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【連載版】花粉症令嬢は運命の香りに気付けない。~え、なにここ地獄?~  作者: 藤 都斗


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18/30

じゅーはち

 


「愛しいキャロル。大丈夫かい? あぁ、こんなにも怯えて。かわいそうに」

「ち、ちがいます、その、びっくりしただけで……」


 え、なんかめちゃくちゃ心配されとる。


「は? え? 一体、どういう……」

「生憎と、彼女の婚約者は俺だ。お前は他国の王族の婚約者に横恋慕しただけ」


 困惑してる男子生徒に、キッパリと断言するセレスタイン殿下が眩しい。

 まあ、うん、そうなんよね。別に隠してる訳じゃないのになんでコイツ知らんかったんやろ。まじ不思議。


「そ、そんな、キャロル! 君はそいつを選んだというのか!?」

「え……、というか、あの……わたくし、貴方様とほとんど話したこと、ありません」


 ていうか最近兄者とセレスタイン様以外の男子とほとんど話してないんやが。一番最近だと、なんか肩にトンボ付けてた男子が居たから、そのトンボ捕りたくて誰か知らん男子に声掛けたことはあったけど、それだけなんよな。なおトンボには逃げられました。

 ワシの冬虫夏草実験に命を散らさずに済んで良かったねトンボ。命拾いしたなお前。


「…………フィラキシス様、無関係のご令嬢を巻き込むなんて、感心しませんわね……」


 いや、アンタもワシのこと泥棒猫とか言うてたやん。手のひらドリルか。


「う、うるさい! キャロル! 今からでも遅くない! そんなやつはやめて、僕と共に生きてくれないか?」


 いや何言ってんだコイツまじで。


「…………キャロル、君はどうしたい?」

「なんか、臭いから、嫌です」


 タバコの匂いが移った生乾きの服みたいな腹立つ臭さしてるんよ。鼻詰まってても分かるよね、あの微妙な臭さ。


「えっ」

「……じゃあ、結婚は無理ですわね。彼女にとって、ラインハルト様は、臭い、んですもの」

「そ、そんな……」


 絶句するアホの人に向けて、令嬢からも周囲からもクスクスと嘲笑が湧く。いやそんな虐めんといたげてよ。ワシからすると臭いって感じるだけだから、他の人からするといい匂いかもしれんやん。ほっといたげようよ。


「……それと、婚約破棄、でしたかしら」

「はっ! そうだ、僕はアデラインと婚約など続けられない!」

「分かりました。婚約破棄、受け入れます」

「ふん、やっと自分の立場が理解出来たようだな!」


 お前は何を言っとるんだ。


「あなたがわたくしの運命だと思っておりましたのに、そうでないと仰るのですもの。仕方ありませんわ」

「ふ、ふん!」

「それで。もちろん慰謝料を払って、そして代わりの殿方を探すのを、手伝っていただけるんですよね?」

「は?」


 いや、は? じゃねーよ。その程度のことは当たり前だろアホめ。令嬢ってまじで大変なんだからな。

 毎日のスキンケアに体型維持の為の適度な運動と綺麗な姿勢にする為にコルセットで腹をこれでもかと締め付けながら生活とかなんかもうマジでしんどいんだぞこのアホめ。

 ……なんかちょっと違うこと考えてる気がするけどまあいいや!


「ま、待て、なんで僕がそんなこと」

「あら。だってわたくし、今までフィラキシス家に嫁入りする為に沢山の先生から心血を注ぐように教育を受け、この身を磨き、あなた様の為だけに育てられて参りましたのよ?」


 そりゃそうだ。コイツのために育てられたなら責任はコイツが取らんと。このアホの一存で破棄になるんだしな。当然だな。そらワシに泥棒猫言うわ。しゃーないな。ワシでもキレるもん。ゆるす。


「キャロル、もう行こう」

「え、あ、でも……」

「気にする事はない。俺達には関係の無いことだ」

「…………はい」


 もうちょっと見てたかったけど、婚約者に促されたら仕方ない。

 後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。


 はー、なんとかなってよかったー。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ふいに見掛けたのは、愛しいキャロルの実兄、ローランド・リンドブルム子爵令息その人だった。


「ローランド殿」

「おや、セレスタイン殿下。どうされました?」


 声を掛ければ、落ち着く声で俺の名を呼ぶその響きが、愛するキャロルとほぼ同じで本当に兄妹なのだなと実感する。

 そのままふと、愛しい白金を視線が探してしまった。


「……キャロルは一緒では無いのか?」

「え? あれ、おかしいな、そこに居たはず……」


 驚く彼のその様子から、ついさっきまで共に居たのは明白。にも関わらず彼女の姿は無い。

 その事実に気付いた二人共が勢いよく周囲を見回す。


「アデライン・ストローム! お前の度重なる蛮行は許されるものではない! この場を借りて、貴様とこの僕、ラインハルト・フィラキシスの婚約は破棄させてもらう!」


 唐突に聞こえた声に二人共が同時に背後を振り向いて、見付けた。


「そして僕は、キャロルと婚約する!」

「は?」


 きょとんとしたキャロルから出たそんな声に、自分の殊更低い声が重なった気がした。

 俺以外の他の男の腕の中に、キャロルがいる。

 困ったように眉根を寄せて、迷惑そうに顔を歪めるキャロルも愛らしい。だが、そんなことを考えている場合ではない。


「ローランド殿……あの男は誰だ……?」

「あ、はい、ええと、……あぁ、この間来た夏の国の留学生ですね」

「なるほど、それで俺とキャロルの婚約を知らないのか」


 だが、知らなかったからと言ってこのような蛮行が許されるわけがない。

 よりにもよってあの男は、俺のキャロルに狙いを定めたのだから。

 あの男をどうしてやろうかと思案する間もなく、女がキャロルに向けて喚き散らした。


「ローランド殿、あの女は誰だ」

「同じく夏の国から来た留学生ですね」

「そうか、見たことがないはずだ」


 有難いことに二人共が自分から名乗ってくれている。後日改めて色々と出来るだろう。

 しかし、視線はどうしても愛しいキャロルを追ってしまった。困った顔をして、誰かに助けを求めるように周囲を見回すキャロルが、とてつもなく可愛らしい。


 余りの愛らしさに時が溶けていった気がした。


 そんな中で、どうしても聞き捨てならない言葉が発された。


「アデライン。僕はお前の思い通りにはならない。キャロルと、結婚する!」

「それを俺が許すと本気で思っているのなら、その頭をかち割って、中身を確認しても構わないととるが?」


 キャロルと結婚するのはこの俺で、貴様のような愚物に渡すはずもない。産まれる前からやり直したとしても許さない。消し炭にしてやる。

 そんなことを思いながら言葉を口にしたその時、俺に気付いたキャロルが満面の笑みで俺の名を呼んだ。


 そして、奴の腕が緩んだ隙にまろび出た彼女は、ぽふ、と。

 俺の両腕の中へと収まったのだ。


 ふわり、と彼女の涼やかな甘い香りが鼻をくすぐる。このままずっと離したくない衝動と戦いながら、奴を睨み付けた。

 そのまま彼女の婚約者はこの俺だと言ってやれば、目に見えて狼狽し始める愚物の姿が滑稽で、つい笑みが零れる。

 未練がましくキャロルに声を掛けるも、当のキャロルからはこんな人知らない、とばかりの返答しか出てこない。

 だが優しい彼女はきっと、こんな愚物でも心配するだろう。そう思ってキャロルに聞くと、予想外な言葉が返ってきた。


 臭いから、嫌だと。


 迷惑そうにそう言った彼女は、俺を見て満足気に微笑むのだ。その笑顔が愛おしくて仕方がなかった。


 何か言い合いを始めた愚物共を放置して、キャロルを連れ出す。


 このまま国へ攫ってしまいたかった。だけど、きっと彼女はそれを望まない。


 その時、ふと気付いてしまった。

 卒業なら他の国でも出来るんじゃないだろうか? と。


 そうだ。前回の騒動で、次は無いと断言していたこともある。これも全て学園側の怠慢。

 不思議そうに俺を見上げるキャロルの頭を撫でながら、今後の算段を付け始めたのだった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その後、夏の国からの留学生がどうなったかというと、結局新しい相手を見つけられなかったらしい彼は、慰謝料を倍額払うことで婚約を解消してもらえることになったらしい。

 そんな彼の評判がクソほど地に落ちた結果、次の婚約相手どころか友人すらも見付からないかもしれなかったが、本人は知る由もないだろう。円満解決である。


 そんな事件があった数日後、なぜだか留学することが婚約者により決められてしまいそうになったキャロルだったが、どうせ行くなら冬の国がいいと頑張ってワガママを言った結果、交換留学生として期間限定で冬の国へ行けることになったのだった。


 キャロルとしては全く意味が分からないが、冬の国に行けるということはつまり、その間だけ花粉という滅すべき存在から解放されるということ。

 有頂天になりながら留学の準備を始めるキャロルだった。


 そして、そんなキャロルの付き添いとして同時に冬の国へ留学することになってしまった兄はというと、なんだかげんなりしていた。


「なんで僕まで……」

「そうは言っても、キャロルひとりで冬の国になんて出せる訳ないでしょ?」

「母さま……いや、それはそうなんだけど……」

「ンッフフ~、冬の国とかもう花粉症の楽園よ! 二度と帰ってきたくなくなっちゃうかもしれんね!」


 ご機嫌でクルクルと回りながら冬の国で通う予定の学園のパンフレットを抱き締める妹を窘める兄。


「キャロル……さすがにそれは薄情だよ……」

「だってさー、花粉飛んでない国なんだよ? 最高じゃん?」


 そんな二人を見て、母はやれやれと肩を竦める。


 しかし、キャロルは知らない。

 冬の国の隣には夏の国がある。そして、夏の国からは冬の国へと常に風が吹いており、それが上空で雪となり、冬の国へと落ちていく。

 それはつまり、夏の国の砂埃が冬の国へ落ちていっているということであり、冬の国ではそれを『夏の砂』と呼んでいた。

 簡単に言えば、地球で言う黄砂が舞う国、それが冬の国であった。


 キャロルには、安息の地などなさそうである。


 盛大にため息を吐き出す兄の視界の端で、プークスクスーと若干腹立つ顔して笑っている名も無き神の幻影を見た気がして、唐突な怪奇現象に兄はゴシゴシと目を擦ったのだった。気のせいだよ、きっと。君は幻覚を見ただけさ。



 

ここに来て、とうとうストックが尽きました。(白目)

いや、書いとけよって話なのですが、合間合間のお話書いてたらこの先のお話全然書く暇なくてですね、気付いたらこんなことに……あの、はい、本当に申し訳ございません。

来週からは水曜日に更新出来たらいいなぁって思います。(願望)

が……がんばります……(´;ω;`)


 

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