45話 “大会“の終わった後・・・
はい!どうも!僕です!今、帝城の大広間で表彰式&閉会式、閉会記念パーティーに参加しています!!
昨日、あの後、寝落ちして目を覚ましたのは2、3時間した後だったんですが、その時は既にお昼はとうに過ぎ、そろそろ夕方になろうかとしていた所でした。
そして、僕が寝落ちした後、家族は父様とカイ兄様達を闘技場に残して、僕を連れて宿泊先のホテルまで戻ってきていて、僕を部屋に連れてきた後は各々事後処理のために色々と忙しくしていたそうだ。その忙しさが落ち着いてきた所に僕が起きてきたので、皆んなが心配しつつも“「おはよう」“と声を掛けてくれた。
僕が起きて少しすると、カイ兄様が事後処理の殆どを終えて帰ってきたのだが、父様は何やら気になる事があって、まだしばらく帰ってこないと言われ、ちょっと気にはなったが、父様は父様でやらなきゃいけない事があるのは仕方ない、と思い、かなり遅めの昼食を軽く取り、家族に僕が寝落ちした後の事を聞いた。
そしたら、次から次へと出てくる新事実。
どうやら、“聖獣“を“神獣“として祀る、“神獣信仰“とも言える信仰は獣人全体のものではなく、一部の王侯貴族、それもかなり古い考えを持った、高位の権力を持ったもの達の中で細々と受け継がれてきたようなものだった事、ここ最近では王家でも、以前僕が、と言うより、ジュールが例の王子にビシッと行った事がきっかけで、その風習は廃れ始めているそう。
そんな風潮に反発し周囲から孤立し燻っていた彼らの所に、今回の計画の誘いがきて、話を何度も聞くうちに、何故かいつの間にか計画に乗っていたらしい。
この怪しい事この上ない状況は、どうも、例の“元邪神教徒“が何かしらの方法で、周りからの賛同を得られず行き場のなかった彼らの心の隙を侵食するように徐々に洗脳していたようで、最終的にはあんなに苛烈な計画にのめり込んで行ったそうだ。(この時に、僕に関して、偏った情報を植え付け、憎むように洗脳していったのだろうと、カイ兄様が言っていた・・・)
そして、例の“元邪神教徒“を最初に引き入れたのは“神狼教“の残党で、去年の騒動の後、“邪神教“の方に“神狼教“が僕に一矢報いたいので協力してほしいと要請したら、最初は渋られたが、何か思いついたらしく、急に途中から協力的になって、最新の“魔道具“の提供もすると言い出し、その“魔道具“の制作者達である元信者達を協力者として派遣してきたそうだ。
他にも、今回の件で“神罰“の対象になった帝国の王侯貴族の中には、数日前の僕の毒殺騒ぎの際に僕がわざと周囲に聞かせた話を聞き、及び腰になって計画から手を引こうとした者達がたくさんいたらしく、計画の中止を進言した人もいたのだが、結局、計画は中止にならなかった。
その強硬な方針について行けなかった数人が、計画本番前には雲隠れして計画に手を貸してはなかったそうだ、でも、毒殺未遂の件には賛同していたと言うことで、ティーナちゃんの捕縛からは逃げることはできず、最終的にあの時の闘技場に連れて来られて、他の人達と一緒に”神罰“は受けていたらしい、だが、意外と“神罰“の内容が軽微なものが多かったとか・・・
そして、やはり最初に“神狼教“から計画を持ち込まれて、真っ先にその計画に乗った、“第二側妃“とその派閥の中心人物達は、かなり厳し目の“神罰“が降りたそうで、帝国の貴族法でも死刑以外で最も厳しい処罰が下り、彼らはもう2度と外に出てくることはないだろうとの事(どこに行くとかは聞いてない)、もちろん、実際の計画の中心人物達である“神狼教“と“元邪神教徒“達には、普通に生活するだけでも苦労するほどの“神罰“が降っているそうだ。
最後に、今回、元々僕に少なくない恨みを持っていた獣人の協力者達には、通常通りの“神罰“が降っており、カイ兄様曰く、計画を実行しアトリーに危害を加えた割にかなり軽い“神罰“で、“神々“の温情があったのではないかとの事だった・・・後、政治的処罰の件は、その時はまだ事情聴取中だった事と、彼らが他国の貴族と言うこともあり、今後、彼らがどのような処遇になるかは国同士の交渉で決まるらしい・・・
「しかし、“アイツら“何の目的で今回の件に積極的に参加したんだろう?最初は渋ってたって言ってたけど、急に協力的になるなんて、やっぱり、“開発した魔道具“の売り込み?それとも、やっぱり僕への嫌がらせ?」
ヒソヒソッ
ソル「どうでしょうね。僕的にはもっと別の目的があったように思えます。例えば、アトリー様に向かって投げられた、例の“ナイフ“、あれに何かあったのではと僕は思いますね・・・」
現在、帝城の大広間で表彰式と閉会式を兼ねた式典が行われている最中、僕は安全の面を考慮されて、前回の開催パーティーの際には交流を主目的にしていたため、使用されていなかったバルコニー状の貴賓室(オペラハウスなどに見られる、大広間の方にバルコニーのように出っ張っていて、それ自体が個室となっている、いわゆるロイヤルボックス)で、他の参加国の王族や外交特使などと同様に、その貴賓室の一つに僕とソル、ジュール達だけがそこに通されて、貴賓室の外は護衛騎士達に警護されながら、一般の部で活躍した選手の表彰式を見ながら、ソルと昨日あった事をヒソヒソと声を潜めて話している。
(中断された学生の部と、一般の部の準決勝と決勝の試合は今日の日中に行われて、全ての試合に決着がついているよ( ^∀^))
「あー、あれか、襲撃のどさくさに紛れて消えた、あの“ナイフ“ね・・・確かに、あの時、格闘戦するために“加護の結界“の効果を最小限にしていたとは言え、“神の加護の結界“を破って、僕に傷を負わせていたからね。何かありそうではある、それに、昨日、父様が帰ってきた時に感じた、“呪詛“の気配の名残、あの時父様は何も言わなかったけど、多分、例の“元邪神教徒“達が口封じされたんじゃないかと思ってるんだよね。それが僕的には今回の“アイツら“の行動の怪しさに拍車を掛けてるんだけど、もし、あの“ナイフ“、あれの性能実験が“アイツら“の本当の目的、だったとしたら・・・」
ソル「っ!・・・それは・・・アトリー様の通常の“神の加護の結界“を破ろうとしているって事ですか!?」
昨日あった事の他に、僕がティーナちゃんに体を貸している最中にしていた会話の内容も共有して、昨日の事後処理後に父様達から聞いた話の中で感じた違和感から、今回の“元邪神教徒“の行動の不可解さを口にした僕に、ソルもその違和感に気づいていて、その上で自分の直感から、昨日、僕の頬を掠めていった“ナイフ“が怪しいと推測した。
その事は僕もかなり怪しさを感じていたのだ、何故ならあの時、僕は舞台の上に上がって格闘戦をすると言っても、“加護の結界“を完全に解除していなかったからだ。
いくら結界の効果を限定し弱めていたとしても、対物理の効果は外してなかったので、ただの“ナイフ“程度なら僕の頬を傷つけることは普通ならあり得ない状況だった事と、昨日の夕方に帰ってきた父様から感じた“呪詛“の気配の件も含めて考えた結果、例の“ナイフ“には“加護の結界“を突破するような何らかの細工がしてあり、その性能実験が“アイツら“の主目的だったのではないかと、考察し、話すと、それを聞いたソルは驚き、“アイツら“の最終的な目的が通常の状態の“加護の結界“の突破なのでは?と、すぐに僕と同じ見解に行きついた。(やっぱり、ソルは話が早くて助かるねぇ(*´Д`*))
「まぁ、あくまで、推測だけどね・・・」
ソル「・・・この事、旦那様には?」
僕はまだ自分の推測の域を出ない話として焦ることはないだろうと、手を軽く振りながらソルを宥めると、ソルは少し考えた後、急に僕にジト目でそう聞いてくる。僕はソッと目を逸らして、
「まだ、言ってない・・・」
と、言うと、
ソル「アトリー様!!?」
「しーっ!!」
ソル「うっ・・・・何故そんな重要な事を旦那様方に黙っているんです!?いつも、いつも、重要なことは早めにご報告をと、いつも言ってますよね!?」ヒソヒソッ
少し大きな声で僕を叱るように呼んだソル、でも、今は表彰式の真っ最中なので、僕は慌てて人差し指を立てて口元にあて、静かにするようにと注意すると、すぐに口を閉ざし、周囲を少し気にして、また声を顰めて僕にお説教し始めた。
「分かってるぅ~、ただ、これを言うと明日からのダンジョン攻略が中止されちゃうかもしれないから、黙ってたんだよぉ~、でも、流石にソルには内緒にはできないかな?って思って最初に話したんだから、許してよぉ~」
いつものようにお説教を始めたソルに、少しふざけた感じでソルの機嫌を取ろうとする僕、するとソルは直感的に僕がこの後も両親にこの事を話す気がないなと気づき、
ソル「っ、僕に最初に話したからとしても許されませんよ!?後でこの事をお聞きになった旦那様達がどう思われるでしょうか?きっと悲しまれますよ!?」
と、顔を顰めて、真剣に嗜めてくる。
「それも、分かってはいるけどぉ~・・・・せっかく皆んなと帝国のダンジョン・・・・楽しみにしてたのに・・・僕の安全第一、って言われたら説得しづらいじゃん・・・それに昨日も怒られたばかりだし・・・」ブツブツッ
ソルに真面目に嗜められてしまった僕は、ちょっと拗ねたように口を尖らせ、駄々をこねるように言い返すと、
ソル「・・・はぁ、・・・アトリー様、後で僕も付き添いますから、ちゃんとこの事を旦那様方にご報告してください。その上で、ダンジョンの件もちゃんとお話になられたら、僕もご許可が得られるように尽力します。それならば旦那様方も無碍にはなさらないでしょう・・・」
と、しょうがない人だと言いたげな表情でため息を吐き、僕が1人で両親に話に行くのが嫌なんだと気づいたソルは、その話をするときは一緒に行って、ダンジョン件は自分も一緒に説得もするからと説得してくるので、僕は、
「・・・はぁ~い、分かった、今日のパーティーが終わったら話すよ・・・」
ちょっと渋々だがその案に乗った。
ソル「約束ですよ?」
「うん・・・」
未だちょっとイヤイヤな感じが出ている僕に、ソルが念押しのように約束を取り付けてくる。そして何で、ここまで僕がこの話を両親に話すのを渋っているのかと言うと、昨日の件で昨夜たっぷり父様からお小言を頂き、母様から懇々と注意をされたからだったりする・・・・(それに、夕食後のデザートもキッチリ抜かれたよ・・・(・Д・))
天華『早めの反抗期ですかね?』
春雷『珍しく駄々っ子のようですね?』
夜月『いや、ただの叱られるの怖いお子様だろ?』
雪花『まぁ、怒られるのが嫌なのはわかりますけどね?』
ジュール『黙ってたら余計に怒られるのにねぇ~』
天華&春雷&雪花『『『ですね』』』 夜月『だな』
(・・・-_-b)
と、ソルとの会話の裏で僕の事をこう評価しているジュール達に、ぐぅの音も出なかった僕であった・・・
「そ、そう言えば、昨日の騒動の後のイネオス達の事は知ってるけど、うちの貴賓席に来ていた王子や王女達はあの後どうしたの?」
ジュール達の念話に何も言えなかった僕は、ソルとの会話の話題を変えることで、その気まずい空気から抜け出す事にした。
ソル「あ、あぁ、フィエルテ王女殿下達の事ですね?昨日、聞いた限りでは、闘技場に魔物達がたくさん出てきたあたりで、貴賓席の外に待機していたあの方々の同行者達が彼らを返せと騒ぎ始めたので、旦那様がその同行者の方々も貴賓席に避難するように呼び掛けたらしいのですが、それを拒否されてしまったそうです。なので、貴賓席の中におられたあの方々にその事を伝え相談した結果、あの方々はこちらに迷惑をかけたくないとおっしゃって、自ら同行者の元に戻り、彼らと一緒に、他の貴賓席の方々同様、帝国兵の避難誘導に従い、そのまま闘技場外へ避難されたそうです」
「そうか、怪我もなく避難できてたらいいけど・・・」
ソル「大丈夫ですよ。ほら、あそこ、右端から続けて三つが彼らの貴賓室になっています。ちゃんと出席されておいでなので、少なくとも大きな怪我などの心配は要りませんよ」
そう言って、ソルが指差す方向にあった貴賓室に、心配していた彼らの姿があった。
「あ、本当だ、ほっ、良かった。元気そうだね。・・・でも、彼らはあの時の僕を見ていたかな?・・・僕が“主神様“に体を貸している時、彼らはどう思っただろうか・・・」
最近、そこそこ交流を持って、よく話す友人と言う程度まで親しい仲になった彼らの無事を確認できたと同時に、今回の件で彼らが自分の事をどのように思っているだろうか、と、考えてしまった。
ソル「・・・・彼らの信奉する“精霊“もまた、“神“ではないですからね。今回の件で明確に“聖獣達“が自分は“主神様“に従う存在だと示しましたが、彼らがその場面を見てなかったとしても、この話はすでに全ての国々に伝わった事でしょう。そうなると、今回の件と似たような状況である、“神“ではない“精霊“を信奉するエルフ種がいる“精霊達“はどのような立場になるのか、少し考える頭がある者達なら少なからずともその考えに行き着いてしまうでしょうね。ある意味、“聖獣達“を信仰していた獣人達より、“精霊達“を信仰の対象にしている年月が長いエルフ種達の方が、このような事態になったときは厄介そうですね・・・」
そう、彼らは彼らの信じる対象があり、それがこの世界の環境を整え支える存在である“精霊“と言う、尊い存在が今回のように否定されてしまったら?と考えに行き着いた時、彼らはそんな変革を起こすきっかけになった僕をどう思うだろうか?また、エルフ種の国々はどのような反応を示すのだろうか?僕はせっかく僕を見ても話が通じる友人が離れていくのではないか?と、少し、心配になってしまったのだ・・・
「そうだよね。最悪の場合、彼らは本国に帰っちゃうのかな?・・・」
ソル「それはあの方々次第でしょうね・・・」
「そう、だよね・・・」
下の階で賑やかに行われている表彰式とは反対に、この貴賓室には暗く重たい空気が流れたのだった・・・・