3話 返却求む
イネオス達が学園の4学年代表に決まったその日の夜、父様との話し合いの結果、帝都への滞在延長を3日だけもぎ取った僕は、今、自室に戻り、今回の件でなぜ帝都での滞在がそれ以上延長できないのかソファーに座ってくつろぎながら考えていた。
「もしかして、帝国で僕の命でも狙っている人がいのかな?」
ソル「・・・いえ、違うと思いますよ・・・」
「え、でも、僕が帝都にいると貴族達が騒ぐから長居出来なんでしょ?」
ソル「・・・いや、その、ですね・・・」
「どうしたの?ソル、そんな言いどもって・・・」
父様に言われた言葉の意味を考えながら、理由を探ろうとして、僕は自分の命を狙っている人がいるのかと思ったのだが、僕にお茶を出しながらソルが否定したので他に何が理由があるのか、理由を聞いても何やら言いづらそうにどもるばかり、それを不思議に思っていると、
夜月:『ソル、これはちゃんと説明したほうがいいと思うぞ、じゃないと勘違いしたまま帝都を散策する事になるからな』
「勘違いって何??」
僕の反対側のソファーでくつろいでいた夜月が理由を知っているのか、僕にちゃんと説明したほうがいいとソルに注意している、でも、その理由が勘違いだと言うのは意味がわからなかった。
ソル「ヤヅキ様、ですが・・・」
夜月:『其方が説明しづらいと言うのなら私がする「あっ!」アトリー、まず、帝国側の貴族達が騒ぐと言うのはな、公に危害を加えるといったことではなく、向こうはアトリーのことを怖がっているんだ、だからあまり長居すると、その恐怖から騒ぎ出す貴族達が出るから、帝都には長居してほしくないと帝国側から言われているのさ』
「・・・へっ!?ぼ、僕が怖いって!?どう言う事!?な、なんで!?僕なんか皆んなが怖がるような事したかな!?」
ソルがまだ説明するのを渋っているのに気がついた夜月が、仕方ないと言う感じで理由を説明すると言うと、焦ったように止めようとして、途中で諦めたソル、僕は夜月の説明を聞いて、ちょっと困惑、なぜなら、僕は帝国中に恐怖を撒き散らすような事をした覚えがないからだ。
天華:『そうですね。したのはしたんですよね。帝国貴族にすれば怖いことを、ただその効果が出過ぎただけで・・・』ボソッ
「ん??帝国側が怖がるような事したかな?・・・あっ!も、もしかして!!」
天華:『あ、気づきましたか。どうやら、去年の騒動の話がいろんな尾鰭をつけて、帝国貴族内で出回っているようで、その話の中にアトリーのしたとされる有りもしない偉業がまことしやかに囁かれてるんですよ』
「はぁ!?何それ!僕、どんな化け物に仕立てられてるのさ!?」
僕の膝の上でくつろいでいた天華が僕が困惑している事に気づき、ボソッと呟いた言葉に僕は少し考えてみると、思い当たることが一つだけあったのだが、それが思った以上の大きな話になっていて呆れ返ってしまった。
夜月:『それがどうも、あの時、帝国側の砦の外にいた徴兵された一般市民や冒険者達が、あの大橋での出来事は直接見てはなかったのだが、アトリーの“神気“に当てられた時の様子を大袈裟に言いふらしているようで、それを聞いた一部の帝国貴族達が見たことのないアトリーの容姿や、その時起こった現象をも妄想を膨らませて、全く事実無根の物語のような話を作り出しているそうなんだ。
だから、アトリーが帝都に来ると聞いたその帝国貴族達は自分達も、いつかあの元公爵家のように滅ぼされてしまうのでは無いかと勝手に怯えて、皇帝にアトリーの帝都滞在をできるだけ短くしてほしいと嘆願するもの達が出て来るほどだったとか・・・』
「・・・自分で偶像の僕を作って、自分で勝手に怯えるとか・・・その帝国貴族達は馬鹿なの?・・・てか、その嘆願を間に受けて、僕の帝都滞在日数の制限をうちに指定してくる皇帝も皇帝だよね?もしかして、僕にビビってるの??」
人の口に戸は立てられないとはよく言ったもので、あの時、あの場所に居合わせた人達が、その場面を実際に見たわけでもなく、感じ取った気配だけで僕を想像し、噂を広めたことで、僕が帝都に長期滞在できなくなったらしい。その話を聞いて諸々理由がやっと理解できたのはいいが、今度はその理由に段々と腹が立ってきて、少々口が悪くなってしまう。
ソル「落ち着いてください。アトリー、今の話は表向きの理由で、本当はアトリー様を思っての処置だったんですよ」
「・・・どう言うこと?表向きって?・・・もしかして、その嘆願騒動に何か裏でもあったの?」
ソル「はい。帝国からの書状の内容と公爵家の“影“の調査内容を精査した結果によりますと、その大袈裟で出鱈目な噂を煽った者がいるとのことで、推測ですが、アトリー様の出鱈目な噂を広めて、アトリー様がその噂を払拭するために、ご自身が表舞台に出てくるように仕向けているふしがあると、それに今回の“国際武闘大会“を利用して、大会に出場すると思われるアトリー様を貶める目的があるような動きも裏であるそうです。」
(ん?どう言う事だろう?確かに、そんな噂を立てられたら、僕だけじゃなくデューキス家の名も陥れる事になるから、僕はその噂を払拭する為に何かしらの対策は行うとは思うけど、そこでなんで僕が大会にでると言う事になったんだろう?まぁ、手取り早く僕の存在を知らしめるにはいい場かもしれないけど…、僕が自分の力を誇示するとでも思われてるのか?
あ、でも、僕が対戦試合などでは加護結界を張らないのを知ってて、襲撃してくるとか?いや、それはないか?以前、各国の使者の前で公開授業をしている時に襲撃にあって、それを退けたのを見てるだろうし、その時の対応で僕の実力は十分知ってるから、そんな襲撃は通じないってこともわかってるはず・・・(*´ー`*)
それに、向こうは僕の事を恐怖の対象のように扱ってるのに、僕が大会に出て力を示せば、その恐怖に拍車がかかるって分かってるはずだよな?・・・(・・?)それなら逆に僕が参加しないのも分かるはずだろ?
・・・あー、でも、そうか、噂では僕を有り得ないくらいの化け物扱いしているようだし、容姿も出鱈目に吹聴しているみたいだもんな、て、事は、相手は僕が大会でちゃんと姿を見せて、実際は無害だとアピールするとでも考えたのか?それとも、何の変哲もない普通の子供を演じるとでも?それで普通の子供っぽく振る舞う僕を見せて、僕が恐れるほどのたいした存在じゃないとでも印象付けたいのか?
と、なると、物理的な攻撃ではなく、印象操作で僕の評判を落とす、または下に見せようとしている?(*´Д`*)でもなぁ~・・・)
「まぁ、確かに、これだけ僕を侮辱するような噂が広まれば、僕自身が公の場に出てその噂を払拭しようとするのが普通だね。それにおあつらえ向きの“大会“があるし、そこに出て、その噂を聞いた僕が噂の払拭の場に選ぶかもしれないってのもわかる・・・でも、それは無理じゃない?」
帝国の要請には理由があると覚悟を決めたかのような様子のソルがそう言うと、その言葉に何やら陰謀の匂いを感じ、僕は顔を顰めその理由の内容を聞くと、どうやら、僕に恨みを持ってそうな相手から、僕は狙われているようだった。それも、肉体的に危害を加えるではなく、僕の社会的な地位を貶める方向のように感じた、そんな思惑も感じたが、それよりも相手の計画が破綻していることを指摘すると、
ソル「はい、その目論見もアトリー様が大会に参加しないことで崩れています。ですがそれを知った相手が何かしらの別の手を打ってくる可能性があるので、新たな行動を起こす時間を与えないために、アトリー様の帝都滞在の日数は大会の開催期間、各国の貴族達が帝都に滞在する平均的な期間が約2週間と想定して、諸々の騒動をギリギリ回避できる想定で通常の半分の1週間、7日までなったと思われます」
と、言って帝都の滞在日数の上限が決まった詳細な過程を説明してくれた。
「ふむ、そう言うことか・・・それなら仕方ないけど・・・それって・・・」
(僕のスケジュールがバレてたら意味なくないか?(*´Д`*))
ソルの話を聞いて、帝都滞在の短さはしょうがないと納得はしたけど、その綿密に立てたスケジュールでも、渡航の際の船の予約や帝都に向かうまでに寄る街などで泊める宿の予約など、諸々の手配の段階で、僕の行動が相手に察知されたら意味がないのでは?と思っていると、
ソル「それに加え、アトリー様の公的な予定は重要な夜会を除いて、いつ帝国に入国するか、どの街道を使って帝都に向かうかなど、その他諸々の全ての予定は皇帝以外には伝えていませんし、大会の観戦もどの席で観戦するかも非公開とされ、アトリー様に関する行程を全て非公開とし、宿の手配なども偽装することで、相手に隙を見せないようにして、今回の大会観戦のための帝国旅行の準備は抜かりなく薦められています」
「お、おぅ・・・そこまでしてるなんて・・・っ、僕ちょっとわがままが過ぎたよね・・・」
父様の気遣いと努力を自分のわがままで旅行を台無しにするところだったことに気づき、僕は自分のわがままを恥じた。
(これは流石に父様に謝罪しに行かないと・・・僕、もう13歳になるのに・・・幼稚園児みたいな僕のわがままに付き合わせてしまった・・・)
ソル「アトリー、その、…ここまで全て包み隠さず、説明してきましたが、まだ今回の旅行で1番重要で、アトリー様にもご協力して頂かなければならない計画の説明をしていませんので、そこまで自己嫌悪なさらなくてもいいですよ・・・・」
「え?僕の協力?」(僕にも何かして欲しいって事?転移魔法とかの話かな?でも、自己嫌悪しなくていいとは?(・・?)なんぞや???)
自分のわがまま具合に自己嫌悪していると、ソルがさっきまでの真面目な様子とは打って変わって、何やら視線を彷徨わせ、また何か言いづらそうに僕に協力して欲しい事があるからと言い、俯いていた僕を慰めてきた。僕はソルはなにが言いたいのかと、不思議に思って顔を上げると、
ソル「はい、今回の滞在延長の話がでる前からある計画で、その計画を踏まえて今までの説明をするようにと、旦那様から申しつけられていたので・・・、その、計画がですね・・・」
「何の計画??」
ソル「それが・・・・・・・・・・・・」
まだ何か言いづらそうなソルに、僕は訝しげに説明の続きを促すと、ソルは意を決した様子で僕にその計画とやらの詳細を説明し始めた。
「えーーーーっ!?な、なんでそんな計画が!?っ、いや、その計画の重要性はわかるけど!!でもなんで今回だけ!?」
ソル「それは今まで国内でしたから、そこまでの警戒が必要なかったんですよ。ですが今回は初めての国外旅行の上、アトリー様を狙っている者達がいると分かっているのですから、念には念をと言う事です」
ソルが僕にしてもらいたい、いや、すること、決定事項になっていた計画の全貌を聞いた僕は、その突拍子もない予想外の計画に頭を抱えて叫んでしまった。
「いやいや、でも、相手は僕の評判を落とそうとしてきてるのに、僕自身がこんな事したら意味なくない!?」
ソル「それは、相手にバレればの話ですよ。それに、この方法でしたら絶対にバレませんから、大丈夫です!」ニコッ!
(おっふっ!開き直ったいい笑顔してんな!?自信満々なのは何なんだ!?てか、さっきまで言いづらそうにしてたのはこのせいだったのか!?しかもすでに決定事項だと!?夜月の勘違いってのもこの事を含んでたのか!?くっそ!!こんな事になるとは!!っ・・・僕のさっきまでの罪悪感を返せぇーーーー!!( ゜д゜))
僕の精神がガリガリ削られそうな計画に、難色を示していると、ソルはこの計画を説明し終わってスッキリしたのか、晴々とした口調で何故か自信満々のやる気に満ちた良い笑顔を僕に向けてくる。
そして、僕はその有り得ない計画がいつからされていたのか全く気付かず、今初めて今回の旅行での自分がすることを聞き、そのしなければならない事が予想外すぎた僕は、これまで帝国への旅行に浮かれて、いろんな手配に奔走してくれていた両親に、滞在延長のことで更なる負担をかけて迷惑をかけてしまったと感じていた罪悪感を返却してもらい気持ちでいっぱいだった・・・・
ジュール達『『『『『(・・・・・)』』』』』ふいっ・・・
そして、この計画をアトリーより少し先に知っていたジュール達と精霊達は、この計画を聞いて頭を抱えるアトリーからそっと目を逸らしたのであった・・・・