。日々、この世界に関し、この世界のあり方を強く願い続けている人間がいようか。少なくとも、私はそんな人間は知らない。なぜなら、人間はこの世界の本質、つまり世界は不安定で不確定、不理解であることを認識すると精神が崩壊するからだ。そうならないために、我々は言葉を使って互いにコミュニケーションをとっている。そうすることで、この不安定な世界を多くの仲間で共有することで、世界の有様を強固なものとしてきた。さらに言及するならば、この世界というのは、一つの読み取り方に過ぎない。世界に我々があわせているのだ。例えば――。

 話が逸れてしまった。まあ、言いたいことは、我々はこの不可思議な世界を理解するために、集団を組むことによって価値観を共有すると同時に、無意識下で世界を自分たちの読み取りやすい形に、あるいは世界がこれ以上不可解にならないように、強く願い、その無意識が集合することで大きな力となり、世界を塗りつぶしているということだ。

 さて、ここで集団無意識の力が二つ現れた。一つは世界の固定化。もう一つは、世界の変動の抑止。集団無意識は世界を我々の読み取りやすい形に固定化し、それを変動させようとする危険因子を、全力を持って排除する。

 この集団無意識を我々魔術師は「大いなる力」と呼んでいる。さらに、この危険因子の排除システムを「霊長の抑止」と呼んでいる。というのも、世界を構築する意思のほとんどが、我々「霊長」であるからだ。

 ここで、我々魔術師にとって問題なのは、「霊長の抑止」である。意思の力で世界を塗り替える魔術師は彼ら集団無意識にとって危険因子なのだ。「大いなる力」を書き換えようものなら世界のあり方が根底から覆ってしまう。それを防ぐのが「霊長の抑止」だ。「霊長の抑止」は世界のあり方を大きく変えようとする魔術師――あるいはその他の要因――を力ずくで排除する。大いなる意思は具現する。この原則に従って、「霊長の抑止」も時には形をもって危険因子を排除する。無論、この集団無意識の具現体に抗えるはずもなく、大きな魔術を行使した魔術師はことごとく死亡している。

 そんな理由から、魔術師の行える魔術というのは、限られた空間で世界のあり方を大きく覆すもの出ないことが前提条件なのだ。

 さて、魔術師が自らの意思に、集団無意識を突破する力を付加すると言ったが、なにを付加するのか。

 我々はそれを魔力と呼ぶ。

 簡単に言ってしまえば力の塊だ。具体的には、世界に満ちている、意思を伝える伝導概念である。質量もなければ観測も不可能だが、確かにそこにあるものであり、我々の意思を伝導し、集団無意識に則って世界を構築しているのが魔力である。意思の媒介といってもいいだろう。

 この魔力を我々は「マナ」と呼んでいる。人間では手を加えられない強大な力である。当然ではあるが、これを好き勝手にいじっては世界があり方を変えてしまう。そんなことは「霊長の抑止」が黙っていない。

 ではこの「マナ」をどうやって使うのか。直接使えないなら、何かに変換して使うしかない。自ら自由に使える状態にした「マナ」を、我々は「オド」と呼んでいる。世界の集団無意識を多量に含んだ「マナ」を、何らかの方法でろ過して何の意思も宿っていないただの意思伝導概念とする。そうすることで、魔術師は手に入れた「オド」に自らの意思概念を付加し、自らの意思概念の力を増幅させる。この「オド」による意思概念の強化で限定空間内における集団無意識に打ち勝ち、限定空間の世界のある一部に自分の意思を具現化させる。それが魔術である。

 共通財産を奪って、それを自身の力にする。魔術師とは略奪者にして世界の構築者なのである。尤も、大それたことをすれば「霊長の抑止」に破滅させられるわけだが。

 さて、この「マナ」の「オド」への変換をどうするか。大きく分けて二つある。一つは触媒を使って「マナ」をろ過する方法。強力な意思概念を伝導している「マナ」に干渉するために、強力な意思概念を持っている触媒を使って介入するのである。例えば、魔術書や宝石といったものがあげられる。集団無意識が世界のあり方に反映しているのならば、集団無意識レヴェルまで鍛えられた集団の願望、概念はやはり世界に反映されている。その一部としての魔術書や宝石だ。権威ある魔術書はそういった力があるものとされ、真に信仰している者、無意識下で「魔術書にはそういった力があって欲しい」と願っている者は多く、やはりそれは反映される。また、古来より宝石には不思議な力が宿るとされてきた。真実かどうかは別の話として、それ自体が強固な概念であることに変わりはない。やはり、世界に反映される。つまり、集団無意識によって、魔術書や宝石は固有の不可思議な力を得、「マナ」に介入する力を得ている。それら触媒を使って、「マナ」を「オド」に変換するのが方法の一つである。

 もう一つの方法は、これが上位階級に存在する魔術師たちの常套手段だが、自身の身体を使って「マナ」を「オド」にろ過する方法である。

 魔術師は自身の身体に特別な洗礼を施している。それらは「魔術回路」と呼ぶ。簡単に言えば、「マナ」の変換装置だ。簡単に言うも何も、それ以外に言いようがないのだが、ろ過機と同じで、そこに「マナ」を通すことでそこに付加された意思概念を取り除き、「オド」を生成する。本来触媒を用いて行うこの一連の動作を自身の身体で簡単に行えるのが「魔術回路」である。「魔術回路」は人によって多い少ないがあり、またそれを開いていない者が一般人である。一応、「魔術回路」は全ての人間が持っている。強い意志を持ったとき、世界に介入するためにそれが開かれ、「オド」を生成し、意思に付加し、世界を塗り替える。本来無意識下で行われるこの作業を、意識化で行うのが魔術師である。

 つまり、魔術師とは集団の意思概念を伝導している「マナ」を「魔術回路」を使って「オド」に変換し、その「オド」を使って集団の意思概念を自らの意思概念で凌駕して限定空間の一部に自らの意思を具現する者である。


                                  ――Interlude out




 ところで私は誰なのかといえば、やはり私も魔術師である。

 さて、昨日ちょうどいい検体が手に入った。

 ――確か、交通事故による意識不明者。身体に損傷はなく、トラックを避けた先で地面に激突して意識を失ったままだという。

 まさに、絶好の検体だ。





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