16話 やっても変わらないから何をしても良いとは限らない
突然、給仕が飲み物を勧めて来たと思ったら、何もない所で何かの壁に阻まれたかのように手に持っていたグラスがぶつかり、その衝撃で飲み物が入ったグラスがひっくり返って、中身を撒き散らしながら床に落ち、グラスは割れてしまった・・・・
ジュール『この匂いは“毒“!!』「ガァゥッ!!」
「「「「「ッ!?」」」」」
「えっ!?“毒“!?」
ズザッ!!
ソル「アトリー様!下がりください!!イネオス!ベイサン!」
イネオス&ベイサン「「分かってる!!」」 ダッ!!
ザワッ!! 「えっ?“毒“??」 「今のなんなの!?」 「何故、グラスが落ちたんだ!?」
ジュールが吠えた時点ですぐに警戒体制に入っていたソルやイネオス達は、僕の言葉ですぐに各々の役割を果たすため、阿吽の呼吸で動き出した。ソルとへティは完全に訓練を受けた人間の動きで僕の警護に徹し、イネオスとベイサンはソルに名前を呼ばれただけで、自分の役割を完璧に理解し“毒“入りグラスを持ってきた給仕を素早く取り押さえに行った、一拍遅れて僕達の行動で周囲が騒ぎ出したが、飲み物を持ってきた給仕は何が何だかわかっていない様子で、呆然としたままの所をイネオス達が来て、ほぼ無抵抗のまま捕まっていた。
「ん?・・・これは・・・ジュール、この“毒“の匂いをさせている人を捕まえて来てくれる?」
ジュール『良いよ♪行ってくる!』「わふっ!」 ダッ!!
「わっ!?」 「きゃっ!!」 「い、今のは!?」 「聖獣様だ!!」
と、ジュールは僕のお願いをすぐに実行に移し、人の群れの中に飛び込むように消えていった。
この時の給仕の様子がおかしいことに気づいた僕は、その取り押さえられている最中の給仕をこっそり“全情報開示“で解析して見たら、この給仕はただ誰かに指示されて僕に“毒“入りのグラスを渡しに来ただけで、あのグラスに“毒“が仕込まれていることは完全に知らなかったのが分かった。なので、この匂いの強い“毒“を仕込んで、給仕に指示を出した者の服にはまだ、この“毒“の匂いが残っていると踏んで、ジュールにその匂いを辿るようにお願いしたのだ・・・
「しかし、この僕に“毒“を使おうとするとはね・・・無駄なことするなぁ・・・ふふっ・・・」
「「「「「っ・・・」」」」」ゴクッ・・・
公にしてはないが、以前、学園であった“公開授業“の時に起こった事件で、僕が“毒“が塗られた剣で怪我をしても平気だったと言う情報は、かなりの人が知っている事だった、なのに、そんな機密とまで言えない情報すらも得ていない人物が僕にちょっかいをかけて来たことに、心底呆れて、呆れを通り越して、こんな茶番と言って良いぐらいの杜撰な計画を立てて、周囲を巻き込み僕の時間をも無駄してくれた人物に怒りが込み上げてきた。そんな内心を押し殺して笑った僕に、周囲の人達は顔色を悪くして息を呑んだ。
ソル「アトリー様、この給仕、どういたしましょう?」
「あぁ、彼は誰かに指示されて来ただけで、“毒“の事は何も知らなかっただけみたいだから、僕からは何もする気はないよ。それに彼はこの帝城の使用人だからね、彼の処遇は帝国側に任せるとするよ」
ソル「そう、ですか・・・分かりました。一応、拘束だけはしておきましょう。「うん、よろしく」・・・イネオス、この縄でその給仕を縛っておいてくれ」
イネオス「分かった。ベイサンちゃんと押さえておいてくれ」
ソルは慣れた様子でいつも常備している縄を“収納“から縄を取り出し、イネオスに渡し、イネオス達も手慣れた様子で、やっと状況を理解したのか自分は関係無いと言って暴れる給仕を縛り上げていく、その様子を見ていると・・・・
?「なんの騒ぎですか?、っ!?」
父様「・・・アトリー、何があったんだい?」
と、ここの騒ぎを聞きつけて、人垣をかき分けながら現れたのは、この国の第2皇子と父様、人が避けて騒ぎの中心が見えた第2皇子は、この状況を見て驚き困惑しているが、父様は同じようにこの状況を見て、冷静に何があったかを聞いてくる、僕は父様に近づいて、この状況を軽く説明したら・・・
父様「・・・なんと言うことだ・・・、第2皇子殿下、早急に犯人の捕縛をお願いできますか?」
第2皇子「えぇ、すぐに動きましょう、団長!すぐに狼の聖獣様を見つけて犯人の捕縛に協力するんだ!!」
団長「はっ!畏まりました!全団員に通達!狼の聖獣様を見つけ次第、その居場所を報告せよ!また、聖獣様が誰かを追いかけるまたは捕まえようとしている場合はその捕縛に協力するように!2人は給仕の身柄を受け取り牢に連れて行け!」
「「「「はっ!」」」」ざっ!
今の状況を聞いた父様は険しい顔つきで、隣にいた第2皇子に犯人の捕縛の要請した、第2皇子はすぐにそれを受けて、一緒に来ていた警備の責任者らしき騎士の人に向かって指示を出す。すると、団長と呼ばれた男性はすぐに自分の後ろをついて来ていた数人の騎士に指示を出した、その内の2人がイネオス達が捕まえていた給仕の身柄を受け取り、残りの騎士はその指示を各所にいる騎士達に伝達するために、第2皇子に敬礼してすぐにこの場から離れて四方に散らばって行った。その直後・・・
ジュール『アトリー!!居たよ!!同じ毒の匂いがする奴!!こいつ多分この大広間から出て行こうとしてる!!』
「!!、父様、ジュールが犯人を見つけたそうです、それと犯人は大広間から逃亡しようとしているようだと」ひそひそっ
父様「!、アトリー、それは大広間のどこら辺かわかるかな?」ひそっ
思った以上に早くジュールから犯人発見と逃亡の可能性の報告が来たので、誰かに聞かれて騒がれないように少し声を落として、すぐにその事を父様に報告すると、父様は冷静に犯人の居場所を確認してきた。
「!、今聞いてみます」
(さっきは教えてくれてありがとう、ジュール、それで、その犯人は今どこにいるのかな?)
ジュール『えっと、ここは、アトリーがさっきまで座ってたところの反対側、お庭が見える窓の近くにある扉に行こうとしてるみたい!」
「父様、あちらです、庭園側の上座の方にいるそうです」
ジュールに犯人の居場所を聞くと、どうやら犯人は大広間の正面入り口から見て、左奥の方向にある使用人達が出入りしている扉に向かって移動しているようで、ジュールはその犯人の後ろをとらえた感じのようだ。そして、僕は父様にその方向を指差し場所を教えると・・・
父様「分かった、・・・殿下、ちょっと宜しいですか・・・」
僕の話を聞いた父様は少し考えた後に頷き、隣にいた第2皇子に声をかけ耳打ちすると、最初、第2皇子は驚きの表情をしたが、すぐに表情を真剣なものにして、そのまま話の続きを聞いた後に、隣にいた団長さんと何やら話し始め、何かが決まったのかまた部下の騎士を走らせた、今度は父様に軽く会釈をして団長さんと一緒に犯人がいる方向に歩いて行き出した。
(そう言えば・・・ねぇジュール、今からこの国の騎士さん達が向かっているんだけど、犯人が逃げないように結界で捕まえておける?)
ジュール『大丈夫できるよ!』
(じゃあよろしく!)「父様、ジュールが結界で相手を封じることができるそうなので、すぐに向かいましょう」
父様が第2皇子と話している間に僕は追加でジュールに犯人の捕縛を頼んだら、ジュールが快く了承してくれたので、僕達もその現場に行こうと父様に言うと、父様は何故か急に、
父様「・・・アトリー、行ってもいいけど、絶対に私達から離れてはいけないよ?」
と、言って来た。僕は意味がわからないけど、素直に、
「?・・・はい、絶対離れません」
と、返事を返したのだが、この時、何故そんなことを言われたのか僕は全く意味を分かってなかった・・・
そうして、犯人が捉えられている方向に父様とソル、イネオス達に何故かいつの間にか僕達のところに来ていた家族とうちの使用人達をゾロゾロ連れて行ってみると、犯人がいる場所にはすでに騎士団らしき人達が周囲を固めていて、その周りには興味津々な様子の人達が取り囲んでいた。
父様「そこを通して貰えるかな?」
騎士「は、はい!」
使用人達が人だかりを避けてくれたので、簡単に中心に辿り着いた。後は犯人がいると思われる場所を包囲し隠すように立っている騎士に、父様が丁寧にお願いすると、騎士は緊張した様子で僕達を包囲の中に入れてくれた。すると・・・
ジュール『ごめんね、アトリー・・・』
「ジュール?どうしたの?」
と、急に僕に謝りながら近づいてきたジュール、いつも上を向いている尻尾が下を向いていて、どこかションボリした様子だ。僕はそんな元気のないジュールを優しく撫でていると、
「「「「「!・・・」」」」」 「やはりか・・・」 「間に合わなかったか・・・」
近くにいたへティや母様達が息を呑む音が聞こえ、父様やお祖父様達が悔しそうにそう呟いているのを聞いて、僕は父様達の視線の先を追って見たものは、この包囲の中央に誰かが倒れている姿だった。
そして、もっとよく見ると、服装はそこそこ上等そうなものを着た、中年の男性で、仰向けに倒れているその表情は苦痛にあがいたような表情をしていて、すでに息をしていなかったのだ。
「これは、“毒“による自害か・・・かなり即効性の高い“毒“のようだ、ジュール、解毒が間に合わなかったんだね?」
ジュール『うん・・・』「くぅーっ・・・」
「よしよし、ジュールは悪くないよ、これを予測できなかった僕が悪いんだ」
ジュール『!でも、私がすぐに解毒してたら犯人死ななかったんだよ?だから、ごめんなさい・・・』「わうわぅぅ」
「・・・うん、じゃあ、お互い様ってことで、もう気にしちゃわないようにしよう?ね?」
ジュール『うん・・・』
ジュールがションボリしていた理由は、自分の目の前で“毒“を含んで自害した犯人を、すぐに治療できなかったことが原因のようだった、その事にいち早く気づいた僕は、ジュールを撫で回し、互いに落ち度があったと言うことで気にしないよう言ったのだが、僕のそんな慰めも今のジュールにはあまり効果がなった。そんな落ち込むジュールを見て、僕は自分も予想できたはずなのに何の対策できてなかったことで、ジュールを悲しませたことを反省したのだった。
「・・・しかし、僕を“毒“で殺そうとしておいて、自分が死ねば何も追求できないだろうだなんてと思っているとは、この犯人かなり楽観的な考えをしてるなぁ、この茶番を計画したのが別にいるなんてすぐにバレるのに、僕の“鑑定“の能力を甘く見てるよね?ねぇ、夜月?」
「「「「「!!?」」」」」 ザワッ!!
夜月『そうだな』「がぅ」
ジュールを悲しませてしまったことを申し訳なく思いつつ、今はこの場でたくさんの人に向かって、わざと聞かせるために、夜月に向かってこう話しかけた。夜月も僕の問いかけにわざわざ声を出して返事を返してくれる。周囲は僕の能力の話になると目を見開きながら驚いたり、それが僕のハッタリなのか事実なのか半信半疑といった感じで互いに顔を見合わせる人達がいる。その中で少々顔色の悪い者達がちらほら伺えるが、今はスルーして話を進める。
「それに、この計画をした人はどうも神々の言葉を軽んじているようだ。神々が僕に施した“加護“はたきに渡るけど、その中で“加護の結界“は僕の害になるものの“拒絶“、斬撃も、魔法も、人の悪意も、それこそ体に悪いとされる物質、特に“毒“などはもってのほか、“僕の害になるもの“、その全てを“拒絶“する。そう言うものだと公表されている、それにもかかわらず、僕を“毒“で害そうとした。と言うことは、これを計画した人は僕に絶対に“毒“が届かないと分かっていて、実行し、実際に僕になんの害もなかった、だから自分は大丈夫だとタカを括っているようだけど、この“結界の加護“以外の“加護“の内容をちゃんと理解していないみたいだね。
何故なら、“神々の加護“に関して以前にも神々が出した警告文の中の、“「僕に邪な心持って近づく事を禁ずる、その禁を破ったもの全てに“神罰“を下す」“と言う一文、これも“神々の加護“の一つだ、今回の件はこの一文に該当していることに気づいていないみたい。わかりやすく説明すると、僕を害そうと実行した時点で、僕に対して邪な心を持っていたって言うこと。
だから、それを計画した者も、賛同し、協力した者達も全員が完全に神罰の対象になると言うの事になるのだけれど・・・しかし、そもそもの話、“神々の加護“の内容を知っているなら、“神々の警告“の内容も知っているはずなのに、何故この計画自体が神々の言葉を軽んじ冒涜した行為だと気づかないんだろう?神様をわざわざ怒らせる人の気がしれないね?」
「「「「「っ・・・」」」」」 「た、確かに・・・」 「私だったら絶対にしない・・・」
天華『本当に呆れてものも言えませんよ・・・』「きゅふぅ・・・」
「・・・そうだね、呆れるよね?それにこの犯人、死んでも確実に神罰は降る、逃げ得とかないのにね?・・・今も僕のことを見守ってくれている神々の寵愛を甘くちゃダメだと思うなぁ・・・」
「「「「「えっ!?」」」」」 「ど、どう言うことだ!?」 「死んでも神罰が降るなんて・・・」
僕が言った言葉に周囲の人たちは衝撃を受け騒然とした。“死んでも、魂は神罰を受ける“、この話は僕が作ったでっち上げとかではなく、以前に神々が愚痴るように言っていた話で、まごうことなき事実である。特に神々に贄として人を捧げてきた宗教団体の者達が、これまでの贄達と共に教徒達自身も殉教する形で贄となって死んだ時は、その魂にそれはもう言葉では表現できないほどの恐ろしい神罰を降したと言っていた・・・
ジュール『この人の魂は事情聴取?情報の抜き取り?の後は凄く厳しい地獄行きだってさ』「わうっ」
「おー、この人の魂は凄く厳しい地獄行きかぁ、その人の魂、無事?だといいね?・・・ん?それともすり潰すつもりでそこに送ったのかな?」
ジュール『わかんない、その魂の強さ次第じゃなかな?』「わぅ?」
「魂の強度次第かぁ、かなり厳しいね?・・・うん、でも、ちょっと考えてみればそうだよね、神々もまだ生きて罪を償う気がある人間には慈悲をかける価値はあるかもだけど、悪いことして死んで逃げた人には慈悲をかける価値は見出せないよね・・・」
と、ほぼ独り言のようだけど、ジュール達と会話していると言った程で、世間話のように会話をすると、
「「「「「ひっ!!」」」」」 「そ、それは・・・」 「死が最も重い刑ではないってことか?」 「その後に1番辛い罰が待っているのか・・・」 ザワザワッ
「しかし、今の愛し子様の仰りようだと、他に指示を出した者達がいるみたいだな・・・」 「じゃあ、この件に加担した者達は残らず、生きてても、死んでも“神罰“を受けるってことか?」 「そう言うことだろうなぁ・・・」 ザワザワッ
「そもそも、なんで愛し子様を狙ったんだよ?」 「そうよね?神罰を受けるって分かりそうなものなのに・・・」ザワザワッ
周囲は僕の話を聞いて、それぞれ思うことがあるようで、色んな会話が聞こえてくる。そして、このざわめきの中で静かに顔色を悪くして冷や汗をかく人達が数人存在しているのを、僕はそっと確認して、目的が達成できたことを確認した。
何故、僕がここまで大勢の前で長々喋ったのかと思った人達いるだろう、これにはもちろん意味がある、僕が“毒“を盛られそうになった時、最初は僕の毒耐性や加護のことすらよく理解してないお馬鹿さんが起こしたのかと思っていたのだけど、よくよく考えていると、帝国という大きな国で真隣にある同盟国で、大きな話題になっている僕の詳細を知らない人がいる訳がない、特に王侯貴族ならむしろ知っていなければならない特記事項なはずだ。
そうなると、僕を“毒“で害そうなんて思う者はいない、でも、わざわざ“毒“を、しかも匂いでわかるような“毒“を使ったのは、何らかの意図があった、と言うことだ、この騒動を計画した者は、この“毒”が防がれる、または通用しない、そう理解していてこの騒動を起こした、実害は出ないと分かっていてこの騒動を起こしたのは、帝国、この国の信用、または、ある特定の人物の名に傷を付けたかった者がいるからだと、少し前に父様が帝国の内情を調べた時に、そのような事を言っていたのを、ジュールに犯人の確保を頼んだ時に思い出したのだ。
まぁ、前情報では“大会”の最中に事を起こす勢力がいると言われていたので、僕は女装までして秘密裏に帝国入りしたのだが、その情報も先日の第3皇子お出迎え事件で、本当に起こるのか?と疑問に思い、また、別の場所で起こるかもしれないと警戒はしていたのだが、今回の“毒“の件は流石にダメだろうと言うレベルに達してしまった。
前情報通りなら、大勢の人達の前で僕に恥をかかそうとする、または大勢の人達を巻き込む騒動を起こす、と言う計画だったと、それが急に方向転換し、僕をピンポイントで狙って、特定の人物の名を貶めることに利用したのが神々の怒りを買うことになったのだ。
そもそも、僕を利用しようと考えた事自体がの間違いだ。それはもうすでに神々の警告文に書かれた禁止事項に触れているのに、それでも計画者はやった。
・・・実害がないからと言ってやっていい訳ではない、そう言うことだ・・・そして、それは神々の言葉を軽んじている行為だと言うことの認識が緩んでいることの実証である。その事をちゃんと分からせるためにあえてこの会話を誰にでも聞こえるように話したのだ・・・
*ちなみに、僕の家族やイネオス達は、僕の意図にすぐに気づいて、ずっと黙ったまま僕の話を聞いていたよ!後、この話をしている最中、ずっとティーナちゃん達の怒りの神気を僕は感じてたよ!!めっさ、怖かった!!( ;´Д`)