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不可解な提案
「ヒトラーを知っているかい?」
その質問にもルーアンは無言だった。
多彩で膨大な教養も叩き込まれていた。
ルーアンは頭が良い。いや、良くなければ処分されてしまうのだ。
生き残っているということはそういうことだった。
靄は「知っているのは当たり前か」と話を続ける。
「今ここにあの『ヒトラーの魂』が余っている。その罪の贖罪故に誰も受け取らない魂だ。贖罪とは、殺した1100万人の人生という『時間』を償うと言う事だ。その1100万人分の時間を稼ぐことが課せられる。その償いが終われば晴れて『死』が受け取れるのだが……どうするかね?」
「どういうことだ」
ルーアンは初めて口を開いた。
自分の想定していた選択肢とは違う、全く意味不明な提案だったからだ。
「お前は今日処刑される。死ぬと言う事だ。しかし、この提案を受けるなら生まれ変わらせてやる」
「俺は別に死ぬことに対して抵抗はない……」
「本当にそうか?」
その言葉でふと一つの過去が蘇る。
それは捕虜となった男女を自分が『処分』した時の事だった。