喉仏 :約1000文字 :会話形式
とある火葬場。煙突から、白い煙が細く空へと昇っていく。焼却炉の余熱がまだ残っており、建物の中にはじんわりとした熱気と、かすかな湿気がこもっていた。
金属の台の上には灰にまみれた白い骨片が置かれている。
箸を手にした若い職員が骨の一片をつまみ上げた。目の前に掲げ、まじまじと見つめる。そして、そっと喪服姿の男の前へと置き、首を傾げた。
「これは……喉仏ですかね?」
「え……? いや、こっちに聞かれても。そういうのって、そちらが説明してくれるものじゃないんですか?」
「そうっすよね……うーん……じゃあ、喉仏ということで。いや、こっちが……いや、やっぱりこっちかな……うーん、はい、喉仏です」
「いや、全然説得力ないんですけど」
「これが喉仏だと思うんですけどねえ……あ、これかな? いや、やっぱり最初の……ええい、これが喉仏です!」
「いや、そんな一か八かみたいに言われても」
「いやあ、バイトなんで、正直よくわかんないんですよー」
「何ちょっと笑ってんですか。場を考えてくださいよ」
「それにしても、なんか変な形っすよね」
「いや、親父なんですよ。変とか絶対言っちゃ駄目でしょ」
「あれー、喉仏、喉仏」
「がちゃがちゃ探すな、探すな。どんどん砕けてるじゃないですか!」
「骨、もろいっすね。けっこう古い感じっすか?」
「言い方。『長生きされたんですか?』とか他に言いようあるでしょうが」
「やっぱりこれかな……。あ、そういえば喉仏って座禅を組んだ仏様の姿に似てるから、そう呼ばれてるんすよ」
「へえー」
「まあ、どっちかというとホームレスに似てるなあって思いますけどね」
「失礼でしょ」
「親父さん、孤独死っすか?」
「……すごいな。もう遠慮とか一切ないんだ」
「いやー、息子さん一人しか来てないんで、ちょっと気になって」
「……まあ、一人暮らしでしたけど、交流はあったみたいですよ。近所の人が見つけたらしくて。はあ……ま、痛む前に見つかったのは、不幸中の幸いでしたね」
「あっそ、へー」
「興味。正直こっちだって、どれが喉仏かなんてどうでもいいですからね」
「それにしても、これ本当に喉仏なんすかね?」
「だから知りませんよ。他にそれっぽいのがないなら、そうなんじゃないですか?」
「でも、なんか変……うわ、ドロッとしたのが出てきましたよ。気持ち悪……最悪っすね」
「だから、人の親父なんだってば。あんまり突かないでくださいよ」
「いや、なんすかこれ……ねばねばしてるし……」
「いや、知らないですよ。未消化の何か、とか……?」
「なんか……折り重なってる……? うわ、なんか出てきましたよ! 動いてる! なんすかこれ、親父さんの生まれ変わりっすか!?」
「そんなわけないでしょ!」
「おら、死ねや、もういっぺん死ね!」
「いや、生まれ変わりだったらどうするんだ!」
「うわ! 飛びましたよコイツ! あ、あ、他に何匹も! あ、あ、耳に入ってますよ!」
「あんたも鼻、鼻に!」
「な、なん、すかこれ、な、な、な、な」
「な、な、な、な、な……」




