魔術師 「思惑」
現 ――The Magician’s Side――
三、
冬森市県立総合病院、四階、四百六十八号室。
ネームプレートには「一条神楽」。中では看護師が一条神楽の状態を記録していた。
「どうだね?」
すると、後ろから声がかかる。いきなり後ろから声をかけられて看護師の女は飛び上がる。振り返ると、そこには知った顔がいた。
「あ、霧玄先生。――一応、心拍数は安定しています」
「そうかね。それはよかった」
白衣を着た男、眼鏡をかけた中年の男は一歩看護師に近づく。
「それで、君。これからの予定は?」
「ええと、一条さんの状態をしばらく観察して記録してから……」
男はあからさまに不機嫌そうな顔をすると、やれやれと肩をすくめる。そして、看護師の目を見つめる。
男に見つめられた看護師はその瞳に吸い込まれるように目が離せなくなる。不思議な魅力と、威圧感を感じさせる瞳に射抜かれて、とてつもなく居心地が悪くなる。
「――あの、先生」
「何だね?」
「その、用事を思い出しましたので……」
男は視線をそらし、にこりと微笑む。作り笑顔もいいところで、それだけで、普段笑わないことが容易に想像できる。
「それはいけない。早く行くといい」
「はい」
そう言うと看護師は足早に病室を出て行った。
「ふむ。どうにもやりづらいな。人払いもかけておくか」
病室に残された男はぶつぶつとつぶやきながら、眠れる少女に近づく。
「一条神楽。因果なものだな……。ふ、君には、大いに期待している」
少女は眠り続ける。
「さて、ことは急いては仕損じる。慎重にいこうか」
そういうと、男は「人払い」の結界を張り始めた。
一条神楽を見つめる瞳は狂気に染まっていた。




