さよなら王子、古い聖女は去るものなのですわ
追放された聖女です。
嘘です。
追放されるように仕向けた聖女です。
理由は単純です。
幼なじみの王子と聖女だからと結婚させられそうになったからです。
そんな理由で好きでもない人と結婚できません。
「聖女ー!」
呼ぶ声に振り返ると、馬車を追いかけて王子が馬を走らせています。
も、もう、私が出てきた事に気づかれた!
「もっと、急いでください!」
私は御者さんにお願いします。
「無理です!」と言う声がかすかに聞こえてきます。
「俺と結婚したくないからって、聖女を辞めるなんて、絶対に許さない!」
馬車の横に追いついて、怒って叫ぶ王子の顔がとても怖いです。
……嘘です。
必死に追いかけてくる王子の顔はいつも通りかっこいいです。
私を追いかけて整った髪が乱れる様子に、私の胸は高鳴って、今すぐにでも王子に抱きしめて貰いたくなっています。
そんな自分の心が嫌です。
この国には私みたいな無能聖女ではなく、最近見つかった有能聖女様が必要なんです。
王子には、この国の為にも有能聖女様と結婚して頂かなくては!
◆◇◆
その王国には聖女と呼ばれる女性がいました。
その癒しの奇跡は大陸中に轟いて、王国は聖なる国と呼ばれています。
王国の至宝である聖女を守るのは、戦場では敵なしの勇猛果敢な第一王子で、二人が結ばれることはずっと昔から決められていました、
しかし、ある日、もっと有能な聖女が見つかり、お城に二人聖女がいることに……。
幼い頃から王宮で共に育った元の聖女と王子は大変仲がよろしかったけれど、ちょっと困ったことになっていて……、今日も王子が聖女の後を追いかけていきます。
——。
王子から逃げられるはずもなく私の乗った馬車は止められてしまう。
王都の城壁がまだ近くにあります。
王子が御者さんを睨んでいました。
背の高い王子はいつも姿勢が正しくて背筋がまっすぐ伸びています。
服は今日は簡素な私服ですが、胸元から見える鍛え上げられた筋肉は騎士のもの。
私の視線は王子の胸元に吸い寄せられるように向かうけど、そんな場合ではありませんでした。
睨まれている御者さんがあまりにも可哀想です!
し、仕方ありません!
服の裾を強く握って深く息を吐くと、意を決して馬車の外へ出ます。
「お、王子! 御者さんは仕事で私を運んでくれただけで、私があなたから逃げた事には関係ありません!」
「やっぱり、俺から逃げたのか」
あ……。
王子の真っ直ぐな目が嘘を断罪するように私を射抜きます。
「ち、ちちちちち違います! 聖女としての能力がひ、低いので、新しい有能聖女様と交代したんです!」
私の癒しの力なんて、その辺の草花を元気にする程度で、かすり傷なら治せても、有能聖女様のように深い傷は治せません。
前世の道具で言うところの、ガーゼの絆創膏とジェル状絆創膏くらい違うんです!
『あら、聖女様は見た目が控え目で慎ましいだけじゃなくて、能力も控え目で可愛いらしいんですね。ふふふ』
と、有能聖女様は褒めてくださるけど……。
やれやれと言う様子で王子は言う。
「あれを本物の聖女とお前が言うなら、お前が聖女を辞めることまでは許す。だが、田舎に帰る必要はないはずだ。戻るぞ!」
王子は私に近づくと私の腰に腕を回して軽々と持ち上げる。
やはり王子も有能聖女様が本物で私が身代わりと思っていたのですね……。
私はそのまま王子の肩に乗せられて馬の方まで連れて行かれます。
「まさか本気で俺から逃げられるとは思ってないだろう?」
いつもの事だけど、私が少し抵抗したくらいじゃ王子の腕は解けそうになくて、肩や背中を触って伝わってくる筋肉の硬さに抵抗しても無駄だと、悔しいですが、諦めだけが残ります。
でも、本当に私は戻るわけにはいかないんです!
「ま、待って下さい! 新しい聖女がいるのに、古い聖女がいたら、王都のみんなが混乱します! 古い聖女は去るものなんです!」
王子は抱えている私を睨むと、少し考えて、納得してくれたみたいです。
「じゃあ、俺も一緒に帰ろう」
って、納得の方向がちがいますー!
「帰るって、王子の田舎じゃありません!」
これです! これがあるから、私は聖女を追放されて田舎に帰る事を選んだんです。
王子は何でも私を優先して、他のことを放り出してしまうんです。
これでは国が滅びます!
「結婚するんだから、俺の田舎も同じだ」
王子は私に真剣な眼差しを向けてきますが、ズレています。
「いえ、王子は聖女と結婚する決まりですから、私とは結婚しません!」
私は聖女も王子の婚約者である事も辞めたんです。
王子は有能聖女と結婚するしかないんです。
「そんな決まりはない」
王子はキッパリと言います。
「いえ、だって、私が聖女に選ばれた時に、自動的に私は王子の婚約者になっていましたよ?」
はじめて私がお城に着いた日に、『あの方が、あなたの婚約者の王子様よ』と紹介されました。
それで、聖女は王子と結婚するのが決まりなんだと知ったんです。
「それは俺がお前と結婚したいって言ったからだ」
怒ったように王子が言います。
「え?」
「知らなかったのか?」
……知りませんでした。
「何故? 私と結婚したいなんて……」
言い終わらないうちに、王子が抱いていた私を馬に乗せると、王子も馬に飛び乗ります。
足を揃えて馬に乗っていた私の左側が王子の身体に包まれます。
力強い王子の腕と体温に、抵抗しても無駄だと言う気持ちが強くなります。
「わ、わかりました! 王都に戻ります!」
私は叫びます。
一旦、王都に戻ってから、またこっそり出てくるしかありません。
私を横から抱きしめて見下げている王子の視線が鋭くなったような気がします。
心の中で王子から逃げることを考えていたのがバレたみたいです。
「俺がお前の実家に行きたい」
そう言うと王子は私をまた抱いて、そのまま馬の進行方向を向かせます。
馬にまたがる形になって、着ていたドレスのスカートがめくれ上がります。
「お、王子ー!」
ドレスの下にドロワーズを履いてはいるけれど、これだって人に見せるものじゃないんです!
真っ赤になる私を王子のマントが包む。
「急ぐからな。でも、お前の事は誰にも見せないから安心しろ」
「え! ええ〜!?」
どうして、そうなるんですかー!
王子の温もりと匂いのこもったマントの中で、私は腰に回された王子の片手にしがみついて、ただ抱かれているしかなかった。
「いい香りだ」
王子が何か呟いた。
私の首筋に王子の息が直接かかってくすぐったい。
落ちないように王子の腕をもっと強く握ると、王子の筋ばった腕が脈打つのが感じられた。
ギュっと握った王子の腕から私の手へと直接鼓動が響いてきて、馬上の揺れが私と王子を一つに溶け合わせていくみたいで心地いい。
「落ちるなよ」
王子が私の様子に気づいて、笑って腕をもっと強く私に絡めてくる。
王子の腕で王子の身体に引き寄せられて、王子の熱い胸板からも鼓動が直接私の背中に伝わる。
王子のマントの中で王子の腕と胸板に挟まれて、熱と鼓動と匂いに私を閉じ込める甘い空間になる。
馬の速さで感じる風の冷たさだけが、甘く閉じた空間の熱を冷ましてくれる。
◆◇◆
王都の城壁が小さく見える丘の上で、やっと王子は止まってくれました。
馬から先に降りた王子は、私の身体を抱いて馬から降ろしながら、
「もっと抱いていて欲しかっただろう?」
と言います。
そんなことは思っていても絶対に言いません!
「王子! 急に訪ねてこられても、実家が迷惑します! やめてください!」
私は馬の揺れの余韻でフラフラになりながらも、王子に怒って言います。
「じゃあ、どこに行く? 聖女が行きたいところに、どこへでも連れて行く」
倒れそうな私の横で王子がちょっと楽しそうに、平然としています。
王子はなんでこんなに元気なの!?
さっきまで触れていた胸や腕、身体中の筋肉と支える熱と鼓動が、王子の力の源のようですが、それだけじゃない気がします。
私は持ってない、何かが王子にはあるのです。
「いえ、もう疲れました。王都に戻りましょう。本当に……」
私には、もう抵抗する気力もありません。
「新婚旅行は、いいのか?」
新婚旅行って婚約破棄したばかりですけど……。
王子は、真っ直ぐに大真面目に私に聞いているらしい。
もう、この王子から逃げられない。
少し遅れて馬車が追いかけて来るのが見えた。
「……私は馬車で戻ります」
追放されて1時間くらいでしょうか?
短い自由でした。
丘の上では、爽やかな風が吹いています。
普段はキチンと整えられている王子の髪が、私との追いかけっこで少し乱れています。
風は王子の乱れた髪を撫でて、遠くへ去っていきます。
王子が風の行方を見つめる横顔がいつもと違ってドキッとします。
前にも、こんな風に王子にドキッとさせられた事があったのを思い出します。
「ふふふ!」
私は自然と笑みが溢れていました。
「あははは」
王子も笑っています。
ずっと小さな頃にもこんな風に王都の城壁の外で王子に追いかけられた。
聖女だからって王子と結婚するなんて、私なんか王子に相応しくないって、逃げたんでした。
遊びの鬼ごっこの延長みたいに王子に追いかけられて、でも、遊びじゃない本気の王子からは逃げられないって諦めたんでした。
あの時も、敵わない王子の大人っぽい横顔を見つめて、私は今みたいにドキドキしていたんです。
王子が私との結婚を嫌がっていないのは嬉しいけど、あの時からずっと王子は私には手の届かない素敵な人なんです。
懐かしいです。
いつか、王子に相応しい人が現れるまでのつなぎの聖女でも、今まで楽しかったんです。
「昔から、どうして、王子は私を追いかけてくるんですか? 何も出来ない役立たずなのに」
王子は私を見る。
なんだか呆れてるみたいな顔で、やっぱり私ってダメなんだって思わされる。
「お前が慰問した後の兵士たちの様子を知らないのか?」
「みんなやる気になっていますとは言っていただけますが……」
社交辞令で、真に受けないのが前世のマナーです。
「兵士たちは本当にやる気が出て、二、三日は訓練の成果が違う。目に見える違いじゃないが、数字を確認すれば分かる。訓練時間が伸びて、訓練回数が増える。少しの違いが積み重なって、お前のよく行く兵舎と行かない兵舎では、兵士の質が全く違っている」
ええ! そんな事が!?
ちょっと信じられません。
「調べなければ分からないから、父上や大臣たちもお前を軽視している。お前自身も気付いていないしな」
王子が私の方を見て笑っている。
私の能力を完全に信じきっているようで、とても嬉しそうに語る。
「か、買い被りすぎです! そんな能力は、私にはありません!」
王子が見ている聖女像が凄すぎてびっくりです!
王子が好きな人は私じゃない! 聖女を解任されて良かったです!
なんとか、王都に戻った後に逃げ出す事を考えましょう!
「また、よからぬ事を考えてそうだな、聖女」
ゾクっとした。
王子の目つきが鋭い。
か、考えてません!
「お前の自己評価が低いのも当然なんだ、周りのものに無自覚でやる気を与えてしまうから、お前は周りの人間を無自覚に有能に育ててしまう。結果、自分が無能に見えてしまうんだ。バカだな、俺が誰よりもお前のことを認めているのに」
「王子? 私の事、バカって言いました?」
ふふ、王子は笑って受け流します。
褒められるのが苦手で、誤魔化してしまう私の性格をよく知っているんです。
その王子が、私の事をこんなに褒めるなんて……。
……。
「それは、本当に、私に都合のいいストーリーです……」
なんだか、納得できてしまうけど……。
「聖女……。俺が、疲れて部屋に戻って、朝には萎れていた花が元気に咲いているのを見て、どれだけ癒やされていたか分かるか?」
王子が真剣に私を見つめる。
急に甘い視線になって、素肌に絡みついて裸にされて見られてるみたいで、いたたまれない。
「お前が部屋を訪ねて来ていたのかと、気配を感じるだけで、やる気が出た」
とろけるような笑みを見せてくれる。
滅多に見せてくれない、私が大好きな顔。
でも、それは小さな頃の事だ……。
最近は王子の部屋に入ってない。
王子の気持ちは小さな頃から変わっていないの?
……私が、大人になって、自信を失い過ぎていたのかもしれない。
花を元気にしただけで、王子が笑ってくれることを私は知っていたのに……。
「新しい聖女がどれだけ身体を癒せても、俺の心を癒せるのはお前だけだ」
王子が私の手を取って口づけする。
甘い仕草と誠実な言葉……。
見つめられて真っ直ぐに言われると胸が苦しくなって、どうすればいいか分からなくなります。
私にみんなの能力を引き上げる力があるなら、それは国のためにもなって……。
私は国のためを思って聖女をやめたんですから……。
あれ? 国のためを思えば、私は聖女をやめてはいけなかったの?
混乱してきました。
王子はそんな私をただ見守ってくれています。
王子はすごく強引で私の話なんて全然聞かずに連れ出したりするのに、いざという時は手の甲へのキスでやめちゃったり、距離感がおかしいんです。
もっと強引に迫られたら、何も考えずにいられるのに!
強引な王子を一人で想像して赤くなっていると、王子に気づかれました。
王子は、私の手を握っている手とは反対の手で、私を抱きしめます。
「こうして欲しかったのか?」
欲しかったけど……、そういう風に聞かれるのは嫌です。
ちょっと不満な私の顔を見て王子はまた真剣に言います。
「俺がお前に迫るならいつでも出来るだろ? お前にあるのは逃げ場がない事を受け入れる時間だけだ」
う、まさにそうなんだけど……。
私の余裕のなさまで受け入れられたら、いつも王子に負けてばかりになってしまいます。
「それでも、俺はお前が嫌なら何もしない。ただ、俺から逃げることだけは許さないだけだ」
王子は私を強く抱きしめて離さない。
逃がさないと言いつつ、だから逃げるなって、切実な王子の願いが吐息や鼓動、私の身体に置かれた手の強さから感じられた。
王子はもしかして、私のことを、本気で——。
王子が私を両手で抱きしめて、王子の身体にすっぽりと私を埋める。
王子の胸と腕、密着した全てから熱と鼓動が伝わってくる。
「もっと強く抱いてください」
「なっ!」
王子が驚いたのが分かったけど、私は構わず王子の胸に顔を埋めた。
力強い王子の熱と鼓動が、少し強くなった気がした。
これが王子の力の源で、もしかして、私の聖女の力が、王子の元気を作ってた!?
『お前が部屋を訪ねて来ていたのかと、気配を感じるだけで、やる気が出た』
私は、王子が言ったことが少しだけ腑に落ちた気がした。
◆◇◆
追いついた馬車に乗り込み王子と離れられると少しホッとしました。
ただ、王子の腕の中に閉じ込められて胸板から伝わってくる熱や匂い、鼓動の響きがまだ残っていて、困ります。
「有能聖女は俺がお前を聖女の役目から下ろすために連れて来たんだ」
王子が馬車の扉を開けて言います。
そうだったんですか??
「俺の婚約者になるつもりで父上と話しているらしいが……。傷を治すだけなら、傷薬や包帯でもできる。無能はあっちの方だ」
王子が吐き捨てるように言う。
「有能聖女様は、『ご実家で休んで下さい』と声をかけてくださったり、お優しい方ですよ!」
高笑いで送り出して頂いて、『田舎で王子よりもっといい男を捕まえて見返してやる!』と元気が出ました。
王子よりいいなんて何処にもいないのは分かっていましたけど。
王子は鼻で笑う。
「お前が、そばでやる気を送れば、もっと有能になるだろう。衛生用品で代用できないくらいの本当の有能聖女にしてくれたら、お前の身代わり以上の価値も出る。
まあ、お前の代わりに兵士の質を上げることは不可能だが、俺の妻になったお前がいるから問題ない」
「つ、妻って! 私の能力を国に捧げるのは構いませんが、結婚は、私を聖女とか能力じゃなく、好きになってくれる人としたいです」
私はせめてもの抵抗を口に出す。
「だから、それは、はじめて会った時からお前を好きな俺以上に相応しい奴はいないだろう」
王子がまた、あきれて言う。
「え……?」
「田舎で次の聖女だと、遠くにいるお前を紹介された時から好きだったんだ。だから、すぐに婚約を望んだ」
だから、私が城に着いた日に、王子を婚約者だって紹介されたの?
「子供の頃もお前がそう言って逃げたから、捕まえた時に言っただろう?」
『俺は、聖女の事が大好きだから、ずっと側にいてください……』
あ……。
『はい……』
私が答えたら、王子は微笑んで遠くを見つめていたんです。
その顔がとても大人っぽくて……。
「って、王子! なんで子供の頃はあんなに素直で可愛かったのに、今はそんなに偉そうなんですか!?」
「う、うるさい奴だな」
偉そうな王子が、少し赤くなった。
て、照れてるの!?
「とにかく、戻ったら、お前はもう聖女じゃないんだ。俺と結婚するしかない」
そう言って馬車の扉が閉めようとする王子は、勝利の笑みを浮かべています。
そ、そうでした!?
もう、逃げる言い訳もありません。
もしかして、聖女を追放されたのは失敗だったのでは!?
後悔しても、今更もう遅い……ですけど。
……。
「お前はなんでそんな顔をしてる」
王子が振り返って言います。
私はどんな顔をしているんでしょうか?
あまり頭が働きません。
……。
「お前は俺のことが好きだろ?」
王子が馬車の中の私の顔を見上げて覗き込むように言う。
「はい……」
私は何も考えずに答えてしまう。
王子が息を呑む音が聞こえた。
見ると真っ赤になって私から目をそらして、口に手を当てている王子がいた。
王子……?
「ああ、もういい! 一回しか言わないぞ」
そう言うと王子は馬車の中でひざまずく。
「聖女、愛しています。俺と結婚してください。一生大切にするから、ずっと隣にいてください」
王子が真っ直ぐに私を見て言うけど、いつもの真剣な瞳が揺れている。
私の働かなかった頭に言葉が染みてくる……。
急にパッと周りが明るくなる。
王子が私にプロポーズした!
「王子! 私も愛してます。ずっとずっとそばにいさせてください!」
私がそう言って王子に抱きつくと、王子が少しよろけます。
私の腕の下の王子の身体は鍛えられていて、私が飛びついたくらいじゃびくともしないのに……。
不思議に思って腕の中の王子の顔を見ると真っ赤になっています。
鼓動も早くて、体温も熱い。
……もしかして、王子って攻められるのは弱い?
だから、私に偉そうだったの……?
王子は「ちゃんと聞いたからな」「逃げるなよ」とか言って馬車の扉を閉めます。
馬車と馬、別々に王都に戻ります。
兵士の質や他のやる気もとても大事な事で、王子は私を最優先にして国のことを考える有能でした。
私はこの能力から逃げられない!
私と幼なじみ王子との結婚は確定事項です!
王子は馬に乗りながら馬車に並走しています。
真剣で真面目な王子は、私と目が合うと赤い顔で目を逸らしています。
可愛いです。
人の心をちょっとだけ操るのってこう言う事ですか?
迫るのは、私だっていつだって出来るんですよ?
——ブルッ
自分の心に芽生えた考えに寒気がします。
早く王子に抱きしめて欲しい。
腕の中に閉じ込められる甘い空間で、王子の匂いに包まれて体温と鼓動を感じていたら、何も考えずにすむから——。
鬼ごっこで捕まった私。
だから、今度は私があなたを捕まえる。
そして、ずっと私だけを——。
——。
こうして、二人は結ばれて、幸せに暮らして、王国は長く繁栄し続けております。
◆◇◆
馬車から降りると私は馬を厩舎に連れて行った王子を追いかけます。
「王子!」
そう言って腕に絡みつくと、王子は真っ赤になっています。
「いつも仲がよろしいですね」
「はい!」
馬番のおじさんに挨拶して王子と城に歩きます。
「あら、もう捕まったんですか? 聖女様」
「王子様、聖女様が戻ってこられて良かったですね!」
「聖女様と王子様はいつもご一緒でなければいけませんね」
行く先々で声をかけられてニッコリと挨拶するけど、王子はずっと真っ赤です。
王子に勝てたみたいで嬉しいです。
けど……、自分の中に芽生えた気持ちが怖くて早く抱きしめて欲しいです……。
私はもっと強く王子の腕に絡みついて、もっと鼓動を感じたくなりました。
有能聖女様が反対の回廊から驚いた顔でこちらを見ています。
聖女の役目は完全に有能聖女様にお任せするので、後で王子とご挨拶に伺わないといけませんね。
ふいに王子に腰を支えられて、反対の手で膝から抱き上げられます。
お姫様抱っこです。
王子の顔がとても近くにあって、私を見つめています。
「お前はそう無防備で、前にどうなったか忘れたのか?」
呆れた声です。
「前?」
なんの事でしょう?
「子供の頃に俺がずっと一緒にいて欲しいと言った後で、お前が抱きついてきたんだ」
王子は横を向いて不機嫌そうに言います。
そう言えばそんな事がありましたけど……、私が抱きついて?
『はい……』
私が答えたら、王子は微笑んで遠くを見つめて、王子の大人っぽい横顔に私はドキドキしていたんです。
「お前が抱きついてきたから、俺は……いいのかと思って、キスしたらお前が泣き出して、俺はどうすればいいかわからなくて、遠くを見つめていたんだ……」
……あの大人っぽい王子の横顔って……。
……すっかり忘れていました。
「お前は、俺の妻になる事がどう言うことか分かっているのか?」
そう真剣に顔を覗き込まれます。
それはもう当然、分かっています。
「ギュッて抱き合って、一晩中ずっと一緒なんですよね? もう、私、知ってます!」
「……そ、そうだな……」
王子は固まっています。
やはり攻められると弱いみたいです。
「王子とすぐにしたいです」
私は王子の胸にギュッと絡み付きます。
早く私を王子に閉じ込めて。
(ず、ずっと聖女と抱き合っていられるのか!? 今から!?)
◆◇◆
「お、王子! な、何をしてるんですか!! こんな場所で聖女様を抱き上げないで下さい!!」
「あ、有能聖女様!」
遠くにいたと思いましたが、会いに来てくれたのでしょうか?
私は王子に抱きかかえられたまま言います。
「私は聖女を辞めましたから、今日から有能聖女様だけがこの城の聖女様ですよ。私は王子の妻になるんです!」
「つ、妻!?」
有能聖女様が驚いたと思ったら、後ろにいた人達も一斉に驚きました。
「お、王に知らせないと!!」
なんだか大騒ぎになってしまいました。
(今から、ずっと聖女と抱きあっていられるんじゃなかったのか!?)
「聖女、俺は王と話をしてくる。だから、俺の部屋で待っていろ」
王子が言います。
「……はい。早く来て下さいね、王子」
あ、王子が何もない所でこけました!
大丈夫でしょうか!?
◆◇◆
王や大臣、騎士団長、兵長、『有能聖女が集まっている。
聖女の価値を理解していない無能たちだ。
「聖女と結婚するとはどう言う事だ! 王子」
「追放したばかりなんだぞ!」
怒っている。
怒っているが、理由を自覚しているのか?
「追放の理由はなんですか?」
俺が聞くと皆戸惑う。
「なんだったかな? 何かあるだろう、大臣」
「王、それが、さっぱり覚えていなくて……」
「また、聖女に操られましたね」
俺が言うと皆、沈黙する。
何度も言っているが、皆、聖女の能力を理解できない。
聖女の能力は、“無自覚に周りを有能にする能力”ではない。
“自覚的に他人を操る能力”だ。
本人が善良で周りの幸せを願っているから、今は国にいい影響を与えている。
ひとたび、追放されたいと彼女が思えば、周りの人間が聖女に理由もなく悪意を向ける。
とんでもなく厄介な能力だ。
「聖女が慰問した兵舎の詳細なデータはでたか」
聖女が慰問した先の優秀なデータに皆が息を飲む……。
「これは、ここだけ能力が下がっているが……」
俺が聞くと兵士長が答えた
「それは聖女の来た日に喧嘩があったんです。皆が止めずにみていたら聖女様が止めてくれたんですが、聖女は内心怒っている様子でした……」
「それで、おとなしくなるように操って、数日間の訓練成果が上がらなかったんだろう」
わずかな差だがデータ上には現れている。
王は沈黙して考えている。
そして——、
「これほどの力があの小さかった聖女にあったとは……」
「……父上、聖女の力はあなたたちがずっと気づかなかったくらいのささやかなモノです。しかし、この国の能力を底上げする力。敵に狙われないように、この能力は隠すべきです。
無自覚のままで聖女がこの能力を発揮できるように、私にずっと聖女を守らせて下さい」
「王子が小さい頃から聖女と結婚したがっていたのは知っている。婚約もさせたはずだ……しかし……」
王は、また沈黙する。
「王子よ、もう子供の約束ではない。国の最上の至宝として聖女を妻にして守るのだ……これは命令だ」
「はい、父上!」
「皆も聖女には言わずに、至宝であることだけは心得よ」
◆◇◆
早く王子に会いたくて、外に出て待っていました。
「な! なんですか! 私があの聖女より能力が低いみたいに言って……!! あなたが城に私を連れてきたんですよ、王子!!」
有能聖女様が王子に怒っています。
「聖女! 部屋にいろと言ったのに」
王子が私を見つけます。
「ゆ、有能聖女様、私の能力はちょっとやる気を与えるだけなので、有能聖女様がいらっしゃらなければなんの意味もありません!」
「あ、そうですよね」
有能聖女様が自信を取り戻してくれました。
有能聖女様は驚いた様に目を見開く。
「こ、これが、聖女様の無自覚の力ですか!?」
「そうだ、心に素早く作用するが、全く思っていない事じゃないだろう?」
有能聖女様がしばらく考えています。
「……ふ、そういう事ですか。あなたには敵いませんわね」
そう言って去っていきます。
?? 何でしょう?
「お前との結婚の許可が降りた」
「え? 本当ですか? 早く王子の部屋に行きたいです……」
私はまた王子にお姫様抱っこされます。
「王子、いつも元気ですけど、これも私の力なんですか?」
「いや、俺にはお前の力は働かない」
「え? 元気になるって……」
「俺は最初に聖女を見た時に、お前がいるだけで元気になるように壊されてるんだよ」
そう言って王子は私にキスします。
私も、きっと王子に壊されてる。
元気になりました!
(ずっと聖女と、一晩中……)




