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初めての『疑問』
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それは上官の戯れだった。
男女に対し「どちらかが犠牲になれば残りを助けてやろう」と言うものだった。
ルーアンは男女に銃口を突き付けて、その状況をただ眺めていた。
男の方が震えながら「自分を殺して彼女を助けて欲しい」と懇願してきた。そして女に対して「キミは生き延びてくれ」と笑顔で告げた。女は泣きじゃくり言葉になっていない。
男はただ一言女に「愛している」と告げると瞼を閉じる。
上官は顎でルーアンに指示を出した。
それと同時に一発──、男は頭から血しぶきを上げて倒れ込む。
そして間髪入れずルーアンは女の頭にも一発打ち込む。
それを上官はニヤニヤしながら眺めていた。
ルーアンは無言だったが、何故かその時だけはその『愛している』という男の発した言葉が引っかかっていた。
(自己犠牲の上に何が残るのだ。でも……)
ルーアンは銃を下ろす。
上官が去った後もその場でその男女の死骸をただ静かに眺めていた。
(この男を動かしたものは何なのだろうか)
その疑問は解消することはなかった。