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プロローグ

 高校の入学式の日、クラス分けの掲示の前、私は彼を見つけた。

 同じブレザーの制服を着た同じ年齢の同じような男女が行き交う中、まるで彼と私だけが違う次元にいるんじゃないかというくらいはっきりと互いの存在だけが感じ取れた。

 そして唐突に、今までまったく知らなかった光景が脳裏によぎる。一瞬にしていくつもの記憶が私の中に生じる。

 見たこともない光景は見たことがある。

 知らなかったことは知っていたことだ。

 矛盾する自身の思考を遮るように目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をして目を開ければ不思議なくらいすんなりと私は今しがた私の中に生じた光景を記憶を、全部現実として受け入れていた。

 彼は少し離れた場所から私を見ていた。

 それはまるで見たことのない顔だ。間違いなく初対面のはずの相手だ。

 でも私は彼を知っている。

 ここで私達が出会うことは決められたことだった。

 そんな夢想じみたことを、私の脳は既に疑いようもない事実として理解していた。

 ただ呆然とそこに立ち尽くす私のほうへ彼は歩いてきた。そして目の前で立ち止まると笑った。

「久しぶり?」

 えらく楽しげな彼を前にして、またいくつかの事実が私の中に生じる。

 だから私は答える。

「久しぶりと言うのは何だか違和感があるよ」

 すると彼は言う。

「確かに久しぶりと言うような言わないような? まぁ一応今回初めまして、か。うん、一応礼儀として初めましてと言っておこう。俺は限野冬季(かぎりのふゆき)。そちらさんの名前を聞いても?」

 彼、限野は右手を差し出してきた。

 私もそれに応え、彼の右手を握り返した。

「一応初めまして。私は一宮棗(いちみやなつめ)

 握り返した彼の手は熱くも冷たくもなかった。代わりに奇妙な感覚はあった。

 それは彼も同じだったのだろう。不思議そうな顔で、離した自分の右手をしげしげと見ている。

「ああ、うん。そうだな、こんな感じか」

「何だか変な感じ」

「そう、変で異常だ。あり得ないはずだから」

 ひとり納得するように頷いて、彼はクラス分けの掲示へと目をやった。

「クラスは別か。まぁこんなもんだろう。それじゃあ俺はもう行くから。またな」

 私の言葉など何一つ待たず、彼はその他大勢の新入生の群れの中へと紛れて行った。

 しばらくしてから私もその雑踏の一部となった。 


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