2話 無自覚美人
最初は、突っかかって来る人達が多く、厳しい態度で近寄り難い雰囲気を出していたアトリーだったが、最近は特に“野外実習“などの授業でイネオス達以外のクラスメイトと話す機会が増えて、アトリーが自然な表情をするようになった事から、雰囲気が柔らかくなったと感じた学生達が、アトリーの挙動に注目する事が多くなった。そして、そんな成長していき美しさと神々しさがましたアトリーを見て、その魅力に当てられる人達が増えていたりする昨今だが、元々周囲の評価や空気感など全くもって察する気が無いアトリーは、そんな事など気づく事なく、いつも通りに過ごしていたりするのだった・・・・
はい、どうも、僕です。何やら影で言われている僕です。僕の雰囲気が柔らかくなり、親しみが持てるようになったと思われているようですが、実際はただ、ここ最近、やっとヘティの身長を越す事ができて、ちょい浮かれ気味なだけです。
(そう、今年やっとへティの身長を抜かせたのです!!2センチ!!ドンドンパフー!!\( ・∇・)/ヤッホーイ!!何?誤差だって!?そんな事どうでもいいんだよ!!2センチ抜いたことは事実だからな!!)
本当に“ちょっと“、浮かれているだけなんです・・・
そんな内心浮かれポンチでご機嫌な僕を見た周りの人達は、勘違いしているけど、僕は僕、いつも自然体、自分の思うがままに生きているだけ、不愉快な人が近くにいれば不機嫌なだけ、良い事があればご機嫌なだけ、ここ最近ご機嫌なのも、僕を不愉快にする人が減って友達とすごく時間が増えて、楽しい事が続いているからご機嫌なのだ。
なんだかんだ言って、学園でも普通の会話ができる友人が増えた事もご機嫌になった要因ではあるが、そのご機嫌具合でちょこーっと、魅力の効果がある僕の魔力が漏れて周囲に影響が出てたりする。なので現在頑張ってこの魅了効果のある魔力を制御してます。
(でも、魔力が出てなくても色んな人が僕を見て顔真っ赤にしたり、鼻血出したり、どうにかすると鼻血を出しながら倒れたりするんだよね。なんでだろう??(・・?))
この言葉を聞いたジュール達の内緒話・・・・
ジュール(『でた、天然無自覚の八方美人)』
天華『(ですね。やはり無自覚ですね・・・)』
夜月『(そうだな、前世での記憶が関係しているのは確定だろうな・・・)』
ジュール『(前世で?なんで?アトリーの前世での容姿を一回見たことあるし、家族の顔も見たことあるじゃん、でも、誰も変なところなかったよね?むしろ、前世の家族はみんな普通に良い顔してたし?誰かに虐められていたの?)』
天華『(そうですね。虐めと言って差し支えはないでしょう、以前、アトリーが何気なく言った言葉があったので、それが気になってあちらの神々に調べてもらった事があるんですが、どうやら、アトリーの前世での同級生達とのやり取りの中で、自分の容姿とご家族との容姿を比べられていた事があったらしいのですよ)』
そう、以前アトリーが自分の顔を見て顔を赤らめて固まる人たちを見て、ポロッとこぼした言葉にあった、
“「皆んな、やっぱり母様に似ている顔と魔力があるから注目しちゃうのかな?そう思うと今世で母様の顔に似て生まれて僕は本当に幸せ者だよ!」“
と、嬉しそうに微笑んだのだ。その嬉しそうな笑顔の裏に前世での暗い過去が見え隠れしていた事に気づいた天華は、アトリーの前世での世界の神、“天照“にその事で調査依頼をしていたのだ・・・
ジュール『(容姿を比べる?)』
天華『(えぇ、アトリーのご家族は祖父殿が西洋人、こちらで言えば、ゾネオスト国の国民の中にウェルセメンテ王国人の血が入ったかのような容姿をなさってたんです。その血を濃く受けていたお母君から産まれたご兄弟は、父親が違えどそちらの血が濃く出ているのがよく分かるほどで、アトリーはご長女様と同じ父親でしたが、ご長女様がお母君似、次女のアトリーは父親似だったことで、ご家族の中でお一人だけ少し浮いた容姿をなさってたそうなんです。もちろん本当に些細な差でした、ですがアトリーのご家族は容姿の良さから、大変人気がおありで周囲に人が多く集まるような方々だったようです。
そんな方々にお近づきになりたがったアトリーの同級生達が、アトリーとご兄弟を比べて、心無い言葉を投げかけていたらしいのです・・・それも、自分の容姿は万人受けしないと思い込むほどに酷い言葉を・・・)』
そう、アトリーの周囲には他の兄弟と交流を持ちたがった同級生が集まり、アトリーに友人になろうと持ちかけ近づき、仲良く交流するように見せかけて、アトリーが他の兄弟と似ていないと、揶揄ったり、容姿が劣ると言ったり、本当に兄弟なのかと疑ってきたりと、とても本人に直接するような事ではない話をしてきたのだ。その時その言葉を聞いたアトリーは、これは自分に対する“イジリ“だと解釈し、笑顔で受け流す裏で、たくさんの心の傷を負っていた。
そして、天華はこの話を聞いて、アトリーが発したあの言葉は、“今度は美人の母親に似て、ちゃんと家族として認識されてるのが嬉しい“と言う意味だったと気づいた時、とてもショックを受けたのだった・・・
ジュール『(ひどい!!)』
夜月『(あぁ、そうだな、だが、その経験からくるのか、アトリーは強く思い込んでいるんだろう“「今の家族の中で1人だけお母君に似ている自分が珍しいだけだろう」“とな・・・)』
ジュール『(それで、・・・)』
夜月『(多分、元々自分の容姿に自信がないアトリーには、自分の容姿で騒ぐ人の理由がそう言うふうに捉えてしまっているんだ、“美人の母親に似ているから“と…、皆が自分という存在を見ているのではなく、美しく魅力のある母親に似た自分の容姿に興味を持っているんだと・・・後は、加護や血筋がいいから近寄ってくるとでも思ってるんだろうさ、まぁ、そう言う輩が多く集まってきている事は否定はできんが、周りにアトリー自身を見ている人はいないと思ってるのが問題だな・・・)』
ジュール『(・・・最近、イネオス達だけじゃなくて、他のクラスメイトともよく話せるようになったのに・・・お友達が増えても怖がらなくなったと思ったのに・・・アトリーの過去はどこまでも根が深いのがやるせ無いよね・・・)』
天華『(そうですね。アトリーが自分に付き纏ってくる人達に辛辣な態度なのはそう言う経験からくるものなんでしょう。最近は授業の関係で他の方と話をしてみて、その方に悪意がないことに気づいた事で、多少は同級生達との交流も生まれてきてはいますが、まだ、何処かで他人を信用できてないところがあるんでしょう。自分の容姿にも、人との交流の持ち方も、全てにおいて自信がないアトリーが、今の自分を誇れるようになるまで、私達はずっと見守って、アトリーの存在をずっと肯定し続ける、歯痒いですが、それしかできないのですよ・・・)』
アトリーの過去の人生は例の“邪神“のせいで歪められてきた事で、アトリーの心にはあちらこちらに傷か深く残っている、その傷が癒える事がなく、いまだに影を落としていた。
アトリーのいつもの言動は、自由奔放に振る舞っているように見えてどこか歪で違和感があった、それは過去の経験からくる無意識での心の防衛本能からくる心の壁があるからそう言うふうに見えていたのだ。それを無理やり破ることはできない、そう考え、ジュール達はまた強くアトリーを守ると心に誓うのだった・・・・
ジュール達がそんな話をしている最中、アトリー達は・・・
「ねぇ、今思ったんだけど、今年の夏の長期休暇行き先は決まってるよね、でも、僕達の夏の冒険者活動はどうする?」
ソル「あぁ、確かに、どうしましょうか、イナオス達は本戦に出ることは間違いないですし、大会が終わるまでは鍛錬に集中したいでしょうから、その期間は冒険者活動は控えるでしょうね」
へティ「多分、そうなると思います。そうなりますと、確実にイネオス達は夏の長期休暇の前半は一緒に冒険者活動はできませんね。それに、帝国への移動を考えますと私達もそんな暇があるかどうか・・・」
毎年、僕の家は夏休みを利用した家族旅行が定番化しているのだが、その家族旅行に関係なく僕達は夏休みの大半を一緒に冒険者活動しているので、よほどのことがない限り冒険者活動を休んだりしない。
その、家族旅行はその時の父様の仕事によるけど、イネオス達の家の領地だったり、親戚の領地だったりして、毎回皆んなと一緒ってわけじゃない、前回はそれぞれ旅行先が違ったから、僕が転移魔法で皆んなを回収してジルおじ様の領地にあるダンジョンで冒険者活動していた。だが、今回はイネオス達は大会のために集中して鍛錬などに打ち込むだろうと予想される、それに加え、今年は旅行先が帝国の首都に向かう事になっているので、移動日数を考えると今年の冒険者活動する時間はほとんどないだろうと僕達は残念に思っていたのだ。
「そうだよねぇ、帝国の帝都まで行くのに最低でも3週間はかかるからね。その間は自由に動けないし、うーん、今年は合同の冒険者活動は無理かぁ」
エルフ王女「あら、帝国の方のダンジョンに入ったりはなさいませんの?大会が終わってからの帰り道でも行ける場所はあると思いますけど。それに確か帝国の帝都の近くには複数のダンジョンがあると聞いたことがありますから、帝都滞在を伸ばして、大会が終わった後にそちらに行かれてみてはどうですか?」
今年の合同冒険者活動を僕が諦めようとしていた時、エルフ王女がそう言って提案してくれた。
「確かに、帝都近くにダンジョンがあるのは知っていたけど、帝国の滞在期間を延ばすのは盲点だったよ。父様達がすでに旅行の日程を組んでいたからね、大会が終わったらすぐに帰るものだと思ってた。・・・よし、父様達にこの案を話してみよう!そしたら皆んなで冒険者活動できるかも!フィエルテ王女殿下、いい案を出してくれてありがとう♪」ニッコリッ
エルフ王女「えっ、ど、どういたしまして・・・」カァッ!
いつも、旅行の日程は父様達に任せっきりだったので、エルフ王女の案は完全に盲点だった。
(早速今夜にでも父様に提案してみよう!( ^∀^)ふふっ、もし提案が通ったら、初めての国外のダンジョンに入れるかも♪)ふふっ
エルフ王女の提案でご機嫌になった僕は、今、周囲の人達が自分の満面の笑みで固まっていることなど全く気づくことなく、その後も終始笑って試合を観戦しているのだった。
アトリーの反応を見て、少々困った様子の人達・・・
ソル「あぁ、あれはもう止まりませんね。帝都滞在の延長が却下されるかも知れない事など考えてもないでしょうね。これは旦那様も頭を抱えるんじゃ・・・」
へティ「そうでしょうね。アトリー様は帝国でご自分がどう噂されてるかなんてお気になさってないでしょうから・・・」
と、ご機嫌なアトリーの後ろでそんなことを話されていたりした・・・
その時ジュール達は・・・
天華『(これはもう行く気満々ですね)』
夜月『(だな、初めての国外で、初めてのダンジョンと来れば、これは行くしかないと思ってる事だろうさ。自分が帝国の王侯貴族内で恐れられているとも思わず、そんな自分が帝都の首都に長期滞在すると言うことの意味も分かってないだろうな・・・)』
ジュール『(えー、そこまで気にする必要ないんじゃない?向こうが勝手に怖がってるだけで、アトリーには関係ないじゃん、アトリーは自分がしたいことをしてるだけだし、どこに何日泊まるなんて誰にも決められる必要ないよ?)』
天華『(まぁ、それはそうなのですが、一応、向こうの反応も教えておかないと、面倒なもの達に絡まれかねませんから、それを踏まえて滞在を伸ばすかどうか、もう一度考えてもらったほうがいいでしょう)』
夜月『(そうだな、そこらへんの対応は旅行の日程を決めた、アトリーのお父君に任せたほうがいいだろう・・・)』
天華『(そうですね。アトリーもお父君の言葉なら多少は聞くでしょう。でも、それでも、アトリーが強く望んだ場合は私達はその願いを叶えてあげないといけませんね)』
ジュール『(そうだよ!アトリーのお願いは絶対だもん!それに私はいつもアトリーのしたい事をすればいいと思うよー!)』
夜月『(ジュール、何事もほどほどと言うのが1番なんだぞ?まぁ、だがアトリーの願いには極力応えてやりたいと思うがな・・・)』
ジュール『(もう、夜月は素直じゃないんだから!)』
こんな風にジュール達にも話されていたとは知らずじまいのアトリーは、その日、学園から帰ってから父親に呼び出されて、この件を話し合い、交渉した結果、帝都の滞在日数を3日伸ばしてもらって妥協したのだった・・・・・