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Blue Rose  作者: 無名の霧
25/40

狭間 「芸術的殺戮」

狭間 ――The Murderer’s Side――


四、


 ――白。

 ――黒。

 白と黒の、パノラマの世界。

 一条神楽の、壊れた世界。

 一条神楽が、壊した世界。

 「ワタシ」がここに降り立って、長いこと経った。

 はじめは「花屋の周囲」しかなかったが、じきにその虚無への道に続きができた。先を進めば「学校」がある。相変わらず、世界は白と黒でできている。旧い時代を映したような世界であるが、その中の時間は動いていた。「学校」の生徒たちは、いつものように騒いでいる。休み時間だろうか。兎に角、分かることは、「一条神楽」は「学校」までも捨てたということだ。

 何にしても、「ワタシ」とってこれは好都合だ。「客観」が「主観」に変わるために、多くの世界に触れさせてみる。それが現在の方針だ。そして、この方針はうまくいっている。「客観」たる「ワタシ」は、このパノラマの世界、すなわち「殺戮された世界」で、「殺戮」したいという意思を持った。

 自ら思考し、「殺戮」したいと欲した。この欲求こそが「主観」だ。現在はこの「殺戮」たる空間に流されての惰性である可能性も否定できないが、それでも、これは精神の変化だ。

 とりあえず、また様子を見よう。前回のように「学校」という捨てられた世界を探索しよう。そして、何かに触れることによって、「ワタシ」が何かを望めば、それは成功だ。

 そうして、「ワタシ」は「学校」に入った。

 教室の前に来て、突然「ワタシ」が立ち止まる。

 ――どうしたことだろうか?

 すると、「ワタシ」は右腕に例の日本刀を携えていた。

「――さあ、殺戮しよう」

 驚いた。まさか、すでに「ワタシ」が意思を持っているとは。「殺戮」したいと望んだ。この「殺戮」たる限定空間の瘴気に当てられたのか? しかし、それでも良い。兎に角、「客観」が「主観」的に何かを望むということが、「主観」への変化の一歩なのだ。それが空間に作用されたものであってもかまわない。

 「ワタシ」は教室に入る。

 いくらかの生徒たちが「ワタシ」に気づき、気さくに挨拶をしてくるが、「ワタシ」が日本刀を持っていることに気づくと、教室がざわつく。

「お、おい、一条……それ」

 勇気ある男子生徒が近づいてくる。

 日本刀を指す右腕は震えている。

 「ワタシ」はにたりと、ぞっとするような不気味な笑顔を浮かべていた。

「?」

 ――ひぅん。

 風を切る音が聞こえたかと思うと、男子生徒の右腕が宙を舞っていた。

「――あ、」

 ――ひぅん。

 男子生徒は悲鳴を上げることすらできずに、首から上を失う。

 ――ひぅん。

 ――ひぅん。

 ――ひぅん。

 男子生徒の周りに集まっていた三人も、首から上を失う。

 忘れていたかのように、いまさらに首から血潮が上がる。

 四人の男子生徒がスプリンクラーのように血液を撒き散らす中、誰もが悲鳴を上げることもできずに、「殺戮」された。

 一人。また一人。次々と首から上を失っていく。

 誰も逃げ出せない。誰も声を出せない。

 降り注ぐ血潮の中、狂気に口元を吊り上げ、残酷な笑顔の浮かべながら、何の戸惑いもなく、一切の無駄なく、一切の打ち逃しなく、首を刎ねていく様に誰もが目を奪われる。

 次は自分だ。そう分かっていても、目を離せない。少女の動きは美的なまでに無駄がなく、その流麗さに吸い込まれるように視線を動かす。少女を見るのではなく、少女の動きを見るのだから、それは少女の軌跡を見ることと同義。動きに視線を奪われるばかり、逃げることも悲鳴を上げることもままならない。

 美しいものから目を離すことが誰にできよう。中途半端な美ではない。完成された、究極までに磨き上げられた「殺戮」。それはすでに一つの芸術だ。誰もそれから目を離せない。

 逃げることも、悲鳴を上げることも忘れて、誰もが少女の動きを目で追い、感動し、そして、首から上を失う。

 血潮を吹き上げるスプリンクラーはすぐに教室にいた生徒数と等しくなる。

 時間にしたら、ほんのわずかな時間だった。まさに一瞬で「ワタシ」は一クラスを「殺戮」しきった。

 「殺戮」たる「ワタシ」のアドヴァンテージ。

 降り注ぐ一条神楽のクラスメイトの血潮に濡れて、「ワタシ」の口元は喜悦に歪んでいた。

 ――すばらしい。「客観」たる私は歓喜する。「ワタシ」が「主観」的に行動し、そしてその結果に酔いしれている。この調子で、「ワタシ」を完全たる「主観」にしよう。……尤も、その時が「客観」である私の最期でもあるが、構うまい。「客観」が「主観」に変わるその瞬間に立ち会う。それこそが私の目的だ。自分が消え去っても構わない。

 「ワタシ」は日本刀を一振りして、ピッと血を払う。相変わらず血潮を噴出している生徒たちには興味がなくなったのか、「ワタシ」は隣の教室を「殺戮」してかかった。


 ――そして、「ワタシ」は「学校」全てを「殺戮」しきった。






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