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Blue Rose  作者: 無名の霧
29/40

神楽 「アリスVSリデル」

夢 ――The Heroine’s Side――


十五、


「勝った。あー楽しかったな」

 リデルは、ピッと日本刀から血を払う。

 首を失った女王が、帽子屋と同じように霧散する。

 それを見届けると、リデルは振り返る。

「やは。神楽」

 ニコニコしながら、瓜二つの少女、神楽に声をかける。

 気さくに声をかけたつもりだったが、神楽は無視する。

 神楽の隣には猫がいる。三日月のように裂けた口。笑っているようにも見えるが、相変わらず、何を考えているのかよく分からない。

 それでもリデルはニコニコしながら、問いかける。

「あれ? もしかして、アリスって呼んだ方が良かったかな?」

 問いかけは酷く見当はずれなものだ。

 しかし、この少女の問いに深い意味などない。

「ま、いいか。逃げなかったってことは、私と殺しあってくれるってことだよね?」

 リデルは極上の笑みで、「死」を宣言する。

 対して、神楽は覚悟を決めるように、リデルを直視する。

「……そうね。逃げられるとも、思ってないわ」

「うんうん。いいよ。流石、もう一人の私」

 満足そうにうなずきながら、日本刀を構える。

 リデルの構えは無為の構え。日本刀を持った右腕をだらりとたらして、特別な構えはしない。

 神楽は足を肩幅に開き、右腕の掌をリデルに向ける。

「――行くわよ。猫」

「うん。攻めを休んだら負けだよ」

「あっはははは。いいよ。さあ、勝負だ!」

 瞬間。リデルの足元が吹き飛ぶ。

 何? そう思うころにはすでに次の「黒」が炸裂する。

 ――轟ッ!

 リデルの足元を基点に、神楽の「黒」が竜巻となって炸裂する。

 瞬間的に広がった「黒」の竜巻は、次の瞬間には収縮し、圧倒的なエネルギーを中心にぶつける。

 バン。と「黒」と「黒」が激突し、また次の瞬間には広範囲に広がって霧散する。

「いいよ。魔術にもなれたね」

 すぐに「黒」は霧散し、あたりはまた静寂を取り戻す。

 一瞬にして一定の空間を殺戮しつくす「黒」の基点となった少女は、そこにない。跡形もなく消し飛んだか。

 否。「黒」につぶされたなら、その血潮が舞っているはず。

 ならば。

「アリス。後ろだ!」

 猫が叫ぶと同時に、風を切る音。

 ――轟ッ!

「おや残念」

「反撃!!」

 神楽は振り返ってリデルを確認するよりも早く、自分を基点に「黒」を展開する。

 日本刀と「黒」が激突する音が聞こえると、すぐに「黒」が広範囲にそのエネルギーを叩きつける。

 「黒」が霧散し、神楽はリデルの姿を捉える。

 ――嗤っている。

「凄い。凄い。とってもスリリング」

 神楽は構わず追撃する。

 自分を基点に、「黒」の竜巻を直線的に飛ばす。回転する「黒」が持つエネルギーは強大。削岩機のように地面を砕きながら、突き進む。

 しかし、それを前にしてもリデルは喜悦に口元を吊り上げる。

「私は、殺戮者」

 削岩機のごとき「黒」を前に、避けずに日本刀を前に突き出す構えを取る。


 リデルの瞳が「死」を捉え、――。

 「黒」が直撃する瞬間。

 ――日本刀は「黒」を殺した。


 ぱっとエネルギーを失った「黒」が霧散する。

「そんな」

「まさか、魔術まで殺せるとはね」

 ゆらり、とリデルの影がぶれ、掻き消える。

「まずい!」

「怯まない! 魔術で、いや――後ろに飛んで!!」

 猫の指示通り、神楽は応戦よりも先に、後ろに飛び退く。

 ――ひゅっ。

 驚異的な危機感知。間一髪、神楽の首元で日本刀が煌く。

「あや、やりますね」

「このっ」

 ――轟ッ!

 反撃の「黒」。神楽を基点に広がるエネルギーの嵐。

 しかし。

 ――ひぅん。

 その「黒」さえも、リデルは殺戮する。

 流れるように、リデルの瞳が「死」を捉える。

 日本刀が死に向かって煌く。

「アリス!」

「このぉっ!」

 接近戦において最も効率の良い攻撃、それは打撃。日本刀という死を前に、神楽は右腕に「黒」を展開し、力任せに殴りつける。

 圧倒的なエネルギーを持つ拳が、クロスカウンターとして炸裂する。

 リデルは一つ舌打ちすると、後ろに飛び退く。

「追撃だよ!!」

「分かってる!!」

 しかし、そこにもすぐに追撃。

 リデルを基点に展開される「黒」。

 リデルに向かって四方から炸裂する「黒」。

 前から。

 後ろから。

 左右。

 上下。

 完全方位の「黒」。

 四方どこもかしこも「黒」、「黒」、「黒」。

 逃げ場はない。

 その中でなお、狂気の少女は嗤う。

 そして、感嘆する。

 流石は、自分だ。殺し合いというものをこのわずかな時間で理解している。常に生死を意識し、一瞬一瞬に必殺を繰り出し、それでいて、数手先まで呼んでいる。くっついている猫の的確な指示と、それを無駄にしない判断力の賜物だ。

 恐らく、この「黒」の先には、「黒」を展開した必殺の拳が待っているのだろう。

 流石は、「自分」だ。

 しかし。


 ――私の方が、より先を読んでいる。


 そして、「黒」が四方から炸裂する。

 轟轟とうなりを上げる力の本流の中で、日本刀が煌く。

 一瞬。神楽は垣間見た。

 「黒」の中で日本刀を煌かせた少女の瞳が、自分の「死」を捉えていることを。

 今まで以上に、その瞳が、自分の「死」を意識させるほどに深淵を見つめていることを。

 四方を囲った「黒」が一瞬のうちに殺戮し尽くされ霧散する中、日本刀が突き出てくる。

 それも予測済み。

 神楽はそれに対し、自分を中心に「黒」を展開。

 同時に、右腕に展開した「黒」で殴りつける。

 先の狂気の瞳を見てから、不安は拭えない。それでも、決死の覚悟で拳を繰り出す。

 勝負をかけた渾身の一撃。

 寄せてはかえす「黒」の奔流。

 「黒」から抜け出した少女の狂気の笑みと、「死」を見つめる瞳。

 「黒」を撒き散らす右腕。

 煌く日本刀。

 

 静寂。


 そして。


 朱。





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