0.2 < >
絵本第二章
1.神は世界をさらに楽しくしようと人間に何か欲しいものがあるから一人ずつ聞いて回りました
「……お前、私の娘に何してるのよ……」
「……あれ、帰ってきてたんだ」
2.人間達は自分が欲しいものを1つずつ神に伝えました
「……離れろ!私の娘から!」
3.一人は世界を平和にする知恵を。一人は人が豊かになる武器を。
「……ごめんなさい」
「……逃げるな!」
4.そして七人目の最後の一人はより深い感情を望みました。
「……本当に……ごめんなさい」
おしまい━━━━━━━━━
☆
「……なぁ!俺にだって今は家族がいるんだ!なぁ……!やめてくれ……、お願いします……」
────────声が聞こえる。何処だここは。目の前に誰かいる。
必死に何かを懇願して、もがいてもがいて死にそうになりながら。
だれだ、誰だこれは。顔がぼやけて見えない。体もエラー画面のように不規則に変わっている。
女?男?それとも……
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
また、声が聞こえる。
悲痛と苦しみに悶えた声。何度も聞いたことのある声なのにノイズがかかったように誰かわからない。
いつ聞いた?最近聞いた声。だけどもっと昔にも聞いた声。
何も分からない。
だが、これだけは分かる。不思議と心地よいとも思えるほどの気持ちが今、私にはあると。
<――は嘘つきだね>
後ろで声がした。振り返るとそこに一人の女の子がいる。血に濡れた女の子が。
あぁ……、分かった。全て理解した。ここが何処なのかを。
━━━━━━━━━━━━━また君なんだね
「━━━━━…………く!……ずく!……雫!起きなさい!……始業式もうすぐ終わるわよ」
「……っえ!何!っ痛!」
呼ばれた声でカクカクと落ちていた頭を無理やり起こすと同時に、額にミサイルでも突っ込んできたような衝撃で雫は完全に目を覚ました。
下を見てみると消しゴムが1つ落ちていた。そして目の前の教壇には校長の橘 慧がこちらを向いて、肉食獣のような目で睨んできている。
「……あいつやったな」
雫は堂々と教壇に向かってしっかりと見えるよう思いっきり中指をたてる。
「私がジョンウィックなら殺してる」
「始業式で寝てる雫が悪いのよ。人のせいにしないの」
「はいはい。真面目にするよ」
私達は今、さっきの件で遅れながらも始業式に参加している。
始業式なんて誰も遅れないものを馬鹿みたいに遅れて入りたくないと広君に言ったのだが却下された。
「……それにしてもあの子まだ喋ってるのかい?もう15分くらいたってるだろ」
「残念、今で17分43秒よ。寝てるからそんな間違いするの」
「……よくそんな無駄な事数えてられるな。もしかして暇なの?」
「今まで寝てた雫に言われたくないわよ。……随分うなされてたけど大丈夫なの?」
「……あぁ、大丈夫だよ」
雫はそう言って笑った。あの夢を見てから震えの止まらない手を必死に隠しながら。
今は笑う事しか出来ない。
「お前はまた人を殺すのか?」
あの言葉と共に夢のことを思い出す。妙に頭に残って、こびりついて、忘れようにも忘れられない夢。
悪夢じゃない。かと言って、あれが幸せな夢だとか泣きたくなるような美しい夢だとかそんな事は思わない。
ただ、心地よかった。生まれた時のような、この世界に初めて降り立った時のような感覚。ファンファーレの音が響くような鼓動の躍動。
まさにあの夢は
─────────────狂気だ
人を人とも思わぬ夢。あれを狂気そのものだ。いや……、それ以上のどす黒い何かかもしれない。
私はあの光景がどうしようもなく忘れられない。
そして私はあれを━━━━━━━━知っている。
「いや〜学校でどんな子に会えるかな〜……!神様は楽しみだよ……!」
「……」
雫は必死に話題を逸らす。そんな事で心の奥底からの手の震えが止まらないのを分かっていながらも、ただ今は何か違う事を考えないと雫は壊れると自らが分かっていたから。
「……いや〜今日はいい天気だな〜」
「……そうね。嫌なくらい晴れ晴れしている……」
「ほんとほんと!帰りにスタバでも寄って帰るか!」
雫は笑う。ただ笑う。君に気づかれないように。
ああ、どうしよう。今ちゃんと私、何も無かった今日の朝みたいに、君に笑顔を見せれているかな━━━━━━━━━━
「広君は何す━━━━━━━━━━!」
「……そう言うのいいから。」
「……何が?」
「 ……いつもみたいに元気を装ってるけど、何年雫と一緒にいると思ってるの。ほんとバカ」
そう言うと、広は雫の震える手をそっと包むように握った。
「今雫が考えてる事当ててあげるわ。どうせあの人に言われた事でしょ」
そう言って、教壇にいる慧を指さす。ついでに中指も立てた。
「……」
「図星ね。ほんと、いくらなんでもわかりやすすぎるわ。いつもより暗すぎ」
「……なんの事だい。私はいつも━━━━━」
「……だからそういうのいいから今。人を殺しただのなんだの言われてたけど、私は別にあれ信じてないし。」
広は恥ずかしげもなく、真っ直ぐな目で雫を見ながらそう言った。
「私の知っているあんたは、人間が大好きで大好きでたまらない最高の神様なんだから」
「おいおい!そんなに言わないでくれ……」
「何よ」
「……照れる♡」
「発情してんじゃないわよ!!せっかく私が珍しくはげましてあげたのに!!」
「ごめんって!……でもありがと、さっきの言葉。めちゃくちゃ元気出た!」
「なら良かったわ。雫が困ってるんだったら何時でも助けてあげない事も……ないんだからね!!」
「急なツンデレ」
「……ありがと、広君」
「どういたしまして」
━━━━━━━━━━━━…… 本当に優しいよ君は。だからこそ私は……、君に依存してしまうんだ……。
「はーい君たち〜、今は始業式中だから静かにね〜。これ教育者からの助言」
「怒られたじゃん。広君の声がでかいからだよ」
「悪かったわね。すみませ……って、お姉ちゃん!?」
「久しぶり広ちゃん!愛しのお姉ちゃんでーす!」
☆━━━━━━━━━━━━━━━☆
☆━━━━━━━━━━━━━━━☆
「あのぉ〜……広君……?私とクラス同じで嬉しかったのはよく分かるけどさ……いい加減私の膝に座るのやめてくれないかい?重い……」
「うるさい……イライラするからもう少し座らせて……」
逢坂 広はヤンデレである。
「……なんか言った?」
…これは言い方が悪い気がする。オブラートにいこう。
逢坂 広は私への愛が重い一般的女子高生である。
……ヤンデレじゃないんだ、決して。マトモかと言われるとそうでも無いが。
今日の朝から起こった、おはようの代わりのドアの破壊。登校時の言葉責め。
━━━━━━━━━━この数々でわかる通り、重い。主に愛が。
だがしかし、ここまで愛が重くても人が静かに集まっている中、抱っコアラになった事は1度もない。
何故こんな事になったのか。
「ほら広ちゃん☆自分の席に座るの!お姉ちゃん怒るよ!」
「ほんっっっっっっっっとうに気持ち悪い。私に喋りかけてこないで……」
「教師にそんな口の利き方はめっ!だよ!」
この、目の前にいるプンスカしているお姉ちゃんのせいである。私のお姉ちゃんじゃないよ。私は生涯独り身だ。非常に悲しいね。
このお姉ちゃんは広君の家族……らしい。らしいと言うのは、私自身広君とは昔からの関わりだが家族関係とかそういった内部事情は一切知らないからだ。
広君とはまた違った周りを煌めかせるような黒薔薇のようなサラサラの髪に、全てを煌めかすような澄んだ瞳。
そして、どうにも捉えようのない性格。それになんだか懐かしい匂いがする。
本当に2人ともよく似ている。おそらく本当に姉なんだろう。
だがしかし、悲しいかな。
「ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛(怒りの前歯)!!」
見ての通り、この唸り用。もはや姉というか、人間に対する態度では無い。敵意むき出しの怒りの眼光にして、教室中に響き渡る唸り声。
広君に何があったか聞いても暗い顔をするから聞こうにも聞けない。唯一聞けた話と言えば、今日十数年ぶりに会ったらしいということだけだ。
十数年も離れていてこれとは……、幼少期にどんな人生を送ったらここまで人に敵意をむき出しにできるんだ。しかも、相手は姉だ。
「も〜怖い〜!☆広ちゃんはもっと乙女になろ!」
「死ねっ!」
「………」
やり取り、元い広の暴言大会が始まってかれこれ数分。このやり取り誰かが停めない限り終わらない気がしてきた。
私は早く家に帰って寝たいんだ。こうなったらやるしかない。
「せんせ〜、後で広君がちゅーしてくれるそうなのでさっさとやる事終わらしてください」
「はぁっ!?雫あんた何言ってんの!?」
「えっ!雫さんマジ?」
「マジです。良ければディープな方もおっけいです」
「ディープな方も……?……雫さんマジ?」
「マジです」
雫のその言葉を聞くと広君のお姉さんはニヤニヤしながらスキップをし前の教卓へと向かった。
なんというか、広君もそうだがこの人もこの人でやばいと私の直感がそう告げている。直感じゃなくても見ていれば分かる。
姉妹揃って業が深い。怖いね。
「はーい注目!!おはよーございまーす!☆そしてこんばんわー!☆」
私たちは前を向く。
「今日からこのクラスの担任として1年よろしくー☆!!逢坂 楓頑張ります☆」
「「……よろしくお願いします」」
「特にそこの二人はよろしくねっ!☆」
こうして私たちの学校生活が始まった。
「それじゃあLet's スタートだ」
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「ねぇ雫……」
「なになに広君……」
「その今すぐ倒立しそうな体制をやめなさい。今は授業中よ」
あの波乱の入学式から三日目たった。
三日間学校に通って分かったことは、学校はつまらんということだ。授業意味わかんないし、授業中ずっと静かだし、つまらん。
授業はまるで意味がわからん。なんだ二次関数って。なんだ放物線って。
あれ絶対将来使わないだろ。
「雫ちゃ〜ん……☆授業に何してるの……」
「広君に倒立はダメだって言われたので三点倒立しました」
「やった理由は聞いてないよ〜☆なんで授業中にそんな事やってるのかな〜って」
「暇だったので」
「先生の事舐めてるのかな〜☆」
「はい」
特に私たちの担任にして広君の姉、逢坂 楓の授業は私にとって最もつまらなくて、最も苦痛の時間だ。
「はい、大石さん。ここ解いてください」
この通り、真面目も真面目だからだ。学校だから当たり前だろとかは分かってる。でも、思い出してみろ?
入学式の日のあの姿を。
入学式の時の広君に甘えたダメダメな姿どこいった?
真面目になりすぎだろ。別人かと思ったわ。
一体どっちか素の姿なんだろうか?雫ちゃん気になる。
「雫ちゃん〜☆三点倒立そろそろやめようね〜」
「あっ!ちょ……!」
「えい☆」
雫は容赦なく後ろに倒された。
「いったぁ!後ろに倒すなんて危ないだろ!こんな狭いところで三点倒立してるんだから!」
「自覚あるならやめてね〜☆ちゃんとノートとるの☆」
「なんで私が勉強なんかしないといけないのさ……」
「学校はそういうところだからね〜☆別にやらなくてもいいけど、もうすぐ始まる雫ちゃんがとっ〜てと大切にしてる昼休みが授業になるだけだか☆」
「ぐっ……ずるいぞ……」
その言葉で雫はしぶしぶ椅子へと座った。
昼休み。それは雫の学校生活におけるとっておきの祝福の時間。少し大袈裟かもしれないが、祝福という言葉が1番合っている。
苦痛の勉強、苦痛の静けさ。それは雫の脳にダメージを与えるのに十分だった。
しかし、それを唯一治せる昼休み。
自分の最ウマな美味しい手作り弁当を食べられ、親友の広と談笑。
まさに祝福と呼ぶにふさわしい時間。
そんな時間を授業にすると言われれば、雫とて従うしかなかった。
「やっと落ち着いたのね。ずっと横にオラウータンがいて困ってたから良かった」
「誰がオラウータンだって……?」
「間違えた。チンパンジーだったわね、爆笑」
「あのさぁ……、私はオラウータンでもなければチンパンジーでもないの!」
「人間なら羞恥心てものがあるのよ。普通そんな事授業中に出来ない」
「何言ってるのさ。先生と広君しかこの教室に居ないのに羞恥心なんかあるわけないだろ?」
「何言ってんのよ……この教室には大勢…━━━━」
「……広君、……そろそろ黙ってもらっていいかな。昼休みが無くなる……」
「……分かった」
「……」 「……」
━━━━━━━━━━さっきとはまるで代わり、静けさが教室を包む。
そして、それが続く事1分。
「……」 「……」
「ねぇ広君……」
「授業つまらん」
雫にはじっとする事など出来なかった。カバンから、う〇い棒を出して食べるしまつである。
そんな雫を見て広は思った。
「こいつヤベーな」
そうして、それからも色々とあり10分後。
「終わったぞ!授業!」
「はいお疲れ様でした。次からは私の席の横でう〇い棒を何本もバリボリ食べないでちょうだい」
「はい!」
50分と言う長い授業がようやく終わった。
たいして何もやってないだろとか言われても、そんなのは今の雫にとって右の耳から左の耳に流れる水のようなものだ。
長かった。本当に長かった。長すぎた50分という苦痛だった時間からようやく解放された雫は、喜びのあまり狂喜乱舞していた。
「よっしゃぁぁぁ!」
ようやく待ちに待った昼休みが始まる。ご飯!ご飯!
「広君!お昼食べよう!」
「無理」
撃沈。
「そんな悲しそうな顔しないでよ……、こっちが罪悪感持つじゃない……」
「だって……だって……、一緒に食べたかったもん……」
「ガキか……。あのクソ姉に呼ばれたのよ。遅くなってもいいのなら良いけど、どうする?」
「待つ!」
「それじゃあ、大人しく椅子に座って待ってなさい」
「はい!」
なんとも扱いやすい神なんだろうか。そんな事を胸に押しとどめて広は雫の前をから消えていった。
そして、広が居なくなったことにより再び雫へと訪れる静寂。
「……!」
だが、この静寂はさっきのものとは違い、苦痛では無かった。先生に長々と説教されることも無い。授業をする必要も無い。
ただ広を待っていればいいだけだ。その間、昼休み何をするか決めてたりなんだりできる楽しい時間だ。
「早く来ないかな〜広君〜」
そんな事を呟き、座って待つこと10分がたった。
そろそろ昼休みになにをするかの案も出なくなってきた。1人で考えるのももう限界だ。こうゆう時は寝るに限る。
そうして、雫は机に突っ伏そうとすると優しく肩を誰かが叩いた。広が帰ってきたかと思い振り返るが誰もいない。
「……?」
気のせいだろう。今はそう思うことにした。でも、確かに誰かが雫の肩を叩いた感触が合った。
この学校……、もしかして幽霊でもいるのか?私……そういうのダメなんだよな……
「雫お待たせ」
その声とともに、また誰かが肩を叩いた。
「わっ!幽霊!」
「誰が幽霊よ」
恐る恐る後ろを振り返ると、広が立っていた。良かった……、幽霊じゃなかった……。
「驚かせないでくれよ……。さっき肩を叩いたのも君だろ……全く……」
「何言ってんのよ。さっきのは私じゃないわよ。13番の、さく……さく……さく何とかさんよ。怒ってたわよ、無視されたって」
「何言ってんの広君?さっきのもの君だろ?」
「だから私じゃないって……━━━━━━」
「さっきも言ったけど、この学校は私たち二人しかいないだろ?他に誰もいないだろ?」
「━━━━━━━━━え?」