ボクらはもともとホモでした
教室の窓際で若干だけどなびく黒い髪に、原因がわかっていても心がときめく。
「あの子かっこいいー」
そう呟くと、隣に居た友達がカラカラと笑った。
「じゃあ告っちゃえば?」
「いやいや、無理だって」
「あんた普通に可愛いんだからそろそろ彼氏作りなよ」
ただでさえ男好きなんだから……とは友達の弁。その言葉にうぐぅと喉を鳴らした。
ごめん、普通じゃないんです。
私には前世の記憶がある。
舞台はなんか古代ローマみたいな場所。性格は普通。お城の一般兵でいつも裏口の警備をしている。
ただ、彼はホモだった。
それだけが私の記憶のおかしいところだ。
「はぁ……」
幼い頃は自分の名前が混同したり体験したことのない記憶を語ってしまったりで大変だった。いまでこそ苛められていないけれど、神はなぜ私にこんな試練を寄越したのか。立ちションしたことある女子とか自慢にもならないよ……。
もしこの記憶に意味があるのだとしたら、それはきっと彼の最後の言葉にあるのだろう。
『私は生まれ変わってもキミを好きでいたいよ』
生まれ……変わってしまったのだろう、おそらく。何も私じゃなくても……と悔やむのはお約束でもかかせない。
「学ってほんと黒い髪の男の子好きだよね」
「いや~」
恋人は黒い髪の男だった。目が悪く、今で言う虫眼鏡のような物を持ち歩いていた。なんでも高名な学者らしく、よく身分違いの恋だと自分が前世で嘆いていたのを覚えている。
いや、そもそも同性愛だからな!
身分違いとか以前の問題だからさぁ!
「あのさぁ、織田ちゃんって前世とか信じるタイプ?」
「学、あんたついに頭の中までメルヘンになった?」
ひどっ。確かに私が作るものはメルヘンなものばっかりだけどその言い方はないでしょ!
手芸部の部室には私の作った可愛い猫のスリッパやらぬいぐるみが転がっている。
「可愛いもの好きで悪かったね!」
「はいはい、さっさと仕上げてコンクールの作品を提出しに行くよ」
そうだった。締め切りは今日までなのに、ズルズルと引き伸ばしてしまったのだ。急いで最後に目を縫い付けると、可愛い猫の鞄ができた。我ながら良い出来だけど、外で使うと恥ずかしそうだなぁ。
「いこっ」
職員室はわいわいと騒がしかった。
「なんだろ」
織田ちゃんと顔を見合わせて職員室に入ると、なんともカラーバリエーションの豊富な頭が並んでいた。
「げっ、ギャル軍団……」
説明しよう。ギャル軍団とは群れを成して行動する怖い集団なのだ!
「ちょっと、携帯没収とかマジありえないんだけど!」
「せんせー、マジないってそれはー」
織田ちゃんのようにゲっとまでは言わないけど、それでもやっぱり怖いなぁ。こそこそと顧問の先生を訪ねる。
「先生、コンクールの出展作品です」
「あぁ、ありがとう。受け取るよ」
ギャルの先頭に立っていた子が机を蹴り上げた。うぅ、勘弁してくれぇ。あと織田ちゃんは私の影から出てきなさい。
「それじゃ、私たちはこれで……」
目を合わせないようにそそくさと逃げ出す。そのはずが、一人の女の子と目が合った。黒い髪にちょっと時代遅れのルーズソックス。
目が合った瞬間にドクンと胸が脈を打った。
「……あ」
思わず足を止めてしまった。
「あ?何見てんだお前」
先ほど椅子を蹴り上げた女の子がこっちを見た。
「あ、いえ、なんでもっ」
言って逃げ出す。織田ちゃんが犠牲になった気がするけどまぁ置いておいて。
なんだったんだろう、さっきのドクンは。
少なくとも、今まで黒髪の女の子に対してときめいたことはない。けれど男の子でもここまで強く心が反応したこともない。
「なんだろ……」
心臓が波打って痛い。さっきの女の子を見ただけでこんなになる? 顔も熱いし、なんだこれ、まるで、恋じゃないか。まさか、と思う反面、もしや、と思う自分がいる。
「スーザ」
前世の恋人の名だ。同じ世に生まれているとは思ってなかったけど……。
……お?
いやいやでも待って?
女子、だよね。
私もそうですけど、女子だよね。んー、待って待って。生前の彼の願いの一つは、こうだ。
『次は女に生まれて、ちゃんとスーザと結ばれたい』
……間違い、ない。彼女はスーザだ。前世の私の恋人に違いない。相手も女じゃダメじゃん、また結ばれないじゃん。
だから、って話なんだけども。
ここで「君、私の前世の恋人ですよね?」なんて言ったりしたら何こいつキモいって言われるのは目に見えてる。そもそもゾッコンだったのは私のほうでスーザのほうは覚えてないかも。いや記憶があるほうがおかしいわけで。
「でも、ちょっと気になるな」
ようやく見つけた元恋人だ。どういう人か調べたくなるのも無理はない。こういうとき、悲観にくれるより楽観的に考えたほうが得だ、というのは前世のヤツの言い分だ。悔しいけれどそのとおりだと思う。
「よしっ」
調べよう!
鈍くさい私だけど、前世よりはマシなはず!
* * *
むぅ、さすがギャル。
入ってくる情報はすごい噂ばかりだ。
「えー、援交疑惑にビッチ疑惑、それからドS疑惑に……」
「ストップ、ストープ!」
織田ちゃん!読むな!読むんじゃない!
ひらりと私の書いた紙を振りかざすと、織田ちゃんは溜息を吐いた。
「ろくなやつじゃないなー。何、あのギャルが気になってるわけ?」
うーん、気になるっていうか絶対そうだと思うんだけど……。なにせ前世と違う部分が多すぎる。スーザは誰より真面目でオシャレとは程遠い人物だった。“須藤郁美”はギャル軍団の中でもミステリアスだと称され、愛されているらしい。ギャルとは程遠い感じのスーザとはどうも違う気がする。
思い違いだったのだろうか……。
「もしそうだったとしても、なぁ」
これじゃあんまりにも……あんまりだ。追い求めた人物がただのビッチじゃ辛すぎる……。いや、噂だけど。噂なんだけども!
「はぁ、トイレ行って来よう」
手芸部の部室は部室棟の奥の部屋にある。一番奥には階段があり、その手前にトイレがある。そこのトイレは使用者は少ないが、他のトイレと同じように掃除されるため、綺麗だ。トイレが綺麗っていいよなぁ、と思う。
なんせお城では男ばかりが使う汚いトイレしかなかったのだから。用を済ませて手を洗って溜息を吐く。もうこんな記憶とはおさらばしたいもんだけど……。
「イサ、手を洗う時に腕まで洗う癖はどうにかならないもんか?」
あぁ、また懐かしい記憶だ。私は手を洗うときは腕まで洗わないと気持ち悪いのだ。こういうとき決まって私はこう答えるのだ。
「スーザ、こればっかりは癖で洗わないと気持ち悪いんだよ」
そう言うと決まってスーザは……。
あれ?
ちょっと待った。
今のは記憶だった?
ついに現実と記憶の違いがわからなくなった?
「やっぱり」
後ろに、須藤郁美が立っている。古代の記憶のスーザではなく、現代に生きている女の子だ。
「あ、え、あ!?」
あまりのことに頭のネジがぶっ飛んで口をパクパクと開くことしかできなかった。
「最悪、こんな芋っぽいのがアイツの生まれ変わりなんて……」
須藤郁美は溜息を吐くと、私を睨み付けた。その目は昔とは違い、女子らしくパッチリしていた。スーザはとても目付きが悪かったように思う。
「ちょっと、答えたってことは記憶があるんだよね?」
「……記憶って」
「はぁ?今更すっ呆けんな、ボケナス」
口悪っ!
さすがギャル、怖い。もうほんとトイレで一対一とか辛すぎる。涙目でもしょうがないと思う。
「ずっと探していた前世の恋人が、これかぁ」
「おぉう……」
それはこっちの台詞! と、言いたいところだけど我慢だ私! 今言ったらボコられる!
「ボクは隣のクラスの須藤郁美。こないだ職員室で会ったよね。名前は?」
「え、あぁ、まなぶ、伊佐木学」
「ふぅん、苗字がイサなんだ」
イサ、私の前世の名前だ。現世でそう呼ばれたのかと思うとなんだかじんわりくるものがある。初めて、過去の記憶を共有できる人が目の前にいる。
ただし、めっちゃくちゃ怖いですケド!!
こないだの私のときめきを返せよ! でもふと思い返すと、スーザは確かに真面目だったけれど、口が悪かった気がする。
「……で、なんでキミまで女の子で生まれてるわけ?」
それも、こっちの台詞でございます、元幼馴染殿。思うにゾッコンだったのは私の前世、つまりイサのほうだったはずだ。スーザは基本的に学究の徒であり、興味があるのは自分の世話をしてくれる人間のみ。イサは幼馴染のスーザを慕い、彼の身の回りの世話を自ら進んでやっていた。
だからこそ構ってもらえていたのだ。思えばスーザから好きだと言って貰った覚えが全くない。
「ねぇ、さっきからなんで黙ってんの?」
しみじみと思い返していると、洗面台に身体を押し付けられた。顔を近くで見るとますますスーザに似ていない。女性らしい顔立ち、長い髪。スッキリとした顔ではあったけどここまで女性らしくはなかった。
「こっちはイライラしてんの! 黙ってないでいろいろ答えてよ!」
「な、なんで!?」
「ずっと男だと思って探していたのに、やっと見つけた幼馴染の生まれ変わりが同じ女に生まれてたら誰だってムカつくでしょ!」
えぇぇ、だからそれもどれもこっちの台詞だってば~! あぁ、せめてギャルじゃなければなぁ……。
「ちっ、こんなやつでも、アイツの生まれ変わりならしょうがないか」
須藤郁美は体を少し離すと、私の手を取ろうとした。……取ろうとして止めた。
「とりあえず拭いてくれる?」
なんかごめん。手を洗った後、話しかけられてひたすら驚いていたので腕までびしょびしょだ。慌ててハンカチで拭うと、テイク2と言わんばかりに同じ体勢で手を取られた。細くて女の子らしい手だ。
「……女の子みたいな手」
女の子だよ!
似たようなことは考えてましたけど!
須藤郁美は私の手の甲にキスを落とすと、ポツリと呟いた。
「罪滅ぼしをしたいの。なんでも言って」
頭に石をぶつけられたみたいなショックにくらっとした。
「前世で、ボクのせいでキミは一生をふいにしたようなものだから」
だから、ずっと罪滅ぼしをしたかった、と。確かに私は仕事の他の時間はほとんどスーザの傍で雑用ばかりしていた。でもそれは多忙な恋人を支えるためだし決して不幸ではなかった。
むしろイサにとっては幸せな日々だったのだ。
幼馴染なだけで、男同士で、嫌われるかもって思いながらした告白に、スーザは頷いてくれた。それだけで嬉しかったのに。
スーザにとっては、恋人ではなかったなんて。
私は、イサの人生は私の人生ではない、と思っている。私とイサは別の人間で、記憶を受け継いだだけだと思っている。それでも、この仕打ちはあんまりじゃないだろうか、カミサマ。同性愛者ではあったが信心深く毎日祈っていたイサが可哀想だ。
「……イサ?」
「私はイサじゃない」
手の甲から顔を離し、上目遣いに見上げる須藤郁美に私は憮然と言い放った。その罪滅ぼしをさせるわけにはいかない。須藤郁美がスーザの意思を尊重するなら、私もイサの意志を尊重しよう。
「別の記憶ってこと?」
「私の記憶には確かにイサがいるけど、私はイサじゃない! 私は伊佐木学で、現在に生きているただの一人の女の子なんだから!」
ハンカチを投げつけるとトイレを出て深呼吸をした。私はだってスーザが同じ時代に生まれ変わっているなら嬉しいなと思っていた。でもそれは「あのときはさ」と楽しく思い出話ができたらいいなというぐらいのものだ。
男であれば、前世と同じく恋に落ちたって良かった。
「罪滅ぼしって……」
頭を抱えて溜息を吐いた。今まで厄介でも幸せだった記憶は一気に辛い思い出に変化してしまった。
* * *
あれから、今まで以上にギャル軍団を避けた。元々怖がりで避けていた部分もあるけど……。なるべく母親にお弁当を作ってもらって学食を避け、それでもダメな日は朝からコンビニに寄ってパンを買ってから学校へ行った。屋上や中庭には絶対に近寄らなかったし、一人にもならないよう努力した。なるべく人目につくところに居れば須藤郁美も近寄ってはこなかったし。
「ふぅ、今日もなんとか乗り切った……」
部室の隣のトイレにもいつも織田ちゃんを連れていった。もうそろそろ普通に行動してもいいかなぁ。須藤郁美もそこまでして前世のために行動しないでしょ。
ギャルだし。なんたってギャルだし。
と、思って油断していたのは、私でした。
ある日、突然。
教室にて、突然。
「伊佐木学、ちょっと面貸してくれる?」
須藤郁美が、キレた。
教室はざわざわとしているし、織田ちゃんにいたっては顔が青ざめている。ひそひそと「リンチされんじゃん?」なんて声も聞こえる。
「あれ、郁美ってばどしたん?」
「これからこいつをシメる!」
「へー、郁美がキレるなんて珍しい。手伝おうか?」
「いい、気にしないで」
ちょっ、不穏な会話止めてください! っていうか今からシメられると聞いて黙ってついていくほどおとなしくもない! 逆側のドアから全力で逃げ出した。
「あ、こら!」
足は遅いけど、しょうがない! 須藤郁美も遅いのを祈るしか……。
「待てコラぁああああああああ!」
いやぁああああああ!
めっちゃくちゃ速ぁああああい!
「こっち来んなー!」
「うるさい! 逃げんな、伊佐木学!」
廊下を走っちゃいけませんってば!
やばっ、行き止まり!
慌てて回避して教室に入り込む。みんなが何事かとこっちを見る。ごめんごめん、説明してる暇はないけどお邪魔しますよ!
「観念しろ、ボケナス!」
「やだ!」
諦めの悪い私は開いていたドアに向かって一直線に跳んだ。一階って素晴らしい。これでどうだと振り返ると、須藤郁美もジャンプする気でこっちに向かってきていた。
「うわぁ!」
慌ててまた走り出す。
もうどれくらい走っただろうか。喉は痛いし、口を閉じることもできないぐらい苦しい。
「待ってよ……!」
それでもまだ彼女は追ってきている。いや、彼、かな。もうわかんないや。
「なんでよ! どうしてよ!」
須藤郁美は同じぐらいの運動能力らしい。同じ距離を同じ速さで同じようにしんどそうに走っている。かけてくる声にヒューヒューと空気が擦れる音も聞こえる。スーザは弱っちかったなと思うのと同時に、私が弱くなったのだな、とも思う。
兵隊だったイサと、ただの女の子な私ではやっぱり違うのだ。
「私は、はぁ、私は、イサじゃない!」
「だったら、どうしろって言うのよ!」
そんなの、私のほうだって聞きたい! 罪滅ぼしなんていやだ!
イサならきっと聞き入れただろう。彼はとても優しい青年だった。自分がいくら心を痛めても、スーザのためであるならば、と。でも私は私だ。伊佐木学はイサとは違う、嫌なことは嫌だって言う!
「嫌なものは嫌なんだ!!」
叫んだ瞬間、草に足をとられてこけた。すぐ後ろに居たらしい須藤郁美も巻き込んで。盛大にこけて顔をしたたかに打ち付けた。
痛いし辛い。
なんだってこんな目に合わなきゃいけないんだ。好きでこんな記憶を持って生まれたわけじゃないのに!
「イサ!」
だから違うって。私はイサじゃない。イサの気持ちを尊重したい、でも私はイサじゃない。もう、どうしろっていうの!
「……スーザの気持ちを、受け取ってあげて」
重なり合った体から熱い体温とすごく速い心臓の音が伝わってくる。目を覗かれて思いっきり顔を逸らしたけど、片手で戻された。真剣な目で見つめられる。
次に伝わってきたのは、荒い息と柔らかい唇。
それがキスだと気付けたのは、前世でしたことがあるからだ。少し違うのは記憶よりももっと柔らかいこと。
「はぁ」
「……ぷはっ」
走った後だからお互いに息が続かなくてすぐ離れた。頭の片隅になんとなく、そういえばこの人ビッチ疑惑もあったなと思い出した。
「スーザはずっと後悔していたんだ。イサに何もしてやれなかったこと、イサに自分の傍に居ることを強要してしまったこと」
強要された覚えがないんだけど……。
「……優しいイサを、恋人にして繋ぎとめて、ずっと後悔してた」
恋人になってくれ、と頼み込んだのは“私”なのだけれど。
「だからボクは『生まれ変われるなら、女になってイサに尽くしたい』って願った」
うわぁ、カミサマのバカ! どっちの願いも叶えてどうすんの! 須藤郁美は「それがスーザの罪滅ぼしだよ」と呟いた。そうか、スーザはそんな風に思っていたんだ。
「キミも女に生まれていたのは予想外だったけど」
うん、まあね。それはこっちも言いたいことだから。
「でも、ごめん。今のでもういいよ」
須藤郁美は体を起こすと、寂しそうに笑った。あ、笑った顔初めて見た。
「ボクは、郁美で。キミはイサじゃない。だから、これ以上“ボク”の罪滅ぼしに付き合う必要はないよ」
ただ、少しでいいから成就させてほしかった、と。だから強引に教室で呼び出した、と。別に“私”は記憶が嫌なわけじゃない。イサの生涯を救いたかっただけだ。
思えば、この女の子もスーザを救いたかっただけなのだ。
「罪滅ぼし、じゃなければいいよ」
私も体を起こすと、彼女の目を見据えた。私はイサじゃないけど、彼女もスーザじゃない。でも私たちはお互いにお互いの記憶を助けてあげることができる。
「ねぇ、“私たち”で一緒に二人がしてみたかったことをしてあげようよ!」
手をとってそう言うと、須藤郁美は目を見開いた。
「してみたかったこと?」
「イサってさ、実はスーザとデートしたいとか一緒にご飯を作ってイチャイチャしたいって思ってたんだよ」
「いつも文句言わずに家事ばっかりしてたくせに?」
「そ、本当は身分違いであることに怯えて引き篭もってただけ」
ウインクしながらそう告げると、須藤郁美はクスクスと笑った。
「あ、でも私みたいな芋っぽいの嫌なんだっけ?」
慌てて手を離した。ちょっと調子乗りすぎたかな。うっかり忘れていたけど彼女はギャルだった。少し考えてから須藤郁美は意地悪く目を細めた。
「前世もそうだったじゃん」
う。まぁ自分がイケメンだったとは思ってないけどさ。加えて偉くもない冴えない次男坊の一般兵でしたが……。
「そっちこそいいの?」
「へ?」
「スーザは身分違いで言い出せなかっただけで、物凄くイサに対して激しい欲求を持ってたみたいだけど?」
……激しい、欲求?
「え、待って、なにそれ、初耳」
「言ってないもん。あ、でも女の子同士じゃできないこととかあるなぁ」
ちょ、待て。待って待って。何する気!?
「そ、そうだ、女の子同士なんだしできる範囲で、とか」
「前世も男同士だったんだし、今更気にする?」
「気にしてたからお互い女の子に生まれちゃったんじゃないの!?」
「ううん、スーザはただイサにめちゃくちゃにされたいって思ってただけだよ」
うん、すっごい下ネタですね。じゃなくて!
「す、須藤さんはそれでいいの!?」
「いいよ」
ケロリと言い放つと、妖艶に笑った。
「これも記憶のせいかわからないけど、正直さっきから我慢してるんだよね」
「へ?何を?」
聞いては、いけなかった。彼女は一言「これはボクかスーザかどっちがしたいことかなぁ」と呟いた。その後、反論しようにも口を開けなかったのは塞がれていたからである。あれ、そういえばさっきのは“私”のファーストキスだなぁ。記憶とは違う柔らかさに困惑しながらも、同じ性である体におぼれていくしかなかった。
若干の嬉しさを感じるけれど、これはイサか“私”かどっちなんだろう。どっちにしろ嬉しいならいっか、と私は意識を手放した。
Pixivにて2012年9月13日に公開した物です。




