105話 それぞれのその時・・・
・・・・・アトリーが“神力“を解放した頃、遠いどこかの世界のどこかの荒野の中心・・・・・
ゴォォォーーーッ!!
激しい風が吹き荒れる場所に1人の小さな少年が立っていた・・・・
?「ん?また強い気配を感じた・・・・やっぱり、これはあの子だよね??」
?2『私には感じられませんが、あなたがそう言うのならそうなんでしょう』
空に向かって投げ掛けた言葉にどこからか答えが返ってきた。その声は落ち着いた女性の声をしているが姿は見受けられない・・・
?「え、そうなの?・・・僕にしか分からないのかな?しかし、ちょっと前もあの子の強い気配を感じたけど、結構頻繁に何か起きてるのかな?怪我してないと良いんだけど・・・」
?3『ねぇ~!!ここであってる?もう、これぐらいで良いんでしょう?』
何かの心配をする少年の耳に、また別の明るく若女性の声が聞こえてきたが、その姿はどこにも無い。
?「あ、あぁ、着いたかな?ちょっと待って、今確認してみるから・・・」
?3『早めにお願いしまーす!!』
?2「もう、そう急かさないの』
?3『えー、だってココ何もなくてつまらないもん!!』
?4『うるさいですよ姉さん、おとなしく返事を待ってください!』
明るく若い女性の声と最初の落ち着いた女性の声が会話していると、また別の凛とした若い女性の声が会話に入ってきた。だが、やはりまたその声の主の姿はどこにも無い・・・
?3『えぇー、妹が姉に厳し~』
妹?4『姉さん!今は仕事中ですよ!真面目にしてください!』
姉?3『ぶぅー、この仕事身動きできないからつまらないわ!!』
妹?4『それでも立派な仕事です!今期は私達の役回りなんですからしっかりお役目を果たしてください!!』
?2『あらあら、2人とも静かにしましょうね』
若い2人の声は兄弟なのか言い合いを始め出したが、落ち着いた女性の声が間に入り2人を止めた。
妹?4『あ!すみません!!』
姉?3『はぁーい・・・』
?2『ふふっ、良い子ですね。ほら、仕上げが始まりますよ』
落ち着いた女性の静止の言葉に素直に従う2人の姉妹の声、そんな中、先ほどから会話にも入らず身動きしていなかった少年が動きを見せた。
?「よし、確認が取れた、位置はバッチリだよ!そのまま皆んな動かないでね、いくよ!」
そう言って大きく息を吸った少年は大地に手を当てて集中した。そして・・・・
・・・・“「・・・甦れ・・・」“・・・・
一言、押し当てていた手元に強い力が込められ大地に注ぎ込まれていく。
・・・・“「・・・芽生えよ・・・」“・・・・
二言、大地に置いた手の指の間から突如として草花が芽吹きだし、指の数センチ先に可愛らしい大きな双葉の芽がぴょこんっと飛び出した。
・・・・“「・・・育て・・・」“・・・・
三言、すると、出てきた芽がぐんぐん育ち初め、あっと言う間に少年の目の前で30メートルにもなる大樹へと育った。
「ふぅ、できた、でも、ちょっと低すぎたかな?・・・やっぱり、僕じゃうまく行かないな・・・」
そう言って見上げた大樹はもうすでに樹齢何十年かと思われるほどの貫禄を見せてはいるが、少年としてはちょっと物足りなさそうだった。だが、このたった三言の言葉だけで、先程まで風が荒れ狂った荒野だった場所に、この大樹を中心に半径数十キロはある緑豊かな森林が出来上がっていた。
「はぁ、今回はここまでだね。後はココに人避けの結界を張るだけ」
・・・・“「・・・大樹を守れ・・・」“・・・・
少年は少々不満げではあったが、地面についていた手を持ち上げ、緑が溢れた周囲を見渡して、一言ため息を吐き、また力を行使し、この大樹を守るための結界が大樹の周囲を覆った。
「よし、これで、3箇所目だったっけ?この調子でさっさと仕事を終わらせて、あの子に会いに行こう!」
と、気合を入れて、また空に向かって言葉を投げかけ、別の声と会話し同じ作業をし始めるのだった・・・・
・・・・同時刻、ジェムシードの世界の滅び去った国跡地、誰もが立ち入る事に無いような捨て去られた城の地下の大広間・・・・
『ま、まただ、また、あ、あいつの、気配がした、以前よりも、強い気配だ。じょ、徐々に、力が、強まっている・・・早く、し、しなければ、ま、また、我の手の、届かない、場所まで、に、逃げてしまう・・・』
大きな空間の中に途切れ途切れだが低く響き渡る男性の声、ここは廃墟のような城の中とは思えないほど綺麗に保たれた大広間の中央に、禍々しくも豪奢な玉座が一つ、ポツンっと置かれているが、そこには誰の人影もない。その背には円柱状の大きな柱のようなものが聳え立っていた、だが、その柱の中間に、何かが埋め込まれているような装飾が施されており、それが、淡く鈍い赤黒い光を放ちながら、わずかに脈動しているのが見て取れる。
ギィィィー・・・
?「失礼致します・・・」
何かを呟く声が響き渡る中、そこに、1人の若い男性が大広間の大きな扉を開けて姿を現した。その男性は何を考えているか分からない表情で、ゆっくりと中央の玉座に向かって歩き出し、玉座の手前で膝をつき恭しく頭を下げた。
?『な、何ようだ?』
声をかけられた男は下げていた顔をゆっくり上げ、無表情のまま口を開いた。
若い男「・・・フィズィ様、ご報告があります。残念なことに、どうやら、今回の“神狼教“が実行した策は失敗に終わったようです」
フィズィ『あ、あぁ、分かっている。期待はしていない・・・・・・どうやら、こ、これ以上の関与は、あいつの、力を増す要因に、な、なりかねない、お、お前達の、悲願も、い、今の、ままでは、この世界の神どもに、じゃ、邪魔されるのが、め、目に見えている・・・い、今は、我の力を蓄えることに、し、集中しろ、そして、我が、授けた、物の、か、改良を、進めろ、そうすれば、や、奴らの、干渉を、打ち消せる「!」・・・わ、分かったな?わ、我に、今まで、以上の、祈りと、贄を、捧げよ、さすれば、さらなる、知恵を、お前達に、授けてやる・・・・』
若い男「・・・畏まりました。・・・フィズィ様のご指示の通りに・・・」
途切れ途切れで掠れた男の声の主、フィズィは今、自分自身でも感じた強い力の気配が、アトリーの解放した“神力“の気配であったことに気づき、その事で、今までに策を講じて仕掛けた罠が脆くも破れ去った事を悟り、その“神力“の強さが、以前に感じたアトリーの“神力“強さより遥かに強力になってきていることにも気づいた。
大広間に入ってきた若い男から受けた報告にも、さして興味もなさそうに返事を返したと思えば、少し考えた様子を見せて、何か思いついたように指示を出し始めた。その指示を無表情に静かに聞いていた男だったが、話の途中から目を細め、強い興味を示した。
そして、男はフィズィの指示をすべて聴き終わった後に、先程とは違いほくそ笑みながら、また恭しく頭を下げた後、数秒して立ち上がり軽く会釈をして、その大広間からゆっくりと歩いで出ていった。その頃にはもう中央の柱の装飾は何の反応もせずにただの石柱と化していた・・・・
フィズィ(次こそは絶対に、あいつを我の手元に)
そうして、フィズィは深く眠りについた・・・
・・・一方、その頃、大広間を出た若い男・・・・
カツンッ、カツンッ、カツンッ
大広間を出て長い廊下を何やらにやけた表情でゆっくり歩く男。
若い男「ふふふふっ、奴、いや、あのお方はもう切りどきかと思ったが、まだまだ、未知の知識があるようだな、危うく全ての知識をもらい損ねるところだった。(教団やあのお方の悲願とやらには全く興味はないが、あのお方の知識とこの教団の研究施設だけは今は失うわけにはいかない、だから…)ふふふっ、あぁ、まだ見ぬ知識を全て手に入れるまでは、敬い続けて差し上げなければなぁ。ふふふっ、くふふっ・・・」
そう言って、気味の悪い笑顔を手で覆いながらも、なお笑いが止まらない男は、まだ見ぬ、未知の知識に想いを馳せながら自室へと歩いていくのだった・・・
・・・・その頃、アトリーは・・・・
ブルルルッ
「今、なんか寒気が・・・」
“レッサーフェンリル“達を拉致った後、“聖獣・フェンリル“の棲家前で、テントを張って、ティータイムをする前に、服装を“神器の祭事服“から通常の貴族服に変えていた時に、急な悪寒を感じ、自分の肩をさすりながら周囲を伺った。
ソル「お風邪でもおひきになりましたか?」
「いや、そんなことはないと思うけど・・・気のせいかな?」
(何もないし、何かされた感じもないしな?(・・?))
すぐに僕の行動に気づき、風邪をひいたのかと心配してくるソル、また周囲を見回しても何もないので首を傾げて、気のせいだろうと結論づけたが、
母様「まぁ、アトリー、風邪をひいてからじゃ遅いのよ?ほら早くこちらにきて一緒に暖かいお茶を飲んで暖まりましょう?」
と、すでに設置していた結果の中で、用意されたテーブルセットの椅子の横から心配そうに手招きする母様。
「あ、はい、今行きます」
そう言って、テントの中で一応、防寒服に着替えた僕は急いで母様のそばに駆け寄った。
母様「アトリー、疲れてるのではない?」
「いいえ、全然疲れてないですよ。ただ、この景色を見ていたから何となく、寒さを感じただけかもしれません。ふふっ」
母様の隣まで近寄ってきた僕の頬を撫でながら心配そうに顔を見てくる母様に、僕は軽く肩を上げて笑顔で笑った。
母様「まぁ、確かに周囲の景色は真っ白で寒さを感じるかもしれないわね。・・・でも、それ以上にこの景色には美しさを感じるわ・・・」
「そうですね・・・」
僕の言葉に母様も周囲の景色を見回した。寒さを感じる件には同意しながらも、それ以上に今までに見たことのない美しい景色だと、うっとりと見惚れながら称賛する。僕もその感想に同感するが、
(・・・しかし、昨日来た時に“スキル“使ってなかったから気づかなかったけど、自然豊かなところで“真眼スキル“をフル使用したら、精霊達がたくさん飛び回ってたり、他にも色んなものが見えちゃってるから、ちょっと情緒が減っちゃうなぁ(*´ー`*)・・・あ、でも、雪花が嬉しそうに飛び回ってる姿が見れたのはいいかも、やっぱり、雪の精霊だからこういうところがいいのかな?(・・?))
今日は作戦の事があった為、“真眼スキル“の機能を全てオンにしていたので、僕の視界には無数の精霊達の姿と、さまざまな生物が発する魔力までチラついてしまい、先日来た時に“スキル“オフ時の風景を見ていなかったら、母様の感想に同感できなるところだった。
母様「しかし、今回の件で、初めての野外実習が台無しになってしまったわね」ふぅ
「まぁ、仕方ないですよ、あんな事がありましたし、でも、今年中に後2回は野外実習の授業がありますし、それに来年も続くものですから僕はあまり気にしてませんよ」
母様「まぁ、確かにそうね。あ、それに来年は“国際武闘大会“が開催される時期ですもの、それに高学年になると色んな楽しみはまだまだあるわよね♪」
「“国際武闘大会“???」
母様が今回の件で僕の始めての野外実習が台無しになったと残念がっていたけど、僕は数ヶ月に一回の行事なのでそう気にしてないかったというと、母様は急に思い出したのか来年開催される、“国際武闘大会“という行事を教えてくれたのだが、僕はその行事の事を全く聞き覚えがなかったので首を傾げるのだった。
母様「あっ、そう言えばアトリーには言った事がなかったわよね。四年に一度各国の教育機関に属する一定の学年の生徒達が参加する、武闘大会があるのよ。当然、我が国も参加する資格があって、毎回4年生から6年生の各学年の生徒2名、合計6名が選ばれて、そこから更に国中の学校から選出された学生達の中から勝ち抜いた男女2名ずつ、合計4名が国の代表選手として出場し、各国から同じように選出された学生と多々うことになるの、それにね、この“国際武闘大会“は学生だけではなく、一般の人達だけの部門もあって、毎回たくさんの腕自慢さん達が集まる大きな大会になってるのよ」
「へぇ、そんな大会が4年に一回あってたなんて知りませんでした。何だか楽しそうですね♪」
(4年に一回とか、“オリンピック“みたいだな( ^∀^)てか、今までそんな行事、聞いたことなかったんだけど・・・)
母様「ごめんなさいね。アトリー、あなたに今まで教えてなかったのは、あなたが生まれてから開催される場所が毎回、別の国だったから、これまであなたの兄弟が選出されてもあなたを連れていく事ができなかったからなの、それにあなたにそう言う行事があるって話しても、連れていく事ができないって聞いたら悲しませてしまうと思って・・・」
母様は“国際武闘会場“の事を知らなかった僕に丁寧に詳細を説明してくれたので、僕はその話を聞いて前世で行われていた国際的な行事の“オリンピック“のことを思い出して、似たようなものがあるんだな、と思って、今度は自分自身がその行事を見る事ができて楽しみだと思っていると、ふと、今までの生活でその行事の事を聞いた事がないことに気づくと、僕の表情から察したのか、母様が僕の頭を優しく撫でながら悲しそうに謝って、その理由を教えてくれたのだった。
(あー、僕は小さい時から色々狙われていたから、外出はほぼする事がなかったもんな、特に国外なんてもっての他だ、7歳の“洗礼と祝福の儀“以降なんて特に、ティーナちゃん達の加護を持った僕を、虎視眈々と狙っている国なんていくらでもいただろうから、両親も自分が行けもしない行事の話をして悲しませることはないだろうと判断は間違ってはないよな・・・(*´ー`*)むしろ、気を使わせて申し訳なさまで出てきた・・・)
「母様、わかってます。母様達もずっと黙ってるなんて大変な気苦労をなさってたでしょう?姉様達が選出されて大会に出た時なんて、家族でのお祝いとかたくさんお話したいこととかもあったでしょうに、でも、僕を気遣って黙ってくださっていたこと、とても感謝しています。僕のためにありがとうございます」
(数年に一度、学園に通っていた姉様達が夏休みに帰ってこなかった時期があったけど、それが“国際武闘大会“の年だったんだな、同じ時期に父様か母様が数日でかけていなかったし、前回の時はライ兄様とヘリー兄様が選出されて出てたんだろうな。両親揃って出掛けて観戦にしに行ったみたいだったし、兄様達も僕に自慢したりしたかったはずだよね・・・本当、申し訳ねぇ・・・)
母様「アトリー・・・貴方って子は・・・・」ぎゅっ
今までの両親や兄弟の気苦労を考えると申し訳なさが湧いてきて、謝罪と感謝の言葉を言う僕の体を母様は切なそうにギュッと抱きしめてくれた。
「母様、僕、今度は皆んなでその“国際武闘大会“を観に行きたいです!だから、一緒に行くって約束してください!そしたら僕は満足です♪」
僕の先程の言葉では母様はまだ罪悪感が残るだろうと思った僕は、少し面倒なわがままを言うことでそれを誤魔化そうとした、すると、
母様「・・・ふぅ、もう、貴方って子は・・・、いいわ、来年の“国際武闘大会“は、家族全員で行けるようにしましょう。父様にも掛けってあげます」
と、母様は、僕の思惑に乗ってくれて、来年行われる“国際武闘大会“は家族全員で行けることが決定したのだった・・・
「わぁい、やった!ふふっ」(母様が父様にお願いすれば、ほぼ決定、間違いなしだぜ!!٩( 'ω' )و・・・てか、夏開催ってことはいつもの夏の家族旅行の行き先が“国際武闘大会“の開催国に変わっただけだな、うん、・・・ん?あれ?今度の開催国はどこだ?(・Д・))
来年の夏の予定が決定したことでテンション爆上がりの僕、だが、その行き先をうっかり聞くのを忘れたので、
「そう言えば母様、来年の“国際武闘大会“の開催地はどこですか?」
母様「あ、それは、お隣の“ライヒスル帝国“よ」
「・・・そうですか・・・」(ガッツリ行きずらい場所だった、何なら数年後に今回の件のほとぼりが覚めてから、のんびりひっそり観光気分で行きたかったっ!!( ゜д゜))
母様「ふふっ、大丈夫よ、今回揉めたと言っても、帝国側からすると、いつものことのような感じらしいから」
「そう、ですか・・・」
(いいのか?それで、帝国の常識がよくわかんない・・・(*´ー`*))
開催国を聞くと帰ってきた答えがアレで、かなり複雑な気分になった僕に、母様は上品に笑い、いつもの事だから心配ないと答えてくれたのだが、僕はその話を聞いて不安が増したのは言うまでもないと思う。
*この時、やたら静かだったジュール達はどうやら、念話で“神界“にいる神々と連絡をとりながら、今回の関係者たちに降す“神罰“の内容を協議していたらしい。後にその“神罰“の内容を聞いて、僕は“神罰“が降った相手がちょっとかわいそうになったしまったのは内緒だぞ!
(嘘を吐くたびにお腹を壊して下痢する“神罰“とか、嫌すぎる・・・(*´-`))
そして、その後は、これ以上気にするまいと気分を変えて、母様達とあれやこれや談笑しているうちにフェンリルのお説教が終わり、僕はその後存分にもふもふの“レッサーフェンリル“達を撫で回したのであった・・・・・
次回、新章突入!!