8話 決勝から策謀へ
ルルージュサイド
大会の決勝戦です。
大会というくらいなので強い人もいると思って緊張していたのですが思いのほか簡単にこれました。皆さん調子が悪かったんでしょうか?ちなみに私は絶好調でしたよ。
確か3回位相手の人の武器を切り裂いて驚かれました。私もびっくりです。
対戦相手はあのマコトさん……正直勝てる気がしません。
これまでマコトさんは魔術を一切使わず素手というと語弊がありますが殆ど素手と変わらない装備で戦ってきています。また、試合を見てたら何度か彼女の姿を見失ってしまう事が度々ありました。つまりマコトさんはとっても速く動くことができるみたいです。
うう……こう考えると本当に勝ち目があるのか不安になってきました。
「ルル。」
「は、はい!?」
「手加減はしないよ。ルルが関係ないのはわかってる……けどね、今の私は怒ってるの。」
「っ!」
目の前に立つマコトさんから怒気がひしひしと伝わってきます。何故マコトさんが怒っているのか私にはわかりません。でも、マコトさんが全力でぶつかってくるというのなら
「私も全力で行きます。負けても悔いが残らない様に。」
そして、マコトさんに認めてもらう為に。
私の言葉が面白かったのかマコトさんはくすりと笑いました。
「ふふ、やっぱり貴女は違う…………さ、始めましょう。」
マコトさんは左足を下げて右手をこちらに向ける……などという構えは一切取らずにまっすぐこっちに突っ込んできました。
正直予想外と言わざる負えませんが、それでも私は素早く雪桜を抜刀しその勢いでマコトさんを刃の無い峰の方で叩こうとしました。
ですがマコトさんは私の想像を遥かに超える人でした。
マコトさんはなんと雪桜を右手一本で受け止めたのです。
正確には右手の人差し指と中指の間でしっかりと受け止めていました。
「なっ……」
呆然とする私に容赦なくマコトさんは拳を振り抜いてきました。
躱す暇も無く左拳が私の鎧に守られていない腹部に直撃しました。重いからという理由で胸当てだけにした自分の迂闊さを恨みました。
ですがマコトさんはそんな暇も与えてくれず、次はいつの間にか振り上げられていた右足が私の右手に振り下ろされあまりの衝撃に私は武器を落としてしまいます。
「これが無手の利点。」
試合になって初めてマコトさんが口を開きました。
「自分の肉体が武器だから切り落とされでもしない限り武器を失うなんてありえない。リーチも威力も頭を使えば補える。それが私の戦術。」
私に自分の戦い方の説明をしながらマコトさんは右足で地面を踏みつけ右足を軸に体を回転させます。
「貴女に反応できる?」
次の瞬間、側頭部に強い衝撃を受けた私はそのまま意識を手放しました。
真サイド
はい、大会から10日が経ちました。
現在私が所属してるのは魔道闘士隊、別名庶民隊。その名の通り大会で好成績を収めた庶民や大臣や他の有力者にコネを持たず従順でない下級貴族たちが送られる隊。
ぶっちゃけ実力に関してはあんな名前だけの騎士とか権力に取りつかれた魔法使いに比べれば遥かに優秀な人材が揃ってる。
ちなみにルルもこっち側だ。大会の途中貴族の子弟の一人に刀で武器ごと切り裂いて怪我させたのが決め手みたいだったようだ。
ま、私個人としては嬉しいけどね。友達としてもよし、手ごまにしてもよし。
ついでに最近は国の図書館とか他に魔法を使える人から話を聞いて魔力を込めた石”魔石”の情報とこの世界の魔法の理不尽さを知った。
何故かって?ぶっちゃけ得た情報をまとめると何でもできる。この世界の人間は火・水・風・土の4属性か稀に光や闇の魔法ばかり使ってるけどイメージできればこの世界でも核が撃てる。
ま、放射能とか核分裂とかイメージできないから作れないけど。
だから今は人型の魔術の製造に取り組んでる。というのもアーサーが表だって行動できなくなったからだ。流石に魔獣を入れるわけにはいかないという事でやむを得ずアーサーは近くの森に待機させている。魔道闘士隊は一番上に隊長、隊長の補佐をする副隊長、そして各小隊を指揮する小隊長という役職があるんだけど小隊長になると外部の人を自分の隊に入れることができるらしい。
何故そんな勝手が許されているのかと聞いてみると、何でも賊退治とかで魔道闘士隊は矢面に立たされるにも関わらずロクな治療をしてもらえず毎回かなりの被害が出る。
当然隊の人数は減り、前に出る人の数が減れば当然後ろで功績だけ貰う貴族の子弟に被害が出かねない。そこで魔道闘士隊に限り特別に任命権が与えれているのだ。
騎士団ではなく闘士隊なので入っても騎士扱いはされない。
楯にされる分死ぬ確率が増えるのだが、食うに困った民や奴隷、魔族などが頼み込んで入れて貰っている為人数は常に確保されているらしい。
……改めて思うけど、腐ってるよね。
マジで早めにエルディス様に王位を持ってかないと面倒事が増えそうだ。
ま、大会で貴族の子弟ブッ飛ばしたのと私がそこそこ指揮に優れていたことですでに副隊長の地位は手に入れたんだけどね。元々副隊長は適任がいなくて空席だったところに第2王子権限を少し借りて食い込ませてみた。
多少の反発は覚悟してたんだけど意外とすんなり受け入れられた。やはりみんな貴族が嫌いらしい。
国に仕える立場だから大人しくしてるけどこの具合なら大義名分と御輿さえあれば簡単に味方につけられる。大義名分はこの国の腐敗を正すため、御輿はエルディス様。
すでに魔道闘士隊を味方にするカードはある。騎士団と魔法隊も確認したけどロクなのがいなかった。マシな連中は一兵卒か弊職に追いやられているようだ。そういう人たちにも声をかけて味方に引き込んでおこう。手札は多いに越したことはない。
そこに人化したアーサー、それに魔術を利用して作る予定の私の私兵が加わればこちらの手札は十分なものになる。敗北条件は敵に情報が漏れること。これさえ注意しておけば十中八九成功する作戦だ。
そういえば上司の貴族や騎士団の連中を油断させるために堅苦しいのを使っているせいか笑ってない気がする。イライラはしても楽しいとか思う事も減ったな……その辺も改革が成功すれば直るでしょ。
今は兎に角作戦の成功に尽力しよう。