表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blue Rose  作者: 無名の霧
20/40

命刻 「真相は禁忌」

現 ――The Hero’s Side――


四、


 クレアが帰ったあと、少年も冷め切ったコーヒーを飲み下し、すぐに病院に戻ってきた。

 クレアの話は難解で、魔術という非日常を知り、しかしそれによって、姿の見えない魔術師への対抗手段を見つけた。 


 ――強い意志は具現する。

   それは、世界の隠された基本法則。


 魔術師の意思よりも、強い意志で神楽を助ける。神楽を助ける為に願う意思ならば、誰にも負けない自身がある。

 加えて、自分にはその意思を上乗せする為の「魔術回路」というものも備わっているらしい。

 少年は、先程病室を出たときとは全く違う、強い希望と意思を持って、病室のドアノブに手をかけた。

「――っ!?」

 そして、驚く。一条神楽の病室を包む、異質な空気がより強くなっている。

「いや……、別の何かが上乗せされているのかな?」

 前回感じた異質とは違う異質。「一条神楽が起きない」と感じさせるような異質とは違い、今日新しく感じる異質は、人を近づけさせない異質さだ。

 恐らく、誰も近づかないようにしたのだろう。

 明らかに、誰かにこの病室は操作されている。

 少年はそう確信し、ドアを開けた。

 気分が悪くなるほど淀んだ空気。病院であるから、空調はしっかり効いている。しかし、この病室には超排他的な意思の流れと、一条神楽に対する何らかの意思の流れが混在しており、中にいる人間は二つの強い意志に精神を翻弄される。

 いるだけで、病室から邪魔だといわれているかのような圧倒的な威圧感と、不快感が押し寄せる。

 その病室の中で眠る少女の寝顔は安らかで、相変わらず起きる気配はない。

 そして、その少女の傍らに、この排他的な意思の流れの中、立つ人間がいた。

 誰だろう、と思いながら少年は病室に入る。

 ドアが閉まる音が聞こえると、間髪いれず、

「誰だ」

 男が振り返った。

 白衣を着込んでおり、眼鏡をかけた、痩せた中年男性。その顔は、少年も知っていた。

「あれ? 霧玄先生?」

「む? なんだ、君か。驚かせて悪かった。気にしないでくれ」

 男は、ふうと肩をすくめ、緊張を解こうとする。

 しかし、少年はそんな男をじっと見つめる。

 ――「誰だ」。ありえない台詞だ。そして、この超排他的な空気の中、どうしてこの男はこの部屋の中にいるのか。自分はクレアに教えられ、また、もともとそういったものを見抜く才能がある――と教えられた――から、この部屋を開けられた。しかし、他の人間はどうだ? 普通の人間なら、この超排他的な空気に、知らず知らずにこの部屋を避けていることだろう。

 一般人がこの部屋を開けることは、ない。

「またお見舞いかい? 残念ながら、まだ彼女は君と御話できそうにないな。……しかし、彼女も喜んでいるだろう。こういった症状の人間が回復するときには、誰かが傍にいるのが大切だ」

 男は表情をやわらかくして語りかける。普段笑わないのだろう。口元を吊り上げているのが、恐ろしくわざとらしい。

「彼らが眠りの淵から現実に復帰するとき、現実からの呼びかけが、彼らを助ける。もしも彼女が目覚めるようなら、名前を呼んであげると良い」

 ははは、と笑いながら男は少年に近寄る。

「――っ」

 少年は身構えるが、男はその横を通過する。

「まあ、君も無理しないようにね。君まで入院、なんてことになったら大変だ」

 そう言って、男は病室を後にする。

 男は笑みを作っていたが、最後までその瞳は少年を訝るようになめまわしていた。

「霧玄先生。貴方は……。いや、貴方なんですか?」

 一般人がこの部屋を開けることがない以上、――これはクレアによる説明で、いっそう確実性を増した――この部屋にいたあの男は明らかに異常だ。

 この異常のために空いている席は、少年が知る中でたった一つ。

 すなわち、魔術師のみ。

「霧玄先生……。貴方が、魔術師なんですか?」

 一人つぶやく。

 誰に向けたものでもないが、それは少女に向かっていた。

 あの男が魔術師。それだけは、あってはならないことだ。他の誰が魔術師でもかまわない。しかし、あの男だけは、魔術師であってはならない。


 ――それは、少女の過去を知る少年だからこその願望。

   もしも、それが真実だったとき、少女は……。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ