退院
病院のベッドで1週間がたった頃、医師が信じられないという口振りでルーアンを診察していた。
「身体はもう大丈夫だけど、動かすのにはリハビリが必要だね」
驚愕しながらルーアンに説明する。
蒼羽は死んでいたのだ。確かに死んでいた……それが生き返っている。
そして各所の打撲や傷も完治していた。その驚異的な回復力は常識ではありえない。
そう……信じたくはなかったが、目の前のこれが現実だった。
しかし一度死んだ後遺症で生き返っても筋肉等の動きはぎこちなかった。リハビリ等の訓練が必要だと判断された。実際動きはぎこちなかった。
訓練と言われ、はルーアンは過去を振り返る。体を鍛える事は普通に毎日の日課だった。その説明に対し特に違和感はなく受け入れられた。
しかし、実際の訓練……いやリハビリは想像とは全く違っていた。専門の訓練士が付きっきりで身体の各所を動かしてくれる。
余りにも『体を鍛える』とこの感覚の違いに……ルーアンは逆に戸惑ってしまった。
リハビリも1週間が過ぎると……元々の身体能力が違い過ぎるルーアンはあっさりと目標達成に至り、リハビリ卒業のお言葉を貰った。
その驚異的な回復に対して病院内ではかなり噂になっていたのだ。「奇跡的な回復力の子」「死んだはずなのに霊安室で生き返った」そんな言葉がルーアンの周りでは囁かれているが……至って本人は気にしない。
どこを気にしていいのか分らないのが正直なところだった。
数ヶ月はかかると思われていた入院も呆気なく終わりを迎える。
祖母は朝から病院へやってくるとあーでもないこーでもない、と言いながら忙しなく身の回りを片づけていた。そんな祖母に苦笑しながら眺めているルーアン。
ルーアンは家族と呼べる者が居なかった。だから、こうやって甲斐甲斐しく世話をしてくれることに慣れていない。どうしていいのか分らず只々祖母の行動を眺めているしかなかった。
「蒼羽は病み上がりだから座ってな。おばあちゃんがしてあげるよ」
そう言いながら、きっちり畳んであった衣類等を不思議そうに眺めてカバンへ詰めていく。
「この服は看護婦さんがやってくれたのかい?」
「いや、自分でしたが……」
祖母は訝しげにルーアンを見た。
「あんなに服とか畳んだことが無くぐちゃぐちゃだった子がねぇ……いろいろと変化があったんだねぇ」
じーっと疑惑の目で祖母はルーアンを覗き込んでいる。
ルーアンはそんな祖母の言動を珍しいものを見るかのように眺めていた。