神楽 「アリスVSリデル」
夢 ――The Heroine’s Side――
十五、
「勝った。あー楽しかったな」
リデルは、ピッと日本刀から血を払う。
首を失った女王が、帽子屋と同じように霧散する。
それを見届けると、リデルは振り返る。
「やは。神楽」
ニコニコしながら、瓜二つの少女、神楽に声をかける。
気さくに声をかけたつもりだったが、神楽は無視する。
神楽の隣には猫がいる。三日月のように裂けた口。笑っているようにも見えるが、相変わらず、何を考えているのかよく分からない。
それでもリデルはニコニコしながら、問いかける。
「あれ? もしかして、アリスって呼んだ方が良かったかな?」
問いかけは酷く見当はずれなものだ。
しかし、この少女の問いに深い意味などない。
「ま、いいか。逃げなかったってことは、私と殺しあってくれるってことだよね?」
リデルは極上の笑みで、「死」を宣言する。
対して、神楽は覚悟を決めるように、リデルを直視する。
「……そうね。逃げられるとも、思ってないわ」
「うんうん。いいよ。流石、もう一人の私」
満足そうにうなずきながら、日本刀を構える。
リデルの構えは無為の構え。日本刀を持った右腕をだらりとたらして、特別な構えはしない。
神楽は足を肩幅に開き、右腕の掌をリデルに向ける。
「――行くわよ。猫」
「うん。攻めを休んだら負けだよ」
「あっはははは。いいよ。さあ、勝負だ!」
瞬間。リデルの足元が吹き飛ぶ。
何? そう思うころにはすでに次の「黒」が炸裂する。
――轟ッ!
リデルの足元を基点に、神楽の「黒」が竜巻となって炸裂する。
瞬間的に広がった「黒」の竜巻は、次の瞬間には収縮し、圧倒的なエネルギーを中心にぶつける。
バン。と「黒」と「黒」が激突し、また次の瞬間には広範囲に広がって霧散する。
「いいよ。魔術にもなれたね」
すぐに「黒」は霧散し、あたりはまた静寂を取り戻す。
一瞬にして一定の空間を殺戮しつくす「黒」の基点となった少女は、そこにない。跡形もなく消し飛んだか。
否。「黒」につぶされたなら、その血潮が舞っているはず。
ならば。
「アリス。後ろだ!」
猫が叫ぶと同時に、風を切る音。
――轟ッ!
「おや残念」
「反撃!!」
神楽は振り返ってリデルを確認するよりも早く、自分を基点に「黒」を展開する。
日本刀と「黒」が激突する音が聞こえると、すぐに「黒」が広範囲にそのエネルギーを叩きつける。
「黒」が霧散し、神楽はリデルの姿を捉える。
――嗤っている。
「凄い。凄い。とってもスリリング」
神楽は構わず追撃する。
自分を基点に、「黒」の竜巻を直線的に飛ばす。回転する「黒」が持つエネルギーは強大。削岩機のように地面を砕きながら、突き進む。
しかし、それを前にしてもリデルは喜悦に口元を吊り上げる。
「私は、殺戮者」
削岩機のごとき「黒」を前に、避けずに日本刀を前に突き出す構えを取る。
リデルの瞳が「死」を捉え、――。
「黒」が直撃する瞬間。
――日本刀は「黒」を殺した。
ぱっとエネルギーを失った「黒」が霧散する。
「そんな」
「まさか、魔術まで殺せるとはね」
ゆらり、とリデルの影がぶれ、掻き消える。
「まずい!」
「怯まない! 魔術で、いや――後ろに飛んで!!」
猫の指示通り、神楽は応戦よりも先に、後ろに飛び退く。
――ひゅっ。
驚異的な危機感知。間一髪、神楽の首元で日本刀が煌く。
「あや、やりますね」
「このっ」
――轟ッ!
反撃の「黒」。神楽を基点に広がるエネルギーの嵐。
しかし。
――ひぅん。
その「黒」さえも、リデルは殺戮する。
流れるように、リデルの瞳が「死」を捉える。
日本刀が死に向かって煌く。
「アリス!」
「このぉっ!」
接近戦において最も効率の良い攻撃、それは打撃。日本刀という死を前に、神楽は右腕に「黒」を展開し、力任せに殴りつける。
圧倒的なエネルギーを持つ拳が、クロスカウンターとして炸裂する。
リデルは一つ舌打ちすると、後ろに飛び退く。
「追撃だよ!!」
「分かってる!!」
しかし、そこにもすぐに追撃。
リデルを基点に展開される「黒」。
リデルに向かって四方から炸裂する「黒」。
前から。
後ろから。
左右。
上下。
完全方位の「黒」。
四方どこもかしこも「黒」、「黒」、「黒」。
逃げ場はない。
その中でなお、狂気の少女は嗤う。
そして、感嘆する。
流石は、自分だ。殺し合いというものをこのわずかな時間で理解している。常に生死を意識し、一瞬一瞬に必殺を繰り出し、それでいて、数手先まで呼んでいる。くっついている猫の的確な指示と、それを無駄にしない判断力の賜物だ。
恐らく、この「黒」の先には、「黒」を展開した必殺の拳が待っているのだろう。
流石は、「自分」だ。
しかし。
――私の方が、より先を読んでいる。
そして、「黒」が四方から炸裂する。
轟轟とうなりを上げる力の本流の中で、日本刀が煌く。
一瞬。神楽は垣間見た。
「黒」の中で日本刀を煌かせた少女の瞳が、自分の「死」を捉えていることを。
今まで以上に、その瞳が、自分の「死」を意識させるほどに深淵を見つめていることを。
四方を囲った「黒」が一瞬のうちに殺戮し尽くされ霧散する中、日本刀が突き出てくる。
それも予測済み。
神楽はそれに対し、自分を中心に「黒」を展開。
同時に、右腕に展開した「黒」で殴りつける。
先の狂気の瞳を見てから、不安は拭えない。それでも、決死の覚悟で拳を繰り出す。
勝負をかけた渾身の一撃。
寄せてはかえす「黒」の奔流。
「黒」から抜け出した少女の狂気の笑みと、「死」を見つめる瞳。
「黒」を撒き散らす右腕。
煌く日本刀。
静寂。
そして。
朱。




