7話 まじかぁ
どうも!僕です!“KY男“のせいでかなりご機嫌斜めな僕達でしたが、あの後、数分すると故障した魔道具の代替え機が届いたとかで、すぐに入国審査が再開されて、僕達の順番もすぐに来たので、入国審査を受けるとなんの問題もなく審査をパスし、やっと砦から出て、少し離れた所にある帝国側の国境都市に入る事ができました!
「わぁ、賑わってますね」
母様「そうね、四年に一度の“国際武道大会“が開催されるとあって、各国から色んな人達が訪れているのもあるかもしれないけど、元々この街はかなり栄えているわね。でも、まぁ、ちょっと治安が悪いから気をつけて行動してね?」
「はい」
と、返事をした後に、今さっき出て来たばかりの国境検問所砦の方から強い気配が急に近づいてくるのを感じた。
「!?「バッ!!」・・・何かが近づいて来ている?・・・止まった?」(あれ?何で止まったんだ?)
その気配に気づいて来ていることで咄嗟に警戒し振り返ったのだが、そこには、なんの異変も無い賑やかな街並みがあるだけで、何の変化もなかった。同じ様に気配を感じたのか、冒険者の様な風貌の人達も同じ方向を振り返っていたが、数秒すると何事も無かったかの様にまた動き始めた。うちの人達の中でも気配感知に優れている人達が警戒を強めているが、その強い気配が、何故か今は動か無い事に不思議そうにしている。
ライ兄様「何の気配か分かるか?アリー」
「・・・正確には分かりませんが、強い魔物というのだけは分かります。ただ、っ!?動いた!?上っ!?」
僕に気配の正体を聞いてきたライ兄様に返事を返していると、また強い気配の何かが動き出した。そして、少しすると僕の見ていた方向の上空から群れをなして現れたのは・・・
「“ヒポグリフ“!?・・・隊列を組んでるってことは、野生じゃない、“ボルテ王国“?・・・」
*“ヒポグリフ“とは、上半身が鷲で、下半身が馬といった魔物のことで、“グリフォン“と、同一視されがちだが、この世界では“グリフォン“は聖獣扱いだ。(ついでに言うと、“グリフォン“は、上半身が鷲で、下半身が獅子の姿をしている。)
なので、異世界物の小説で移動手段として定番の契約獣である“グリフォン“の代わりに、下位互換となる“ヒポグリフ“を重用している国が複数存在する、その中で有名なのは、ウェルセメンテ王国から見て遠い北方に位置するリュビ大陸全土を支配している国、“ボルテ王国“が1番有名だ・・・
先程までいた砦には無かった強い気配の正体が、“ヒポグリフ“だったのは分かったが、それが群れで、しかも隊列を組んで飛行していることから、この群れが何処かの国の所属の飛行連隊だと言うことも分かった、だが・・・
(なんで、こんな所にいるんだ?(・・?))
と、当然の疑問が湧いた。
父様「あぁ、あれは確かに“ボルテ王国“の“鷲騎士団“だね、多分今回の“大会“の選手達を移送しているんだろう。地上での入国審査の手続きが終わったから、砦の外で待機していた“ヒポグリフ“を呼び寄せて、それに乗り込みまた移動し始めてこの上を通るんだと思うよ」
「そうなんですね・・・」(そう言えばさっき、最初に気配が近づいて来た時、街の冒険者達がスルーしてたのは、良く日常的にこんな事があるから平気そうだったんな・・・でも、その審査中、騎獣は砦の外で待機って、野放しだったのか?僕達が審査している最中には近くであんな大きな気配はしなかったけど、何処まで離れていたんだろうか?)
天華『・・・そうですね。気配が来た方向が海辺でしたから、そちらに空を飛ぶ騎獣専用の施設でもあったんじゃないですか?』
*後で聞いた話では、帝国ではこう言う騎獣達専用の発着場が検問所から離れた海辺の方にあって、そこで一旦、乗っている人達は騎獣から下ろされるらしい、帝国側の騎獣専門の人達が騎獣の操り手と共に、騎獣の装備などの点検、検査などをして、違法な物の持ち込み等を確認して、その間に一緒に乗って来ている人達は馬車で僕達が通った検問所で入国の手続きをしていたそうだ。操り手の人達は登録制で、元々誰が来るのか申請されているため、その発着場で軽い審査を受けるだけで済むようになっているんだとか、それが終わると、検問所の方に行った人達を迎えに行ってその場からまた移動したんだろうとの事・・・
例外として、操り手の身分が高い人は、絶対検問所の方で入国審査を受けないといけないらしいが、それ以外の操り手の審査が雑なのはちょっと気になるところだ。
ついでにウェルセメンテ王国では、その発着場で操り手と乗客、両方が厳しい審査を受けて、入国、出国の手続きをするので、国境検問所ではその領の所属の空を飛ぶ騎獣以外は見かける事はないそうだ。
(ほー、やっぱり帝国にも外国向けの専用の発着場があるのか?マルキシオス領にも専用の発着場はあるけど、と言う事は、帝国では乗ってる人と騎獣の入国審査は別々なのかな?(・・?)操り手も審査別々なのかな?それだと、騎獣が大人しくしてなさそうだけど・・・あ、近づいてきた!)
この時、帝国のやり方を良く知らなかった僕だが、自分の領地とマルキシオス家の領地の騎獣以外を見るのが初めてだったので、よく観察しようと目を凝らしてみると・・・
「わぁ、先頭の“ヒポグリフ“、大きいですね・・・えっ!?」(さっきのあの人!?)
徐々に近づいてくる“ヒポグリフ“の大きさに感心していると、その中の一際大きな個体の背に乗っている人が見えて、すごく驚いた。何故なら、先程、検問所の中で僕達をナンパしてきた人物が堂々と、その全長3メートル以上ありそうな大きな個体の“ヒポグリフ“操り、この飛行連隊の先頭を切って飛んでいたからだ。
ライ兄様「ん!?さっきの奴だな・・・あれは王族専用の“ヒポグリフ“だな・・・」
「王族専用って・・・あの方、王族の方だったんでしょうか?」
父様「いや、彼はあの“ヒポグリフ“の操り手だろう、身分としては団長格かもね」
ヘリー姉様「王族専用の騎獣を操ってるから、そうでしょうね。でも、以前の大会で見た時は別の方が乗ってらしたのですが、代替わりなさったんでしょうか?」
(へぇー、王族自体は“ヒポグリフ“には乗ら無い感じか、それにしても、あのケツアゴ男、あんないい役職についてるのに僕達に言い寄って来てるなんて、団長の自覚あるのかね?(*´ー`*))
夜月『まぁ、調子に乗ってるんじゃないか?代替わりしたばかりのようだしな・・・』
(そんな感じなんかね?まぁ、これからは関わる事は無いだろうけど・・・(*´Д`*))
とか、言う感じで他人事のような念話をしていると、
バサッバサッ!!
(へっ!!?こっちに降りて来てる!?Σ('◉⌓◉’))
「「「「「っ!!?」」」」」
ドシッ!! 「クエェーーッ!!」
僕達の上空を通り過ぎていくと思われていた“ヒポグリフ“達が急に降下して来て、僕達の前で着地したのだった。
「わぁーっ!!降りてきたぞ!?」 「キャァーーッ!!」 「誰だこんなところで降りて来るのは!!?」 「近づくな!!危ないぞっ!!」 「誰か、警備隊に連絡入れろぉーっ!!」
急に降りてきた“ヒポグリフ“達に周りは阿鼻叫喚と化し、目の前で降りてこられた僕達は、“ヒポグリフ“を刺激しないように無闇に逃げる事はぜず、護衛騎士達が守りに入るのに邪魔になら無いように少し下がったぐらいで、叫ぶこともなかった。同じようにうちの使用人達はそれぞれの主人の周りで素早く守りの体制に入ったのが見えた。
その時、母様は僕やソルを庇うように前に立ち、ライ兄様やヘリー姉様はさらに前で戦闘体制に入った。そのさらに前で父様は乗っている人達の意図を図ろうと警戒しつつ険しい表情をしていた。そんな周囲の動きを感じつつも、僕は降り立ってきた“ヒポグリフ“の行動を観察していると・・・
「クルゥゥーーーッ!」
(あ、これは・・・)
甘えたような鳴き声を上げた後、僕達、いや、正確には僕の目を見て深いお辞儀をしてくる“ヒポグリフ達“・・・そう、どうやら、“いつもの“僕への挨拶、それをするためにわざわざこの場に降りて来ていた・・・
(ダメダメッ!!今日は僕は別人!!ただのそこら辺?の女の子だから!!挨拶はいら無いよ!!。゜(゜´Д`゜)゜。)
その事に気づいた僕は内心大焦りでワタワタしていると、“ヒポグリフ“の行動で大体のことを察したうちの人達は、この今の状況をどうやって収拾をつけるか考え始めた。
ジュール『私が吠えてどっか行かせる?』
春雷『ちょっと、電撃で脅しますか?』
(い、いや、それは逆に目立つからいいかな?でも、どうしたもんか、僕が挨拶か返事を返さないと動く気がなさそうだよねぇ・・・どうしようか・・・(*´Д`*))
見た感じ、向こうは僕の返答をいまか今かと言った感じで待っていることから、そう簡単に動く気がなさそうだ、それを見たジュール達の提案は少々過激で目立つので遠慮したが、その他の解決策が思いつかない僕が頭を悩ませていると・・・
天華『そうですね。念話で今は挨拶できないと伝える事はできますが、それを理解できるかは分かりません、理解できたのなら再度操り手の指示に従うように伝えれば、大人しく操り手に従い動き出すとは思いますが・・・やってみますか?』
(それで、お願い!!( ;´Д`))
と、天華の提案を即効でお願いした。
天華『分かりました。やって見ますね・・・』
「クルゥゥ?・・・グゥ・・・グルッ!」
天華『ほっ、通じました。挨拶はまた今度っていう事になりました。後はどうやってこの場を誤魔化すかだけですね』
(あ、ありがとう、何、あの仕草、可愛いいんだけど!あ、でも今の僕じゃ何もできないから、この場の収集はもう父様に丸投げするしかないよね?)
夜月『だな』 ジュール『だね』 天華&春雷達『『『ですね』』』
天華の念話が届き、その意味が理解できたのか、天華に返答があり、後はこの状況をどう誤魔化すかにかかって来たが、それとは別に、僕は天華と会話をしている時の“ヒポグリフ“の可愛いい仕草にやられて、あの“ヒポグリフ“を撫で回したい衝動に駆られてしまい、事態の収拾に何の提案も思い付かず、潔く父様に丸投げしたのだが、ジュール達も今はただの一令嬢とそのペット達といった立場なので、それには賛成してくれたのだ・・・
そして、父様は一旦、向こうの出方を見る事にしたらしく、黙って向こうが何と言い出すか待っている。向こうは急に自分の制御を離れて地上に降りた“ヒポグリフ“達の行動に困惑しているようで、“ヒポグリフ“達に乗ったままこの状況はどう言ったことだ、原因は何だと何やら言い合いをしている。すると、例の男が痺れを切らしたのだろう、“「理由がわからないことで言い合っている暇はない!!」“と自分の部下達を怒鳴って黙らせた後、後ろ向きに“ヒポグリフ“から降りてきて、くるりとこちらを振り返り作り笑顔でこう言ってきた・・・
“KY男“「皆さん、どうも、我が相棒は私の話を聞いて、気を利かせてコチラに降り立ったようだ。私がデューキス公爵家の女性陣の美しさを語ったばかりに怖い思いをさせてしまって申し訳ない、私達はすぐにこの場を離れるので、どうか許してほしい・・・」
と、後半はちょっと、本当に申し訳なさそうな表情で、意味の分からない理由をつけて謝罪してきた・・・
父様「・・・ふぅ、分かりました。2度とこのような事がないように配慮頂ければ、今回に限り、問題には致しません。後、この場は私達が先に離れますので、そちらはこの事態の説明を警備隊の方々になさった後に、この場を離れた方が国交に傷が入らないと思われますよ」
(わぁお、原因は僕だっての分かってて、丸っと向こうに責任を押し付けた!!( ゜д゜)しかも、今こっちに来ている警備隊の対応もなすりつけたよ!?)
天華『まぁ、側から見たら私達は“ヒポグリフ“の暴走に巻き込まれたようにしか見えませんからね。真っ当な助言をした様に見せたんでしょう』
(いやー、凄いね!父様!!よっ、誤魔化し上手!!(・Д・))
夜月『アトリー、言い方・・・』
“KY男“「む、それはそうだな、ご助言感謝する。本当に申し訳なかった」
と、いう感じで、父様が向こうの意味の分からない言い訳を素知らぬ顔で利用し、この場を切り抜ける事に成功した。かに思えた・・・・
“KY男“「そうだ、先程は名乗るのを忘れていたが、私は“ボルテ王国のヒポグリフ飛翔騎士団“の団長を務める、“アルバート・ケーニヒ・ボルテ“ともうす、一応、現国王の末弟にあたるが、近いうちに公爵位を賜る事になっているので、そう堅苦しく考えないでほしい」
「「「「「!」」」」」
(ま、マジかぁ、まさか王弟だったとは・・・)
急な自己紹介で爆弾を放り込んできた“KY男“改め、“アルバート王弟殿下“に皆んながフリーズしたのは言うまでもない、そして、この後、僕達も挨拶と自己紹介を返す事になったのだが、そこでこれまでに最高に面倒な事になる羽目に・・・・