にーじゅろく
書き溜めするのが向いていないという現実に気付きました。全然書かなくなったちくしょう。そんな訳で書けた分更新します。
自転車操業気質って何/(^o^)\
隔週更新出来たらいいな!!(白目)
がんばりまーす……。
「キャロルお嬢様、そろそろいい加減にしてくださいませんか……?」
留学生専用の寮にて、自室にて明日の授業の為に必要な教科書等の整理をしていた所へ、侍女サマリーによる突然の真剣な物言いに、キャロルはというと子犬のようにコテン、と首を傾げた。
なおこれは彼女の素である。わざとやってる訳じゃないのである。まったく自覚無くこういう仕草が出来てしまうあたり、罪作りというかなんというか。まぁそれは一旦置いておいて。
キャロルと同い年にも関わらず、優しくて賢くて礼儀正しく、なんならキャロルよりも貴族令嬢が完璧に出来そうなくらい、サマリーは素晴らしい人間だ。
手入れが行き届いていないのか、くすんだ赤毛とソバカスで少々野暮ったくは見えるが、スッと伸びた背筋とキリッとした目は強い意志と責任感を感じさせる。
ちなみに彼女はキャロルのために開発された、とあるなんちゃって漢方薬のおかげで、伏せがちだった母の体調が良くなり、その恩に報いるためにキャロル付きの侍女になった、という経緯のある忠誠心めちゃ高な平民の少女である。なお、キャロルはそういう事情など聞かないし誰の話も聞いていないのでまったく知らないのであった。
ともかくそんなサマリーが、ものすごく真剣な顔と態度で、キャロルへと進言している。
その原因に対して、記憶の限り、どれだけ考えても両手で足りないほどの心当たりしか存在していないキャロルには、もはや素直に聞く以外の選択肢など無かった。
「えー、なになに急にどしたんサマリー」
別に急ではないのだが、普段から人の話をあんまり聞いていないキャロルには急だと感じてしまったらしい。雑に教科書をまとめながら、普段通りに問い掛ける。
するとサマリーは、すっと目を細めながら、ハンカチに包まれた何かを取り出した。
「……まず、どうして石ころをポケットに入れて帰ってきてるんです? しかもなんか汚いやつ」
「いやいやいやちゃうねんちゃうねん。それ化石やねん」
小綺麗なハンカチから顔を覗かせる小汚い石を見て、キャロルは大真面目な顔で、貴重なモンやねんで、などとキッパリ反論した。いや、ちゃうねんじゃない。何も違わない。この令嬢は一体何を言っているのだろうか。己が貴族令嬢だということをいい加減思い出して欲しい。
「……では、仮にこの小汚い石ころがお嬢様のおっしゃる化石とかいうものだとして、なぜ土くれも砂も細かい石も丸ごとポケットに突っ込んでらっしゃるんです?」
「そん時ワシめっちゃ急いでてん。堪忍や」
堪忍させようとすな。
「だとしても、こうしてハンカチに包むくらいはして頂けませんか」
「えー? ハンケチどっか行ってもうててんもん。しゃあないやん」
なにもしょうがなくない。なぜこの子は開き直っているのだろうか。
「毎日持たせてるのに!?」
「すぐどっか行くねんもんワシのハンケチ」
百歩譲って、ハンカチが自発的に勝手にどっかに行ってしまう物だとしても、どっかに行かせてしまったのはキャロルである。自己責任だろどう考えても。
「お嬢様……、お願いですからもう少し令嬢としての自覚を……!」
「持っとるよ! リンドブルム子爵家のうら若き乙女、病弱美少女にして王子妃予定の令嬢、キャロル、それがワシ!」
ドヤ顔でキリッと決めているところを申し訳ないが、キャロルの言動からはとてもそうは見えなかった。むしろ不安しかない。どうしようこの子。
「分かってない……! 絶対なにも分かってない……!」
「失敬な! 年頃のおんにゃの子やねんぞ! そんくらいは分かっとるわい!」
両手で顔を覆いながら、今にも泣きそうなほど真剣に嘆くサマリーに、キャロルはというと本気でぷりぷり怒っていた。普段の言動を考えると、なんでお前が怒っとるねん、という感じである。
「……では、お嬢様が秋の国の王妃に内定している、ということはご理解していらっしゃいますか?」
「はぇ? 王妃?」
「そうです」
なんでそうなったか全く分かって居なさそうなキョトン顔で、キャロルは真剣な顔のサマリーを見つめた。
次期王妃になるよりも先に婚約が破棄、もしくは解消されると思っているがゆえのキョトン顔である。
「いや、無理じゃろ」
「いえ、残念ながら、お嬢様は秋の国の王妃殿下になられるのは決定事項かと」
「え、いや、どう考えても無理じゃよ」
キャロル自身、己の中身がアレな自覚があるからこその思考であった、が、しかし。
「……お嬢様、無理とかそういう段階を越えております。このままでは王妃です」
「えっえっ、待って、どゆこと?」
本気で王妃になるなどと、切った後の爪のカケラほども考えていなかった顔である。だからこそ意味が分からなかったらしいキャロルは、完全に大混乱だ。
挙動不審になってしまった主を察して、サマリーは一つ息を吐き出した。
「秋の王子、セレスタイン殿下が、お嬢様の婚約者様ですよね?」
「え、あ、うん。まあ、そう」
不思議そうな顔のまま素直に頷くキャロルへ、サマリーは真剣に続けた。
「では、その秋の国で、殿下が王位継承権第一位であることはご存知ですか」
「へ」
ぽかんと口を開けてぱちぱちと瞬きを繰り返したキャロルは、脳内で、おういけいしょうけんだいいちい、という言葉を三回ほど繰り返した。
結果、いくらキャロルでもそれが『王位継承権第一位』だと理解する事は出来てしまった。
「はぇ……!?」
そしてそれは、彼女の中でようやく己に何が起きているのかを理解した瞬間でもあった。
「……お嬢様?」
「いや、え、いやいやいや、だとしてもさ、ワシとの婚約なんてさ、ほら、無くなるかもしれんやん?」
「あれだけ大事に、それはもう格別に、愛されておられますのに?」
サマリーの言う通り、どう考えても溺愛されているという現状は、いくらキャロルでも理解出来ている。そしてそこで、このままでは王妃まっしぐらだと気付いてしまったキャロルは、ようやく本気で焦り始めた。
「いや、そりゃまあ、アレよ、殿下がワシの本性知らんからよ!」
「ですが、このままではお嬢様は王妃です」
「ひえぇ……!?」
サマリーの言葉に、キャロルは驚愕の表情を全力でやった後、うーんうーんと唸りながら、無い知識から今後の対応を無理矢理に捻り出す。
元々地頭は良いので結論はすぐに出たらしく、キャロルは何かにハッと気付いた顔をして、恐る恐る口を開いた。
「…………つまり、この本性を殿下に晒せば王妃にならんで済む?」
いやなんで????
「……そこは殿下次第ではありますが……」
「よぉーし! 分かった! やってみる!」
いやいやいや、やってみるじゃない、やろうとすな。
「お願いですから、たくさんの人がいる所ではやめてくださいね……?」
サマリーはと言うと、もう思考放棄してしまっているらしい。止めることもなく、遠い目でキャロルを見つめるだけだ。いや止めろよ。諦めんなよ。
「失敬な! ワシにだってそのくらいの分別はありますぅー!」
「ご武運を……」
武運とかそういう問題じゃない。見送ってどうする。
「見とけよ! あっちゅーまに婚約破棄されてやっからな!」
どどーん、とか効果音が付きそうな感じに、キャロルは堂々と宣言した。なんだか嫌な予感しかしないが、改めて考えれば王子がキャロルの本性を知らないままで良いとも思えないので、これはこれでOKなのだろうか。もう分からん。
「出来れば家名に泥を塗ったり傷を付けない方向でお願い致しますお嬢様……」
「分かっちょるわーい!」
本当に分かっているのか疑わしい態度で、キャロルはスキップしつつ机へ向かい、王子を呼び出す手紙を書き始めた。
セレスタイン殿下へ
あなた様に大切なお話があります。
どうかわたくしにお時間を賜りたく存じます。
お手隙の際に、お声をかけてくださいませ。
キャロルより
「よぉし完璧!」
完璧かどうかは若干疑わしいが、まぁ一応はそれなりに貴族っぽくお手紙が書けているのでよし、といったところだろうか。
いそいそと手紙を封筒へ入れると、キャロルはそれをそのままサマリーへ手渡した。
「ほんじゃよろしく!」
「…………かしこまりました」
封蝋を忘れているが、まあ後でサマリーがやるんだろう。恭しく受け取ったサマリーは、やはり思うところがあったのか、小さくため息を吐きながらキャロルの部屋から出て行った。
それを見送ったキャロルはというと、ふんふんふふふんふんと鼻歌混じりに明日のための荷物を整理整頓し始めたのだった。
……どうしよう。不安しかない。




